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「え? せっかくパリに行ってエッフェル塔も上らないの?」と思う人がいるかもしれないが、長期滞在の費用を考えると、余計な出費は許されない。そもそも無理して上らなくても、エッフェル塔は見ているだけで十分に面白い。
東京タワーも同じ。海外からはるばる来た外国人旅行者に、「東京タワーは絶対に見てもらわなきゃ」と思っているのは日本人だけだ。フランス人はそんなメジャーな所よりも、旅行ガイドに載っていない、「そこらへん」をぶらつくことを選ぶ。ガイドブックに載っていないからこそ、誰にも知られていない秘密の何かに出くわすかもしれない。フランス人旅行者はひそかにそう夢見ている。

長崎を訪れたフランス人の不満

とにかく、普通の人の日常生活にどっぷりつかりたいし、肌で感じたい。おカネをかけずに、あてもなく町を歩き回るのも、すばらしい旅行の仕方だと思っている。食事に関しても、グルメ系のレストランはほんの数回行けたら十分だ。大抵の食事は、手頃なコンビニ弁当や立ち食いうどん、ファミレスやその辺の公園で、おにぎりをかじる程度で済ませる。外国人にとってはこれも面白い体験であり、楽しい挑戦なのだ。
ちょっと面白い話がある。長崎を初めて訪れたフランス人の友達が、長崎在住の日本人の知り合いに会いに行った。すると、その日本人は彼女を喜ばせようと、ハウステンボスやカトリック教会に連れて行き、お土産用にカステラ購入するという長崎ならではの典型的コースを案内した。
が、私の友達は帰ってくるなり、「日本の町をふらふら歩き、久しぶりに会う知り合いとゆっくりお茶でもしようと思っていたんだけど、ドタバタと、見たくもない観光地を次々と連れ回されてしまって、まったく自由がなかった。向こうが明らかにいい気持ちで案内してくれていたから、断りようがないし、厄介な経験だった!」と悲劇的な感想を語ってくれた。日本人からすると最高のおもてなしをしたつもりなのに、フランス人がちっとも喜んでくれなかったのだから、さぞかし悲しかっただろう。
一方で、日本人の親切さや、お店の丁寧な接客に感動するフランス人も多いので、日本式のおもてなしが悪いわけではない。要はバランスの問題なのだと思う。
以前、日本政府主催の観光フェアがフランスで開かれ、受付で働いたことがある。しかし、誰一人として日本政府が考えているような10日以内の旅行をしたいと思っているフランス人はいなかった。
ハッキリ言わせてもらうが、残念ながら日本政府はヨーロッパの旅行者について少し理解不足だ。現在政府が提案しているプランやコースの多くは「日本人式」になっていて、フランス人のニーズに合っていない。厳しく言えば、「自由の利かない、短時間で回る忙しいモデルコース」をたくさん提案しているが、フランス人は「モデルコース」自体あまり好きではないということを理解していないようだ。


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