特集「37.5歳はカラダのまがりかど」 飲み会の翌日がきつい、暴飲暴食がすぐカラダに出る……。37.5歳を過ぎると、着実に老いを感じはじめるもの。さて、老いの入り口に立ったオッサンたちはカラダとどう向き合えばいい? 向き合い方のレベルに応じたコラムをご紹介しよう。今回は太っていても様になるオッサンたちに敢えてフォーカスを。そのヒミツに迫ってみた。
カラダの変化に気がついて、「今年こそ何か始めなきゃ!」と思いながらも、東京都心で10㎝も積雪するこの寒さでは「億劫だなぁ」となる気持ちもよくわかる。であればひとまず、出てきた腹のことを少しは肯定するためのイメトレをしてみようと思う。色褪せないハリウッドスターを題材に。
ハリウッドスターだって人間。年齢を重ねれば腹は出てくる、髪の毛だって薄くなる。演じる役柄もヒーローや色男ばかりじゃ、もちろんない。
けど、カッコいい。それはなぜなのか。そこで、クリスチャン・ベール、ジャック・ブラック、ジョン・ファヴローをピックアップし、彼らが演じているキャラクターや仕草から、男のカッコよさのヒントを探ってみる。
〜クリスチャン・ベール〜 太って髪の薄い詐欺師の、色気ある中身と信条に惚れる! まずはクリスチャン・ベール。『ダークナイト』シリーズで演じたバットマン(=ブルース・ウェイン)は、億万長者でプレイボーイ、博愛主義者、そしてウェイン・エンタープライズのオーナー。何ともハイスペックなキャラクターを演じている。
(c) 2013CTMG そんな彼が『アメリカン・ハッスル』では、想像できない姿で登場する。演じるのは5軒のクリーニング店を経営しているビジネスマン──というのは表向きで、裏では盗品や贋作のアートを売りさばく天才詐欺師・アーヴィンだ。映画が始まって10分ほどで衝撃的なシーンを目にする。そのシーンだけ切り取ると、ただのデブでハゲかけのオッサンなのだが、エイミー・アダムスの演じるヒロイン、シドニーは出会った瞬間に恋に落ち、アーヴィンの魅力をこう語っている。
「体はブヨブヨだし、髪は痛々しい一九分けだけど、
雰囲気があって、余裕漂うところに惹かれたの」
(c) 2013CTMG ベタ褒めだ。もちろん、いくらデブで髪が薄いといっても、ベースはクリスチャン・ベールなので顔はカッコいい。けれど、あの腹と髪は元々のクリスチャン・ベールのカッコよさを打ち消すほどのレベルだ。それでもシドニーは彼にぞっこん。彼のために犯罪に手を貸すほど惚れている。なぜそれほど魅力的なのか?
そもそも詐欺師は人たらしで、その魅力で人を虜にして騙す。要は雰囲気があって自分の演出が上手い人だ。それは自分を分かっていないとできないことでもあり、アーヴィンから学ぶべきポイントは、自分を知ること。さらに言えば、自分を信じて貫くこと。
女性の筆者がグッとくるのは、シドニーを運命の女だと信じたアーヴィンが、本業は詐欺師であることを告白するシーンだ。男が自分をさらけ出す瞬間は女性にとって嬉しいこと。まあ、詐欺師は良くないけれど、詐欺師だと知っても彼が好きで、しかもビジネス・パートナーかつ愛人になってしまうのだから、やはりアーヴィンはかなりの人たらし。見た目のダメさと中身のカッコよさの共存は最強なのかもしれない。
〜ジャック・ブラック〜 チャーミングで優しい小太りは、人を魅了する! カッコいいぽっちゃり俳優2人めは、ジャック・ブラック。『ナチョ・リブレ 覆面の神様』『スクール・オブ・ロック』などコメディ映画にたくさん出演している俳優だが、恋する男の魅力を参考にするなら『ホリデイ』で彼が演じているマイルズだろう。
ジャック・ブラックが好き! という女性はけっこう多い。彼に恋してしまうのは、演じるキャラクターが楽しい人であることも理由のひとつだ。ぽっちゃりでも、身長が低くても、ユーモアがあって優しい男性はやっぱりモテる。
(c) 2006 columbia Pictures Industries, Inc. and GH One LLc. All Rights Reserved. この映画は、ロンドンの新聞社に勤めるコラムニストのアイリス(ケイト・ウィンスレット)とロサンゼルスに住みハリウッド映画の予告編の製作会社を経営するアマンダ(キャメロン・ディアス)、この2人の女性が失恋をきっかけに休暇を取ろうと決意するところから物語は始まる。「ホーム・エクスチェンジ」のサイトで知り合った2人は、休暇中にお互いの家やクルマなどを交換。そしてアイリスがロサンゼルスで出会うのが、映画音楽の作曲をしているマイルズ(ジャック・ブラック)だ。
この映画でマイルズと恋に落ちるのはアイリス。ひと目惚れというよりも、一緒に過ごすうちに自然と惹かれていく、中身で勝負のパターン。アイリスはクズ男に振り回され、マイルズは悪女に騙され、お互いに失恋をしていたことで、痛みを共有することで、2人の心の距離は近づいていく。傷ついた者同士が恋に落ちる展開はありきたりではあるものの、傷ついているときこそ男の優しさが試されるときでもある。
