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換金できるのは、「ローン残高+仲介手数料」を上回る金額で売却できる家

もうひとつ、マイホームの財産分割のやっかいな点は、多くの場合、住宅ローンを借りて購入していることだ。売却することに懸念がない夫婦であっても、住宅ローンの残高が大きいと、マイホーム売るに売れない状況におかれる可能性があるのだ。
住宅ローンを借りてマイホームを買うと、その住宅には抵当権が設定される。一般に抵当権付きの住宅を売却するには、ローンを完済して抵当権を解除することが前提となる。しかし、売却見込み額がローン残高を下回る、すなわち家の売却代金でローンを完済できない場合、足りない額を別途用意して埋め合わせなければ売却できないのだ。さらに、一般に不動産の売却には最大で売却額の3%+6万円(+消費税)の仲介手数料がかかる。たとえば売却額が4000万円なら約136万円と、これもバカにならない額だ。
つまり、子供の懸念を抜きにしても、売却してスッキリ分割できる状況を維持するには、いつそうした事態が起きても、最低でも「ローン残高+仲介手数料」を上回る金額で売却できるマイホームを買っておいたほうがいいわけだ。もちろん、資産評価が購入価格より大きく目減りしたとしても、住宅ローンの返済が進んで残高がそれ以上に減っていれば売却はできる。しかし、資産として目減りが大きければ、そもそも売却して分割できる財産が小さくなるわけで、その意味でも、マイホームがより高く売れる資産性が重要なのだ。
いずれにせよ、売るに売れない最悪の事態を確実に回避するには、最初から頭金をたくさん入れたり、返済開始後に繰り上げ返済をしたりして、ローン残高を減らしておくことが第一である。そして次善の策となるのが、評価額の目減りが少ない資産価値が高い家を選ぶこと、と理解しておくといいだろう。
本記事の見出しを「資産価値が高い家に住むと、夫婦仲が悪くなる」と誤解した人がいたらお詫びするが、正しくは因果関係が逆である。夫婦仲が悪化してやむを得ず離婚という選択しかなくなった場合に、スムーズに売却して分割できる財産をより多く残せる(=離婚しやすい)のが、資産価値が高い家だ。これからマイホームを買う既婚者や結婚予定がある人は、頭に入れておいて損はない知識だとは思うが、できるだけ多くの人にとって、この知識が生涯無用に終わることを願っている。
取材・文/山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中


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