大人がこだわる飲み物の筆頭格にお酒を挙げたとしたら、いささかもったいないことだ。たしかにウィスキーやワイン、日本酒など、アルコールにはこだわるべき歴史と深みがある。だが、健康をさほど害さずに平日から休日まで楽しめ、アルコールほど“行動”を制限しない選択肢がある。それは、コーヒーだ。高いコストパフォーマンスと、自ら味わいを追求する喜びも備える。さあ、酒神バッカスにしばしの別れを告げたなら、めくるめくコクと香ばしさの旅に出かけてみよう。
予定のある週末でも、コーヒーを傍らにコーヒーはお店や自宅でイスに座って、じっくりと楽しむ。—これぞ正しい向き合い方。しかし、週末の男はそうもいっていられない。外に出かける予定があることも少なくないのだから。そんなときでも傍らにコーヒーがあれば、アクティビティやドライブの時間がさらに豊かになることだろう。さらにこだわりのギアで淹れれば、楽しさもひとしお。お裾分けついでにウンチクのひとつでもひけらかしたくもなる…イヤミになるので自重すべきだろうが。
そこでオニバスコーヒーなど都内4つのコーヒー店のオーナーをつとめ、腕利きのロースターとしても知られる坂尾篤史さんに、外で楽しむコーヒーについて、味わいのポイントと淹れ方の話を伺ってみた。
“家コーヒー”を持ち出すポイントは、濃いめ&万人ウケ「景色やにおい、誰かと楽しむ会話など、自宅などに比べて外的要因が多いんですよね。じっくり味わうシチュエーションに比べると、風味が味わいにくいことが多いでしょう。だからちょっと濃いめに淹れてみましょう。また、人にふるまうことも多いじゃないですか。だから、誰もがおいしく感じる豆を選ぶことがポイントです」
単一種の豆よりブレンドのもののほうがおおむねクセがなく、バランスの取れた味わいが多いのだとか。ウィスキーにおける、クセのあるシングルモルトと飲みやすいブレンデッドの関係になんだか似ている。
それではどう淹れていけばいいのか。まずは自宅で淹れてタンブラーで持ち出すための淹れ方について学ぼう。
「まずはコーヒー豆をミルで砕きます。機械式ならあっという間ですが、ゆくゆく外で淹れるシチュエーションも考えれば、手挽きのミルを用意しておきたいですね」
コーヒーミル5800円/ポーレックス(レザーベルトは付属しません)
坂尾さんがオススメしてくれたのは、ポーレックスのコーヒーミル。ステンレス製の無骨ながらミニマルなデザインと、脱着式のハンドルを外してコンパクトに持ち運べる携帯性を併せ持つハンドミルだ。
「自宅で飲むなら1人前13gですが、今回は濃いめに出すので15g。しっかり測りましょう」
ガリガリとノブを回して約3分間。コーヒーパウダーができあがったら、コーヒーサーバーの上にフィルターを乗せ、こんもりと小山を作るように乗せる。そして225mlのお湯を沸騰させれば、準備万端だ。
「大きく円を描くように、まずは40mlのお湯を回し掛けましょう。ティースプーンでかるく攪拌し、40秒間蒸らします。その後、40〜50mlを20秒おきに注いでください」
できあがったコーヒーをタンブラーに移し替えたら、あとは出かけるだけ。思い思いのシチュエーションで楽しみたい。
「こうやって丁寧に淹れたコーヒーは、冷めてもおいしいですよ。温度が低くなるほど、酸味が引き立ってきます。ちょっとずつ飲んで、味わいの変化を楽しんでみてください」
[右]ザ ポット1万1000円/バルミューダ[下]V60 ドリップスケール6000円/ハリオ
[左]V60ドリッパー(オニバスコーヒー別注カラー)2500円/ハリオ※ガラス製サーバーは付属しません
自宅でじっくり淹れ方を楽しむなら、こういった基本セットを用意しておきたい。バルミューダデザインの電気ポット(右)は、細い形状の注ぎ口で、湯切れもよく一定量を注ぐのに便利だ。ハリオの「スケール」は、タイマー機能が付いているので、テンポ良くお湯を定量注ぐのにうってつけ。またオニバスコーヒーオリジナルのコーヒーサーバーセットは、シンプルで使いやすいプロ仕様の逸品だ!
