オッサンにぴったりの休日が、逗子の海にあるらしい!
海って「変わらないヤツ」だと思う。何歳になって訪れても、海は広く果てしない。僕らの小さな存在など、一粒の砂に過ぎないと教えてくれる。
変わるものがあるとしたら、僕らの海との付き合い方だ。焼きつくような砂浜を、裸足で走った少年時代とは違う。昼下がりのマリーナを訪れて、小腹が空いたらハンバーガーとビールを頼む。潮の香りが恋しくなったら、預けていたボードを片手に波打ち際へと向かえばいい。
……そんな理想的な休日を過ごすのにぴったりの場所がある。神奈川県逗子市のビーチハウス「surfers(サーファーズ)」だ。SUPからバーベキュー、ヨガまで、マリンライフを丸ごと満喫でき、地元の人からも親しまれている。
都心からクルマを走らせること約1時間、逗子海岸沿いの小さな岬にその場所はあった。
逗子海岸といえば、由比ヶ浜、江ノ島と肩を並べる湘南の有名エリアだ。近隣には海に魅了され、いつしか住みついてしまった男たちも多いらしい。それもサーファーばかりでなく、スローライフにあこがれた「元都民」が越してくるケースもあるという。
海を中心とした町づくりはあくまでマイペース。鮮魚を生かした定食屋など、昔ながらの個人店も目に付く。
雄大な海をパドルとボードを頼りに“散歩”する、SUPの魅力
この日のお目当ては、人生初のSUP体験である。SUPとは、「Stand up paddle surfing(スタンドアップ・パドル・サーフィン)」の略。サーフィンのように激しく波に乗ることもあるが、この日は優雅に水上歩行を楽しむことがメインだ。体力に陰りの見えてきたオッサンでも問題ない……らしい。
「過去に指導したなかには、小学4年生の子供もいました。うまく乗りこなせるかは個人差がありますが、教えた通りに実践すればきっとできますよ」と語るのは、レクチャーしてくれた岸 俊一さん。
2時間のレッスンは複数人で参加する場合6000円/1人、個人参加の場合はプライベート料金となるので8000円/1人。家族や同僚とトライするのもいいだろう。
海にはすぐ入らない。まずは地上で30分ほどのレクチャーを受ける。パドルの扱い方、ボード上でのステップワーク。アクシデント時の対応も含めて、基本をみっちり教わる。
「パドルで漕ぐ時は手の幅を肩幅より広く握らないといけません。例えば、スコップを使うときに握る手の幅を狭くしすぎると、重くてうまく扱えません。それと同様、パドルもテコが使えるように肩幅より広く握らないと力がうまく伝わらないのです」
動作練習ばかりではなく、理論も交えてわかりやすく説明してくれる。これなら誰もが理解できそうだ。
いざ、海へ。心地よい潮風に、遮るものは何もない大海原。海を愛する人の気持ちを理解するのに時間はかからなかった。
まずは座ったままパドルを漕ぐ。腹を抱えこむように力を入れると、水をつかむ手応えが返ってくる。予想以上に重いが、そのぶんグイッと加速し高揚感に包まれる。
しかし、SUPはここからが本番。「スタンドアップ」の名前の通り、立って漕いでこそ胸を張れる。不安もあるが、ボードの意外なほどの安定感と、楽しさから分泌されるアドレナリンに、「イケる!」という気持ちも芽生えてきた。
思い切って立ち上がってみると……
立てた!
サーフィンのような難しさはない。何度かバランスを崩しかけたものの、すぐに座ったり、パドルを漕いだりすれば問題ないのだ。パドルによって波をつかめば、水上での体を支える点は両足と合わせて3つになる。進路変更やターンの要領も体がすぐに覚えた。
ちなみにボードの上に寝転んでみてもいいらしい。空とにらめっこしていると、「これが真の休日か……」とばかりに心洗われる。ほかにもボード上でのヨガも人気だとか。
こんな海が近くにあったらいいなあ……と思いを馳せていたところ、SUP体験は終了。あっという間のデビュー戦だった。
「どうでしたか、疲れましたか」
むしろ「癒された」という後味が強い。ふだん使っていない筋肉に負荷をかけたから、翌日は筋肉痛かもしれないが、それ以上に都会の喧騒を忘れて小冒険を楽しめた。
運動後には、よく冷えたデトックスウォーターを喉に流し込む。レモングラスをベースにしたさわやかな味わいが、体の芯まで染み渡った。
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