知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。
【桐谷健太】
意外性というやつは人をハッとさせる。ゆえに、役者がそのイメージを覆す演技を披露すると興味深く感じられるわけだが、映画『ビジランテ』の桐谷健太には見事に裏切られた。近年、ことに“テンションの高い天然キャラ”がハマっている彼は、映画の中ではまた別の、“冷たい顔”を見せていた。
地方都市の闇社会で生きる3兄弟の葛藤や衝突を描いた本作で桐谷が演じたのは、デリヘル店長の三男・三郎。土地の相続をめぐって対立関係に陥った兄弟の絆を修復しようと模索する重要な役どころだ。
「血を分けた兄弟にしかわからないもんってあるはずなんですよ。それぞれがむごたらしい境遇に置かれていても、分かち合う相手がいるから生きていられた、っていうかね。『草食系男子』なんて言葉がある今の時代に、ここまでハードボイルドな男の話も珍しいし、監督はよくもまあこんな格好良くて、攻めた映画を撮りはったなあと、役者としても、ひとりの男としても、喜ばしい気持ちでいっぱいです」
劇中、極寒の川で3人がもつれ合うシーンがある。そこで長男は、「お前らは何も守れていない」と、次男と三男を激しく罵る。
生きていればしがらみがある。それを振り払えればいいが、ときに人は自分の心の声が聞こえないフリをして、流されてしまう。あの台詞はそんなことを示唆しているのではいかと話を振ると、桐谷はしばらく沈黙し、そして次のように言った。
「子供のように生きられたらいちばんいいですよね。あの頃は誰かから褒められようなんて余計なことは考えず、無我夢中で遊んでいたし、それに、純粋で透明な感覚を持っていたじゃないですか。学校から家に帰ってごはんの匂いがするだけでうれしくなったり、夏休みが終わりに近づくとセンチメンタルな気持ちになったりして。でも、年齢を重ねて社会で揉まれ、欲に呑まれるようになってくると、そのキラキラした感じを忘れてしまう。だからこそ鍛えられることもあるんだろうけど。ともかく、大事なのは楽しむことかな。目の前にあるものをまずは受け入れて、仮にそれが気に入らなければ努力する。身体が硬いと感じたらストレッチするぐらいのことでもいい」
そう語る桐谷は、現在、37歳。不惑まで残すところ3年だが、聞けば少しも気負いはないという。
「役者として、ある種のジャンプ力を求められる時期やとは思います。けど、気負わず、“今”を大切にやっていれば、すこん! と、ええ未来がやってくるんちゃいますか」
口調に淀みはなく、その表情はさっぱりして、ひたすら凛々しかった。
『ビジランテ』
脚本・監督:入江 悠/出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太ほか/配給:東京テアトル/12月9日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
http://vigilante-movie.com鬼才・入江悠監督のオリジナル脚本によるバイオレンス・ノワール。幼い頃に失踪した長男・一郎、市議会議員の次男・二郎、雇われデリヘル店長の三男・三郎——別々の世界で生きてきた三兄弟が父の死をきっかけに再会。それぞれの欲望や野心、プライドを対立させ凄惨な最期へ。狂気に満ちた社会の裏側に引きずり込まれ、堕ちきった男たちの哀しき生き様が胸を打つ。
柏田テツヲ(KiKi inc.)=写真 甘利美緒=取材・文