ただくつろぐだけでも気持ち良い時間を過ごせ、サーフィンをした瞬間に人生は大きく変わってしまう。ひとつのシーンからそんな海の魅力を発見していくコラム。
「SEAWARD TRIP」を最初から読む今回は「Style is Everything」
神奈川・鎌倉の波をクルーズするのはプロサーファーの小林直海。将来を嘱望される22歳のホープで、ライディング中の姿勢にも注目が集まる個性派だ。
そのシルエットは、たとえ顔を確認できなくても、ひと目で彼だとわかるもの。両膝がくっつきそうなクローズドスタンスは最たる特徴で、狭いスタンス幅は下半身の可動域を制限するが、高い技術がトッププロの座に君臨させている。
そして、この“ひと目でわかる型”が“個性”である。さらに“型”は“スタイル”と訳せるように、小林氏は「個性的なサーフスタイルを持つサーファー」なのである。
近年のプロシーンにこうした個性派は少ない。技の難度が高まるにつれボードは進化し、その恩恵で誰もが操りやすいデザインとなった。テクニシャンは増えたが、型を求道する人材が減った。自由の体現者であるサーファーの没個性化はなんとも皮肉。もっと好きなように波に乗ろうと、小林氏のライディングは教えてくれるのだ。
テイクオフをしたものの、あっという間にライディングが終わってしまうサーフィン。そのため小林氏のように自分だけの型を身に付けるのは至難の業となる。
ちなみに1980年代から’90年代にかけて活躍した稀代のカリスマ、トム・カレンは、その全盛期に「指先までコントロールしている」と言った。3度の世界チャンピオンに輝いた実力者は、波の上の振る舞いにおいても、世界中に多くの模倣者を生み出した個性派だったのである。
ペドロ・ゴメス=写真 小山内 隆=文・写真セレクト