小学生がプログラムを学ぶ時代を目前に控えた今日この頃。かつて最先端を気取っていたファミコン・パソコン・ポケベル世代として、ハイテクについていけないオッサンになることだけは避けたいもの……という切実なニーズに応えるべく、ホビー感覚で遊びながらプログラミングやIoTの概念を学ぶことができるガジェットをご紹介&体当たりで体験してみるという主旨の本連載。
最初に挑戦するガジェットとして、IoTを気軽に体験できるソニーの電子工作ブロック「MESH™」(以下「MESH」)を選んではみたものの、いきなり「で、何をつくればいいの?」という、超絶に根本的なところで躓いてしまったのですよね。そこで今回は、「MESH」で“IoTっぽいモノ”を作るためのアイデアを考えるコツを、ズバリ開発者の方に直撃してみたのです。
「MESH」とは、テクノロジーの“文房具”のようなもの
「MESH」は、ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」から生まれた商品だ。SAPからは「MESH」のほか、電子ペーパーを利用した多機能リモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」や、スティック型の携帯アロマディフューザー「AROMASTIC」などユニークな製品が続々と誕生している。
また、ソニー社員の紹介があれば社外の人間も利用できる、3Dプリンターなどの工作機器を揃えた「クリエイティブラウンジ」という共創スペースを使い、新規事業に向けた実験や開発をオープンな環境で行っているというのも、SAPのユニークな特色。「MESH」の開発者、萩原丈博さん(新規事業創出部・MESHプロジェクト統括課長)も、このクリエイティブラウンジで作業をすることがほとんどだという。いったい「MESH」は、どのような発想で生まれたのだろうか?
「文字や図形を描きたいときにはペン、紙を切りたいときにはハサミというように、イメージをビジュアルで表現するための道具なら、誰でも使えるシンプルなものが揃っているじゃないですか。それと同じ感覚で、テクノロジーを使ったアイデアを簡単に形にできる、文房具のような道具があれば楽しいな、と思ったのが開発のきっかけです」
という萩原さん。つまり「MESH」は、ペンやハサミのようなツールの一種ということだ。そう考えれば、買い揃えた「MESH」をただ並べて眺めているだけでは、何を作って良いのかアイデアが湧いてこないのも納得がいく。いくら高級なペンがあったところで、書きたいことが見つからなければ、ペンを使いこなすことはできないのだから。
技術にとらわれず、モノから発想を始めるのが「MESH」活用のコツ
「確かに道具を揃えただけで、そこからアイデアを考えるのは、すごく難しいですよね。我々は『MESH』を使ったワークショップを開催することがあるのですが、そこではコップやハンガーといった身近なモノを用意して、『コップにどんな機能がついたら便利になったり楽しくなったりすると思う?』という質問をするところからスタートするんです。モノを起点として、そこに『MESH』で実現できるコト(機能)をつなげてみる、という手順でアイデアをふくらませてもらうわけですね」
たとえば「コップがしゃべったら面白いよね」というアイデアが出たとすれば、コップに傾きを検知するセンサーを取り付け、あらかじめ録音した音声を端末に取り込み、「水を飲む動作でコップが傾いたら、スマートフォンから『飲まないで!』という声がする」といった、ディズニーアニメに出てくるような“しゃべるコップ”が誕生するというわけだ。この他、ワークショップでは振動を検知する「動きタグを」取り付け、しっかりと掃除をすると(振動を感知すると)褒めてくれる塵取りなど、子どもの発想ならではのアイデアグッズが続々誕生したという。
この「モノ」を起点として発想するという考え方、筆者にとってはかなり目からウロコだったんですよね。
「MESH」に限らず、この手のハイテク・ツールを前にすると、どうしてもテクノロジー自体に目が向いてしまい「この技術を使うと何ができるのか?」っていう方向で考えてしまいがちじゃないですか。でも、それでは理解できる技術の範囲でしか発想ができないってことでもあるわけで。「MESH」を前にして、何を作ればよいのかわからなくなってしまったのは、そこに原因があったのかと納得した次第。これ、ITに限らず仕事全般にも通じるものがあるよなぁ。
モノとコトをつないでみるのがIoTの基本。実は「工作」の部分がキモだったりして
「IoTという言葉だと難しくて、何か特別なことをしているような印象を受けがちですが、先ほど紹介したワークショップでやってることって、まさにIoTの商品開発のプロセスなんですよね。『MESH』は、既存のモノの機能を拡張しパワーアップするための補助パーツみたいなもの。あくまでも主役はモノなわけですから、発想を邪魔しないように、そしてどこにでも取り付けやすいように『MESH』自体の形状はなるべくシンプルにすべきと考えました。パッケージに作例紹介を入れなかったのも、そういった理由からです」
萩原さん曰く「モノとコト(機能)をつなぐ」のがIoTの基本。「MESH」を使ったモノづくりの場合でいえば、
(1)まず、馴染みがあるモノに注目し、そこにどんな機能が追加されたら便利か、または不便が解消されるかを考えてみる(アイデアを考える)。
(2)そうして生まれたアイデアを実現するための“MESHタグ”を用意し、機能を実現させるための設定を行う(プログラミング)。
(3)モノと“MESHタグ”を組み合わせる(工作)。
という手順で製作を進めれば、楽しく上手な“IoTっぽいモノづくり”が実現できるのでは、という。そして、 この3つのステップで意外と重要なのは(3)の工作とも。
「完成させたいのは“モノ”なんですから、当然見た目や使い勝手などに影響する工作の部分がいちばん大切ですよね。その点では、お子さんの工作や日曜大工と変わりません。『MESH』の場合、機能も絞られていて、プログラミングも簡単にできるように工夫されていますしね」
そう言われてみれば、子ども時代に「水中モーター」を買ってきてタライの底に貼り付け「動くタライ」を作るのも、「MESH」で「IoTっぽいモノ」を作るのも、そんなに大差がないような気がしてきましたよ! というわけで次回、満を持して“IoTっぽいモノづくり”に挑みます。さて、何をつくろうかしら??
取材・文:石井敏郎
(C)2016 Sony Corporation
■MESH公式サイト
http://meshprj.com/jp/