小泉文夫と中村とうようが監修した『世界の民族音楽シリーズ』というレコードがあります。タイトルに違わず各国の民族音楽の現地録音を収めたこのシリーズ、’70年代の前半から中盤にかけてリリースされていたもので、僕は中古盤で見つけるとよく買っています(わりと安価)。
「オーシャンズコンピ」を最初から読む今回のセレクションはそれをコンパクトにまとめたような内容。民族音楽とせず伝統音楽として、時代や地域に若干の幅をもたせました。当初は世界一周のつもりでしたが、まずはアジア~ヨーロッパ篇をどうぞ!
江差追分––第29回優勝 / 木村香澄北海道・江差町で開催されている江差追分全国大会。木村香澄さんはその第29回の優勝者で、細野晴臣さんの『omni Sight Seeing』の「Esashi」の歌唱はこの方です。実は私、2017年9月に江差を訪れお会いして、色々と興味深い話を伺うことができました。
The Beauty of Lake Tai / Shanghai Sound Sensationお次は数千年の歴史を誇る中国。内モンゴルの奚(けい)族に伝わる「奚琴」という楽器が前身とされ、元の時代になると「胡琴」と呼ばれ、明、清時代に発展した二胡によるなんとも典雅な印象の曲です。演奏は近年のものと思われます。
Khameapothusad / ――
※試聴プレイヤー未対応楽曲
東西交易の要所であったタイの文化は、もともと存在したものとインドや中国の文化が入り混じって育まれてきました。それゆえ、音楽もどことなく中国的な雰囲気のものが少なくありません。こちらはタイの儀式や宮廷で用いられた曲を集めたコンピから。
Nat Bhairavi / Bikram Ghosh & Tarun Bhattacharyaインド音楽に用いられるシタールやタブラはよく知られているかと思います。この曲の演奏はタブラ奏者Bikram Ghoshと打弦楽器サントゥール奏者Tarun Bhattacharya。サントゥールはイランの楽器ですが、インドでも使われるとか。
Karcigar Saz Semai / Kudsi Erguner Ensemble宗教にとって音楽が重要なのは世界共通。旋回舞踊で有名なスーフィー(イスラム神秘主義、現在ではトルコのメウレウィー教団が著名)は舞踊、音楽、詩を尊んでいます。本作はメウレウィー音楽に欠かせない楽器ネイ(葦笛)の名手率いるアンサンブルの演奏。
Arabas Perna / Nikos Mattheou & Giorgos Mattheouトルコから地中海を渡ってギリシアへ。一聴すると、トルコの音楽に近い印象があると思いますが、それもそのはず。ギリシアはオスマン朝が比較的早い時期に支配を開始した地であり、双方の文化の行き来があったのです。音楽から辿る歴史、面白いですね。
Round Apple / Hungarian Dance-House Festival今度は一気に北上してハンガリーの伝統音楽です。現在はマジャル人(ハンガリー人)が多数ですが、歴史を振り返るとハンガリーは元来多民族国家。この曲などはちょっとトルコやギリシアの音楽を彷彿させます。16世紀にオスマン帝国が侵入した影響でしょう。
Dublin Porter/Ballymahon Reel / John & James KellyThe Chieftainsの活動のおかげもあって、ヨーロッパの伝統音楽の中でもアイルランド音楽はよく知られているのではないでしょうか。フィドルの調べが思わず踊りだしたくなる軽快さです。アイルランド音楽はのちにアメリカに渡りカントリー音楽の基にもなりますね。
Über de Rietberg (Jodelländler) / Händlerkapelle Bert Kühne & Bert Kühne
※試聴プレイヤー未対応楽曲
有名どころでいえばヨーデルも忘れてはなりません。スイス、オーストリア、南ドイツといったアルプス地方の民謡とその歌唱法がヨーデル。この歌唱法は、アフリカのピグミーやメラネシアなどにも類似がみられるということです。
Bulerias / Finta Imperio & Edouard Martinez
※試聴プレイヤー未対応楽曲
アジア~ヨーロッパの伝統音楽を巡る旅、ひとまずの最終地点はスペイン・アンダルシアです。フラメンコ音楽と闘牛の発祥の地だそうですが、フラメンコの原型が登場するのは18世紀末頃らしいというから、意外と歴史は浅いんですね。
<プロフィール>青野賢一1968年東京生まれ。ビームス創造研究所 クリエイティブディレクター、ビームス レコーズ ディレクター。ファッション&カルチャー軍団ビームスにおける“知の巨人”。執筆やDJ、イベントディレクションなど多岐にわたる活動を展開中。