有機ELディスプレーは、非常に高いコントラストを実現し、一般的に鮮やかさを強調する味付けで差別化を印象付けることが多い。しかしiPhone Xでは、自然な発色を強調し、派手さはないがあるべき色を再現する。既存のiPhoneで採用してきた広色域のP3のサポートや、環境光に応じてホワイトバランスを調整するTrue Toneディスプレーも採用される。
有機ELディスプレーは、液晶と異なり、バックライトが必要なく、各ピクセルが個別に発光する。そのため薄型化を実現し、また消費電力にも有利なだけでなく、黒はまるでブラックホールのように黒い。液晶は光を遮って黒を再現していたため、ディスプレーの輝度によってはダークグレーに近くなってしまうのだ。
筆者は時折、モノクロ写真を撮影することがあるが、黒の黒さが際立つことで、それだけでモノクロ写真がうまくなったような錯覚すら覚える迫力が出てくる。もちろんカラーの発色もよく、鮮やかな色と微細な質感を丁寧に描き出してくれる。
また、今回、米国と日本の間の飛行機の中でiPhone Xに触れてきたが、暗い環境でSuper Retinaディスプレーに触れると、明るさを暗くしても視認性が高く、またiBooksやKindleなどの電子書籍アプリで画面を反転させて黒い背景を選ぶことで、目に入る光を減らしながら読書をすることもできた。
日本滞在中は、長野で秋の紅葉の写真を撮影したが、目で見たとおりの色の美しさをカメラで捉え、ディスプレーで振り返ることができた。iPhoneのカメラそのものも進化しているが、たとえば一眼レフカメラで撮影した写真を取り込んで表示させたり、映画などのコンテンツを再生しても、この新しいディスプレーは大きな満足感をもって楽しむことができる。
ちなみに、センサーハウジング、ディスプレーにせり出す領域は、当然ながら、写真やビデオは表示されない。そのため、写真アプリなどで拡大していくと、せり出した部分は写真が表示されないのだ。
ただ、拡大しないかぎり、この部分に写真がかぶることはないし、映像を再生する際にも、せり出し部分を含めずに16:9の映像表示を行うことができる。当初この部分は邪魔になるかなと思っていたが、実際には「ちょっとしたアクセント」程度の感覚に落ち着いてきた。
魔法のような「Face ID」
アップルはiPhone 5sから、生体認証をスマートフォンに取り入れている。iPhoneのホームボタンには指紋センサーが搭載され、Touch IDが用いられるようになった。iPhone 8には第2世代のセンサーが採用されており、体感で倍以上高速にロックを解除できるようになった。
たとえば、ポケットやカバンからiPhoneを取り出すときに、目で見なくてもホームボタンの場所を指でとらえ、親指で押し込みながら取り出すことで、iPhoneを目の前に構えるまでにロック解除を済ませてホーム画面を表示させることができる。そんな早撃ちガンマンのような動作が当たり前となった。
4/8