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キズが見つかっても、入居後の生活には実質的に影響のないことがほとんどだが……

しかし、内覧会で床や壁に張りつくようにして見つけたキズの大半は、入居して生活が始まれば、それがどこにあったかも意識しなくなるものだ。それどころか、床にも壁にも入居後の生活に伴うキズや汚れが年月ととともに増えていく。不思議なもので、自分が生活してできたキズや汚れは気にならない、あるいは気にしても仕方がないと思うようにさえなる。
何を言いたいかといえば、内覧会でキズを見つけようと必死になることは、マイホームを買ったワクワク感に自ら水を差す矛盾が潜んだ行為、ということだ。見つかったキズを直してもらうのは当然だが、直してもらうためにキズを探すというのは、どこか不毛である。そもそも「さあ、見つけるぞ!」と気合を入れて探してようやく見つかるような些細なキズや汚れは、入居後の生活には実質的に何の影響も与えない。ならば、いっそ気づかないほうがワクワクした気分を害されないだけマイホーム購入の満足感は大きいのではないか、と思うのだ。
新築住宅は、工場のラインで生産される工業製品と違って、現場でさまざまな専門分野の職人さんが分業して手作業で作る、いわば手工業品だ。ゆえに、一つひとつ仕上がりに微妙な差が出ても不思議ではないし、硬く重い工具や機材を使って作り上げていく過程で、もちろん養生はしてもキズや汚れが皆無という訳にはなかなかいかない、そういう商品だと理解しておくことも大切だろう。
住宅は高額な買い物なだけに、新築を買い求めるとなれば、完璧な状態を期待するのが人情だし、以前の筆者もそうだった。だが、それを追求するあまり、せっかくのマイホーム購入の満足感を台無しにしては本末転倒だと、今はそう思う。内覧会では、キズや汚れ、不具合をチェックすることはもちろん大切だが、それだけに血道を上げるのではなく、マイホームとの初対面を楽しむ気持ちの余裕をもって臨んだほうが、結果的にハッピーではないだろうか。
取材・文/山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。


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