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2024.04.30

ライフ

水中考古学という仕事の醍醐味とは。国際的プロジェクトに参加する山舩晃太郎さんを直撃



「SEAWARD TRIP」とは……
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海にまつわる疑問をその世界の第一人者に聞いていく本連載。

今回は沈没船を探すため世界中の海に潜る、水中考古学者という仕事の醍醐味について山舩晃太郎さんに伺った。

水中考古学という学問は実は存在しない

先頃、教養クイズ番組「世界ふしぎ発見!」を見ていると、エーゲ海で沈没船を発掘する様子が映し出された。発掘調査隊は白髪の研究者や学生、ボランティアなど年齢の異なる30人ほどで構成。国際色も豊かな顔触れが次々に美しい海に潜り、古の船の探索に挑む内容だった。

いっそう興味を惹かれたのは、調査隊にひとりの日本人がいたことだ。記録作業の責任者として参加していた水中考古学者の山舩晃太郎さん。

彼の姿を画面越しに目にすると、瞬時にいくつかの問いが浮かんでいった。水中考古学者とは、どのような仕事なのか?国際的なプロジェクトに、なぜ彼は日本人としてただひとり参加しているのか?

きっとそこから広がる話は聞いたことのない内容になるだろう。好奇心に押され、ネット検索で見つけたホームページからコンタクトをすると早々に返事が届き、幸運にも日本にいることが判明。真冬の都心で会うことができた。

心待ちにしていた当日、最初に聞いたのは水中考古学についてである。耳慣れない学問の内容を問うと、山舩さんは「実は水中考古学という学問は存在しないんです」と答えた。

「エジプトの海中でピラミッドが見つかったとします。その遺跡の研究を行う適任者は誰かといえば、海中に潜れる、陸上でピラミッドを研究してきた考古学者なのです。

つまり水中考古学とは考古学の延長にある学問と捉えるのが本来の形で、私は造船史の研究をしてきた船舶考古学者。船舶考古学は海との関連性が深く、海中から出てくる遺跡が多いところに特徴があります。

なかでも発見しやすい研究対象は沈没船。しかも海難事故等で沈んだ船が海流などによって砂を被った場合には、往時の形に近いままで発見されます」。

積み荷の状態もほぼそのままだと、航行していた時代背景を紐解きやすくなる。判明する主たるものが当時の技術水準と経済状況。前者は船の構造やデザイン、搭載されていた機械などからわかり、後者は積み荷が雄弁に語るのだという。

「遺跡を通し、その時代の暮らしぶりを考察できるのが考古学です。船をコンビニに置き換えてみましょう。仮に2024年に海に沈み、砂の中に埋まったとします。するとそれは500年後でもそのままの形で出てきます。

商品から人々が食べていたもの、雑誌から流行がわかります。紙幣や電子マネーの読み取り機などもありますし、発見物から24年当時の生活が把握できるのです」。

考古学の面白さは、海中においても同じなのである。


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