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2018.03.09

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マンガ『左ききのエレン』が伝える、「夢と現実」の残酷さ

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夢をかなえ、成功する。これは非常に難しいことだ。誰もが「何者かになる自分」を夢見ては、社会に出て、現実の過酷さ、残酷さに打ちのめされる。上には上がいる。長い人生で、そんなことを痛感した人も少なくないだろう。そんな現実と対峙した時、人は夢を諦めるのか。それとも……?
現在、「少年ジャンプ+」で連載中の『左ききのエレン』(かっぴー 原作、nifuni 漫画/集英社)は、まさに「夢と現実」をテーマにした、胸を抉るような会心作だ。
『左ききのエレン』(かっぴー 原作、nifuni 漫画/集英社)
本作は、原作者であるかっぴーさんがコンテンツサイト「cakes」上で連載していた「左利きのエレン」をリメイクしたもの。原作連載時からその内容が大きな話題を集め、プロのクリエイター陣からも絶賛のコメントが寄せられていた。
舞台となるのは広告業界。代理店に勤める若手デザイナー・朝倉光一(あさくら・こういち)は、いつか成功することを夢見つつ、どうにもならない現実に日々直面している。そして、もうひとりのキーパーソンが、本作のタイトルにもある「エレン」と呼ばれる光一の同級生の存在だ。どうやら彼女は画家として成功し、世界的な成功を収めているよう。本作は、ふたりの現在と高校生時代が交差するように描かれ、才能の有無が如実に対比されていく。
光一には、我々の姿が重なるはずだ。読者のなかにはエレンのように一握りの成功を手にした人もいるかもしれないが、本作に登場する「夢見てるやつが10万人いたとして残るやつは10人がいい所だ」というセリフにあるように、大多数の人間は「そうではない側」に押しやられてしまう。
「経験不足」という理由で、大きな仕事から外されてしまった光一。それでも彼は腐ることなく、「何者かになる」ことを諦めようとはしない。その姿を目にしたとき、読者はどう感じるだろうか。
夢を諦めること。それを「妥協」と呼ぶ人もいれば、「負け」と呼ぶ人もいる。わずかな可能性に賭けてがむしゃらにがんばる姿を「格好悪い」「大人げない」と否定する人もいる。しかし、果たして本当にそうなのか。すでに諦めることを選択した人も少なくないと思う。本作はそれ自体を否定するような作品ではない。ただ、誰の胸にもあった若き日の情熱を丁寧にすくい取った物語からは、泥臭いまでに諦めないことの美しさも感じられるはずだ。
「才能とは何なのか」を残酷なまでにも突きつけてくる本作。これを読んで若き日を懐かしむのか、あるいはあらためて奮起するのか。いずれにしても「夢」というものについて考えさせられる作品である。
五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。


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