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やりたいことをやるためには、我慢が必要


「本編にあたるところまでやるべきだと、常に言い続けています。『THE ORIGIN』は他ならぬ当時のサンライズ社長からの熱い要望で描き始めたので、しっかり映像化までしないといけない……と言っていい、厚かましい根拠が僕にはあるんです」
だが、御年69歳。12月で70歳を迎える。話しぶりもセンスも筆致もまったく衰えを感じさせないが、それでもファンとしては安彦先生の健康が心配だ。とくにアニメ制作の現場はハードなことは、他ならぬ先生自身がよく知っている。
「あと10年現役でいようとするのは虫がいい話だから、あと5年頑張れたらできると思っています。どの程度のボリュームのものなら作れるのかを、今考えていますよ。片っぽで本業の漫画家も未練たらしくまだ抱えていますけど」
生涯現役で成し遂げたい仕事をする。この精力はぜひ見習いたい。
「若い人とまだ仕事が一緒にできるのは幸せだと思います。やりたいことをやってきたのが、精神衛生上よかったんだと思いますよ。それは最高の贅沢ですが、そのスタイルを作るまでって、結構大変なんですよね。路頭に迷うピンチはいくらでもあるし、迷いきったら浮かんで来られない。偉そうなことをいうようですが、好きなことをやるというワガママをいうためには、今日我慢しなさいということです。我慢して何らかのパフォーマンスを発揮できれば、明日はもっと自己主張ができます」
安彦先生はおそらくその高みに立てたわけだが、そこで終わらない。仕事に対しては、あくまで貪欲だ。

「仕事をしながら死ぬのは理想だと思いますよ。でも、『あの人は死ぬまで仕事して幸せだった』という話を聞きますが、本人としてはもっとやりたかったんじゃないのかな、って思いますけどね(笑)」
【PROFILE】

安彦良和
1947年北海道生まれ。1970年虫プロにアニメーターとして入社。独立後はキャラクターデザインや演出、監督として活動する。1979年『機動戦士ガンダム』を手がける。1989年、漫画家に転身し多数の作品を生み出す。2001年『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を連載。現在は『ヤマトタケル』(角川書店)を執筆中。15年、アニメ『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』総監督。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』(Blu-ray&DVD、11月10日(金)発売)は大ヒット上映中。世界の総人口の半数を死に追いやり、一年戦争の火ぶたを切った“コロニー落とし”、そして人類史上初めての宇宙における大規模艦隊戦「ルウム会戦」が描かれる。
吉州正行=取材・文 林 和也=撮影


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