中古リノベ派は、理想の住まいに関する主張を声高に伝えたい傾向が強い
ただし、中古リノベは現時点では新築ほど業界の仕組みが確立されていないので、中古物件を購入してリノベが完了するまでのプロセスで検討者が負う手間は相対的に大きくなる。また、個性的にリノベするほど、将来売るときにその空間に共感してくれる人が現れないかぎり、リノベにかけた費用が資産評価に反映されにくいというリスクもある。ただ、そうした既存の枠組みや常識に縛られることなく、自分にとっての理想の住まいを追求するというあり方も実は左派的に感じるところだ。
筆者は家を買う知人に住まい選びの経緯をよく聞くのだが、これまで話を聞いた知人にはもちろん右派も左派もいる。そして、それぞれと話すうちに筆者はあることに気がついた。それは、右派は「たまたま新築を選んだだけ」という体裁で、購買プロセスをあまり詳しくは語りたがらない人が多く、左派は手間をかけて中古リノベを選んだことを誇り、さらに新築を選ぶ右派を否定する傾向があることだ。
筆者なりにその背景を考えてみると、中古リノベでは物件を見る目やデザインへのこだわりなど、ややプロ的な「造詣」が求められるのに対し、新築は住宅の知識やこだわりが少なくても一定以上の家を確実に買える点で素人的、ということがある気がする。つまり、リノベ左派からすれば住まいにこだわりをもって向き合っている自分たちのほうがあるべき姿で、住宅へのこだわりが薄い新築右派を「わかってない」と見下してしまうのではないか。
一方の右派は、お買い得な中古を探す手間や苦労を避けて、新築の気持ち良さや安心感といった先入観から中古より割高な買い物をしている安易さにコンプレックスを感じている可能性もある。筆者の知人は住宅業界に近い人が多いので、余計にそう感じるのかもしれないが。
ただ、人生における住宅の重要度は人によって違う。なかには住宅のことを考えるより趣味に時間を割きたい人もいるだろう。だから、住宅にこだわりがある人が偉いわけでも、こだわりがない人がコンプレックスを感じる必要も、ない。新築にも中古リノベにもそれぞれの良さがあり、自身の価値観に従って選べばいいだけだ。リノベ左派が家自慢をするのは自由だが新築右派を否定するのは大きなお世話だし、新築右派ももっと堂々としていればいいのに、と筆者は思う。
取材・文/山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。