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中古物件は「早い者勝ち」のマーケット。100%納得するまで吟味する時間はない

一方の中古は、物件情報が「住戸単位」であり、同じマンション内に他の選択肢がない場合が多く、複数の物件(住戸)を比較検討する場合、ひとつひとつ立地も駅距離も築年も違うのが通常だ。
これら重要条件の変数が新築より多いこともあり、住戸の広さは希望に合うが建物の古さを許容できなかったり、広さも建物も問題ないが立地が気に入らなかったり、希望条件がすべて合格点の物件に出会うことは思いのほか難しい。
また、新築当時の資料が揃っていることは稀なので、住戸は現物を見学できても、マンション全体や地域の情報はオフィシャルなものが乏しく、現地周辺を歩いたり、口コミサイトを見たり、1物件ごとに自ら足を使い手間暇かけて情報を集める必要がある。
そして、理想的な物件選択をさらに難しくするのが、情報を得るのも意思決定をするのも、すべて「早い者勝ち」であることだ。
以前、筆者のある後輩が、中古を2~3カ月探し続けて、ようやく希望条件を満たす物件に出会ったが、念のため現地周辺を歩き回ったり、資料がない部分を調べるため、数日返事を保留している間に他の希望者に先を越されたと、ひどく落胆していたことがある。自分が100%納得できるまで悠長に時間を使っているヒマなどない、というのが「早い者勝ち」のマーケットなのだ。
当然だが、好条件な物件ほど競争が激しくなるため、より素早い決断が求められる。その一方で、中古は新たな売り物件が断続的に出てくるのが、ある意味やっかいだ。
「ほんの数日でも待てばもっといい物件が売りに出るかも」という根拠のない期待が決断を邪魔するし、たとえ決断しても「明日もっといい物件が出てきたら……」という疑心暗鬼に苛まれやすい。つまり、高額な買い物なのに「これがベストな選択」と自分自身を納得させるのが難しいという側面が、中古にはあるのだ。
繰り返しになるが、中古は理屈の上では、新築と比べてより安く、あるいは、より好立地にマイホームを買えるのは間違いない。しかし、それを実現するには、限られた情報から物件の良否を的確かつ瞬時に見立てて判断する力と、それを体得する努力と根気が必要だと筆者は感じている。
逆に言えば、新築が中古より高いのは、品質への安心感や納得できるまでじっくり検討できる時間を買うコスト分と言い換えることもできる。心の底から満足できる住まいを買うために、相応の手間を厭わず努力するか、いっそお金で解決するか。これが、見落とされがちだが重要な、新築vs中古の裏テーマである。
取材・文/山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。
 
 


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