外コーヒーの完成度を高める「アメリカンプレス」の実力さて、BBQやキャンプなど、外での休日シーンにおいては、淹れたてのコーヒーを振る舞いたいシチュエーションも考えられる。前述のような本格的な手法もいいが、かさばるツールと手間暇が必要になる。もっと手軽な方法はないだろうか。
「それなら、『アメリカンプレス』というツールがあります。これはサンフランシスコ生まれの最新のコーヒーメーカーなんです。フレンチプレスにも似ていますが、これは粉がコーヒーに残りません。シチュエーションを選ばず、誰でも美味しくコーヒーが淹れられますよ」
コーヒーメーカー1万2000円/アメリカンプレス
まず20gの豆を挽き、メッシュを蓋の裏側に備わる抽出室に入れる。押し出しノブのついた蓋をカチッと回しはめる。355mlの線までお湯を入れたら、コーヒーパウダーの入った蓋をセットし、軽くひと押し。すると、抽出室にお湯が入る。
「お湯が行き渡ったら、ここで2分30秒蒸らします。そうしたら、上のバーをゆっくり押し下げてください」
金属フィルターだが、その穴はパウダーの粒子を通さない100ミクロンという極細サイズ。ザラッとした粉が舌に残ることがないという。それゆえボトルの底にも粉が残らないため、お手入れがカンタンなのだそう。
「デザイナーのこだわりが伝わるプロダクトでめちゃくちゃロジカルに作られているんです。たとえば筒が微妙に台形で安定するようになっていたり、中が中空になっているので持っても熱くなかったり。デザインもいいしコンパクトですから、外に持ち出して楽しんで使ってみてください」
外で楽しむコーヒーは、自宅とはまた違った楽しみがあるタンブラー/Apple ※米国本社カンパニーストアでのみ購入可能(筆者私物)
さて、アメリカンプレスで淹れたコーヒーを、せっかくだから外で味わってみたいが、せっかくなら容れものにこだわりたいところ。タンブラーはサイズや形状、保温性など、実にさまざま。自分好みのものをセレクトしたい。
折りしも春の陽気。小鳥のさえずりと吹き抜ける風が気持ちいい公園で、オリジナルメイドのコーヒーをこだわりのタンブラーでいただく時間は、至福のひとときだった。チョイスした豆はホンジュラス産。ミルクチョコのようなカカオ感の強さを感じる一方、かすかに甘い余韻が残る、いかにも大人なセレクト。
う〜ん、小鳥さんこんにちは。何気ない景色が、コーヒーを通して意義あるものに感じられる。誰かと共有したい……とまあ年甲斐もなくポエミックな感想も述べたくなるが、めんどくさがられるので心の奥にしまっておくべきだろう。
このように冒頭で自重したい旨を書いたにもかかわらず、評論が口をついて出てしまいそうになるほど、コーヒーが持つ魔力は侮りがたいものがある。フェスやアウトドアなど、これから外出の機会は増えるはず。コーヒーの趣味も新たに加えて、思い思いのギアとともに、至福の一杯を味わってみてはいかがだろうか?
■教えてくれた人
坂尾篤史さん
1983年生まれ。オーストラリアでカフェの魅力に取りつかれ、帰国後バリスタ世界チャンピオンの店でコーヒーの修業。2012年、奥沢にオニバスコーヒーをオープン。トレーニングやワークショップなど行いながらコーヒー農園にも積極的に訪れる。14年、渋谷に『ABOUT LIFE COFFEE BREWERS』をオープン。15年「RATIO coffee & cycle」、16年にオープンし、今回訪れたオニバスコーヒー中目黒店は、駅からほど近い大人の止まり木だ。
[店舗情報]オニバスコーヒー 中目黒店住所:東京都目黒区上目黒2-14-1電話:03-6412-8683営業時間:9:00〜18:00(不定休)www.onibuscoffee.com ■緊急告知!坂尾さん直伝! 「オーシャンズ」読者向けワークショップを5月28日(日)に開催!!
※募集は終了いたしました。たくさんのご応募ありがとうございました。
美味しいコーヒーについてより詳しく知りたいなら、坂尾さんに直接教えを請うべし! というわけで5月28日(日)に、「オーシャンズ」読者に向けたでワークショップを開催(午前・午後の2回実施予定)。美味しいコーヒーを淹れるポイントを映像&レクチャーで、さらに飲み比べとハンドドリップを実践することで、週末を楽しむ大人のコーヒーマスターへ一歩近づけるかも⁉︎ 「オーシャンズ」定期購読者なら、なんと無料で参加エントリー可能だ!日時:5月28日(日) ①午前の部 10:00〜12:00(09:30受付開始) ②午後の部 13:00〜15:00(12:30受付開始)場所:オニバス コーヒー 中目黒店 〒153-0051 東京都目黒区上目黒2−14−1取材・文=吉州正行
撮影=小島マサヒロ