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将来的に住宅ローン金利が上がるファクターは、いまのところ見当たらない

こうして歴史を振り返れば金利と経済情勢や政策との相関性がなんとなくでもつかめるはずだ。そして肝心なのは、歴史から読み取れたことを現在から近未来にあてはめるとどうなるか、である。
現在の経済状況を見ると、本格的な景気回復の源泉となる個人の所得は底を打ったとはいえ、いまだ低位を這いつくばっている。現に企業の内部留保が過去最高を更新し続けていて、企業は従業員の給与を上げることに消極的なままだ。グローバル化が進んだ現代は、企業は国際競争力を維持するために自国の従業員の給与を上げにくいという事情もあり、今後も企業の態度がそう簡単に変わるものではないと推察できる。
政策面では、歴史的に見て間違いなく景気を失速させる消費税増税が控えていることが、いかにも重い。アベノミクス初期に浮上しかかっていた景気は2014年4月の8%への増税で失速し、3年半たった今もマイナス金利政策が継続していることからも、10%への再増税は景気回復=金利上昇への重い足かせとなる可能性が高い。
将来の金利動向を見立てるためのファクターはほかにもあるが、ここに挙げただけでも住宅ローンの金利が上がる未来はかなり遠いのではないか、との推測は立つ。もちろん推測は所詮、不確実なものに違いないが、よほど大きな政策転換(たとえば消費税増税の凍結や減税など)が起こらない限り、数年内に日本経済が超低金利から浮上する材料を見つけるほうが難しい、と言わざるを得ない。
と、ここまで推測とはいえ「簡単には金利は上がりそうにない説」を垂れ流してきた以上、変動型の金利上昇リスクを正しく理解するポイントに触れておかねばなるまい。一般に「住宅ローンは最長35年の長丁場なので、将来の金利上昇リスクがある変動型は危険」とよく言われる。これはこれで間違っていないが、ひとつ抜け落ちている観点がある。それは、金利上昇リスクは時間によって変化するということだ。住宅ローンの金利は時々の借入残高にかかるから、残高がたっぷり残っている返済初期ほど金利上昇の影響は大きく、逆に返済開始から年月がたつほど借入残高が減って金利上昇の影響は小さくなっていく。
たとえば、残高が4000万円ある時点で金利が0.5%上がったら、単純計算で年間20万円の利息負担増になるが、残高が2000万円に減っていれば同じ0.5%上昇でも負担増は半分の年間10万円で済むわけだ。つまり、変動型の金利上昇リスクは返済期間の前半に偏っており、最長35年のうち当初の10~15年以内に大幅な金利上昇があるかどうかが重要になる。返済開始からできるだけ長く超低金利でやりすごせれば、その後に多少金利が上がっても大ケガをする可能性は低くなっていくのだ。
そんなわけで、あくまで自己責任となるが、今から10~15年以内に、固定型と変動型の金利差(0.5%程度)を超えるほど金利が上がる可能性は低いと見立てるなら変動型を選べばいいし、0.5%以上の金利上昇はありうると考えるなら手堅く固定型を選べばいい、というのが筆者の結論だ。最後に付け加えると、将来、金利が0.5%~1%の幅で上がる場面がくれば、必然としてかなりの好景気を迎えていて、所得も相応に増えているはずだ。オーシャンズ世代には、にわかに信じ難いかもしれないが、金利が上がる未来というのは“個人所得が増えていく時代”が到来するということなのだ。
取材・文/山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。



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