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ファイナンシャルプランナーに将来の金利予測を尋ねるのはナンセンス

現在の固定型と変動型の金利差は0.5%程度しかないが、負担額に換算するとその差は決して無視できない額になる。たとえば3000万円を35年返済で借りる場合、変動型の金利が過去十数年と同様、ほぼ底にはりついた状態があと10年続いたら、10年後の時点で変動型の負担額は固定型より100万円以上も安く済む計算になるのだ。
こう聞くと、変動型はきわめて魅力的に映るだろうが、しかし、事はそれほど単純ではない。変動型を選べば「将来の金利上昇リスク」という心配事がもれなく付いてくるからだ。その不安を解消するためにファイナンシャルプランナー(以下FP)などに相談すれば、ほぼ100%の確率で「固定型が安心です」とアドバイスされるはずだ。彼らの言う通り手堅く固定型を選べば確かに不安は解消される。ただ、どうしても変動型の超低金利の魅力は捨てがたいと考えるならば、不確実性はありながらも、将来の金利上昇リスクについて自己責任で見立てるしかない。
ちなみに、将来の金利上昇をFPに尋ねるのはナンセンスだ。というのは、金利は経済や政策の動向によって変化するものだが、彼らはお金のプロだが経済や政治のプロではないからだ。実は、筆者が住宅情報誌を担当した15年前、固定型と変動型の金利差が2.5%もあった時代から、彼らのアドバイスは「住宅ローンは固定型が安心」で一貫している。要は、不確実性のある経済情勢や政策の変化などは考慮されない教科書的なアドバイスなのだ。当時、FPのアドバイス通りに固定型を選んだ人は、前述と同じ比較をすれば変動型を選んだ人より当初10年間だけで700万円近く損をしている計算になる。が、だからといって彼らを責めるのはそもそもお門違いなのだと、筆者は思う。
では、将来の金利動向をどう見立てればいいのか。まず、大切なことは金利とは何かを理解することだ。そのうえで、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というビスマルクの言葉に従い、金利と経済情勢や政策との相関性を歴史の事実から学び、それを現在~近い将来にあてはめて推測してみるのだ。そこまでやっても、もちろん不確実性はなくならないが、何もしないで将来を不安がるより数倍マシである。
金利には本来、景気やインフレ率の調整弁という意味がある。好景気下では個人も企業も借入を増やして積極的に投資や消費をし、それがさらに景気を加速させる。その過程で個人の所得も増えていき、所得が増えるとさらに消費や投資を積極化する。ただ、景気が過熱しすぎると行き過ぎたインフレが発生してしまうので、それを抑制するために金利を上げてお金を借りにくくして過熱感を冷ますのだ。逆に景気が悪ければ金利を下げてお金を借りやすくして消費や投資を促す。この機能が金利の本質なのだ。異次元金融緩和やマイナス金利政策をもってしても、いまだ景気が停滞して個人所得が増えない現状で金利だけが上がることは、理屈としてありえない。となると「異例の低金利がもうすぐ終わる」というウワサの信憑性は低いと言えよう。
ということを理解したうえで、第3回は金利と経済・政治動向との相関を歴史から読み取って、もう少し詳しく「住宅ローン金利の将来予測」をしてみたい。
取材・文/山下伸介 1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。


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