(c) 2006 columbia Pictures Industries, Inc. and GH One LLc. All Rights Reserved. これはどんな女性もマイルズに惚れてしまうと思ったシーンがある。自分自身も落ち込んでいるのに、アイリスを励まそうとするシーンだ。料理を作ったり、曲を作ったり……相手のことを思いやれるその優しさにノックアウト! 王子様に見える瞬間だ。また、ユーモアのある男性はどんなことも笑いに変えてくれる、楽しませてくれる。2人並んでレストランで食事をしているとき、醤油を取ろうとしたマイルズの手の甲がうっかり彼女の胸に触れてしまうシーンがある。その弁明として「ごめん、悪かった。お胸にタッチ。わざとじゃないよ、お胸にタッチ」と、照れながらも笑いに変えてしまうマイルズ、なんてチャーミング! 顔面は男前だけど中身がつまらない人より、一緒にいて楽しい人、笑わせてくれる人を女は選ぶ。
〜ジョン・ファヴロー〜 頑張っている大男は、輝いて見える! 続いては、ジョン・ファヴロー。俳優・監督・プロデューサーとして活躍しているマルチな映画人だ。彼の場合はもともと“ぽっちゃり”体型──というよりも、クマさんみたいに体格がものすごくいい。どんなときも守ってくれそうな頼りがいのあるタイプに映る。
ジョン・ファヴローの代表作は、監督を務めた『アイアンマン』や『アベンジャーズ』シリーズだが、クリエイターとしてカッコいいと思ったのは、『アイアンマン3』の監督を断って自分の作りたい映画を選んだこと。決してブレることなく、信念を貫く姿勢に心をつかまれた。彼が製作・監督・脚本・主演を兼ねて作ったその映画は『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』。ハリウッドの超大作と比べたら全然小粒だが、中身は断然素晴らしい。
(c) 2014 Sous Chef, LLC. All Rights Reserved. ジョン・ファヴローの演じる主人公は、一流レストランの総料理長カール・キャスパー。この時点で料理人=職人というのは魅力的だ。けれど、職人としてのこだわりが強すぎて、ある出来事をきっかけに店を去ることに……。そして、新しい仕事を探している途中でキューバサンドイッチと出会い、本当に美味しいものを作りたいと一念発起。プライドを捨ててフードドラック(屋台)を始める。ここが惚れるポイントだ。挫折に負けない、チャレンジ精神、頑張っている男は輝いて見えるものだ。体型が体型なので汗も半端ないが、その汗さえ美しく見えてしまう。
『アメリカン・ハッスル』のアーヴィン同様にキャスパーもモテる。バツイチではあるけれど、美人の元妻との関係はそこそこ良好で、レストランのフロアマネージャーであるモーリー(スカーレット・ヨハンソン)も彼の味方だ。そこからも彼がカッコいい男であることは明らかなのだが、極めつけは元同僚もレストランを辞めて彼と一緒にフードトラックを手伝うこと。同僚にモテる、同性に好かれる、というのも、いい男の条件なのではないか。
格好いいセリフもある。夏休みの間だけフードトラックを手伝うことになったひとり息子との会話だ。焦げたサンドイッチをお客に出そうとした息子に──
「パパにとっちゃ(料理は)人生最高の喜びだ。
パパは立派な人間じゃない、いい夫でも、いい父親でもない。
だが、料理は上手い。それをお前に伝えたいんだ」
(c) 2014 Sous Chef, LLC. All Rights Reserved. 誇れることがあること、それを堂々と言える男はカッコいい。いい男は背中で語ると言うが、まさにそれ。父親らしさと料理人としてのプロフェッショナルさ、ある程度の経験を積んだ中年の男にしか出せないカッコよさがキャスパーにはあった。
カッコよさ=見ためじゃないことは百も承知。外見に気を遣うのはもちろんだけど、“背中で魅せる”というのもひとつの手法だ。
ということで、ジムにこもってワークアウトに励む前に、少しだけ考えてみた「今を肯定する方法」。結論としては「できなくはない」。とはいえ何かと“曲がり角”に差しかかった男たちにとって「中身はこれまで以上に大事」という、新たな課題が増えた気も……?
文/新谷里映
映画ライター、コラムニスト。女性誌「ESSE」、映画誌「J movie magazine」「CINEMA SQUARE」、ウェブ「cinemacafe.net」「NYLON JAPAN」「T-SITE」などでインタビュー、コラムなどを執筆。日テレ「PON!」の映画コーナーに出演するほか、トークイベントのMCとしても活動中。
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