大人も知らないニオイの世界 Vol.4
「スメルハラスメント」が問題となるなか、自分のニオイが気になる人も多いはず。一方で、ニオイの感じ方は人それぞれで、人によっては「むしろ好き」という人がいるから不思議。身近なだけに意外に知らない“ニオイ”の奥深い世界を、一緒に深掘ってみませんか?
「スメハラ」をはじめとして、近年ニオイにまつわるさまざまな問題が取り上げられるようになりました。なぜ現代人はニオイをこれほどに気にするのか、臭気判定士で「ニオイ刑事(デカ)」としても活躍中の松林宏治さんに聞きました。
ニオイを気にするのは、生活に余裕のある証拠!?
「その昔、日本でニオイを気にしていたのは、それこそ十二単などを着ているような位の高い人だったと思います。よく平安貴族は“香”を焚いていたといわれますが、それはあくまでも生活に余裕がある方のたしなみで、一般庶民がやっていたことではない。昔はご飯を食べるのが精いっぱいという状況で、ニオイなんて気にしている人はいなかったのではないでしょうか」(松林さん、以下同)。
つまり、現代の“ニオイ問題”は、生活にある程度のゆとりがあるからこその悩みなのかもしれません。ちなみに、ニオイに敏感だからといって、必ずしも嗅覚が優れているわけではないと松林さん。
「嗅覚は、ニオイが“好きか嫌いか”をぼんやり判断するものではなく、危険を察知したり、人や物を判別したりするもの。生まれたばかりの赤ちゃんは母乳のニオイでしか自分の母親を判別していない、というデータもあるのですが、そういう意味でいうと、経験を積んだ大人より、生まれたての赤ちゃんのほうが嗅覚は鋭いのかもしれません」。
現代人が“ニオイ”と上手く付き合うには?
近年はニオイケアとして使う柔軟剤や制汗剤などの“香り”を気にする人も増えてきました。その香りによって気分が悪くなったり、体調を害したりを指す「香害」という言葉も生まれ、昨年は日本消費者連盟が相談窓口「香害110番」を期間限定で開設したことも話題に。
今後は“香り”が“ニオイ”として規制される時代も来るかもしれない、と松林さんは話します。
「例えば、香りに含まれている人工的な成分を受け付けない“化学物質過敏症”の方もいます。化学物質過敏症は、たとえ成分が微量であっても、症状が出てしまう。今は特に規制はされていませんが、もしかしたら昔話題になった“ホルムアルデヒド”のように、その香りを作り出している成分に有害な物質が含まれていたら、将来規制がかかることもあり得ると思います」。
どうやら、ニオイの受け止め方やその対応は時代とともに変わっていくようです。そんなニオイと、これから上手く付き合っていくにはどうすればいいでしょうか。
「なによりも気にしすぎないことが大切です。空間にニオイは必ずあるものなので、体を害するようなニオイでない限りは許容してあげたいものですね」。
生活をする上で切っても切り離せないのがニオイ。毛嫌いして完全に消そうとしたり、香りでごまかしたりするのではなく、“気にしない”という選択肢が正解である場合も少なくなさそうです。
【取材協力】 臭気判定士・松林宏治さん 1976年、愛知県名古屋市出身。1999年、南山大学経済学部卒業後、一般企業を経て2003年、消臭専門会社である共生エアテクノを設立。脱臭装置の設置、悪臭調査と対策提案・設計などを行っている。「クサイに挑むプロフェッショナル」として、“におい刑事(デカ)”の異名で、数々のメディアでも活躍中。2016年、電子書籍『臭気判定士・におい刑事(デカ)が教える!ニオイで女性に嫌われない方法』を上梓。・共生エアテクノ https://www.201110.gr.jp/
・臭気判定士/におい刑事(デカ) におい110番~深呼吸空間を創造します~ https://ameblo.jp/nioideka/取材・文=周東淑子(やじろべえ)