「パネライ」の進化は、挑戦の歴史である
ダイビングとは、自身の内面の体験である。そう語るのは、かつてフリーダイビング競技で世界チャンピオンとして活躍したフランス人ダイバー、ギョーム・ネリーだ。引退した現在も、彼の海への愛と敬意は変わらない。その彼の腕には、同じく海への情熱を持つ時計、パネライが常にある。
海、そして挑戦。両者をつなぐ強い言葉
挑戦と恐れはコインの表裏だ。恐れを振り払い、勇気を持って挑んだ者だけが、賞賛や栄誉の美酒を獲得するのだ。パネライの腕時計がやけに似合う、ひとりの男がここにいる——彼の名はギョーム・ネリー。
足にフィンを装着して潜る種目(CNF)で世界記録を4度も塗り替え、当時世界新の117mに到達したフリーダイバー。呼吸のできない閉塞した空間で、ただひたすら深みを目指す。ある地点から浮力と重力が入れ替わり、体は自由落下していくという。恐怖を克服し記録達成を果たした彼は、まさに“挑戦者”だ。
その腕元で大きな存在感を放つパネライの腕時計もまた、挑戦の歴史に彩られている。イタリア海軍が要求する高い基準を実現するために、防水性や耐久性、視認性などの機能向上を研鑽。頑丈なクッションケースや特徴的なリュウズプロテクター、ラジオミール塗料のダイヤルなどは、ブランドの挑戦の証しだ。
また、1993年より高級時計ブランドとして時計界に再登場するや一躍高評価を獲得。2005年には自社製キャリバーP.2002を発表した。その後も、レガッタ用のカウントダウン機構や複雑機構も交えて、続々と自社製ムーブメントをリリースしている。さらに、革新素材の開発やサイズのアップデートなど、過去の栄光に安住しない姿勢も潔い。
今春、パネライはネリーとブランドアンバサダー契約を結んだ。海と強いつながりを持ち、挑戦する姿勢を常に貫く共通点を持つ両者。このパートナーシップに異論を挟む者はいないはずだ。
「自分自身の限界に挑戦することが、僕を成長させてくれる」
現在、ギョーム・ネリーは競技からは引退したが、ダイビングは継続中。一方で、映像表現や広報活動を通じて、ダイビングから得た経験や哲学を世界中の人々へ伝えることに情熱を傾ける。その原動力や、何者にも負けない強い心を保つ流儀を語ってくれた。
——深さに挑むというのはどんな感覚なんですか?
「挑むというより、海の中を飛んでいるような自由さを感じます。海と一体になった平静な気持ちですね」
——引退後もトレーニングを続けているそうですが、日々どのようなことに気をつけて生活していますか?
「情熱とモチベーションを絶やさないことです。毎日同じトレーニングを繰り返しながらも、少しずつ新しい技術を探したり試したりと、クリエイティブであることが私の哲学。20年間それを続けているのです」
——美しく潜ることは大切ですか?
「スポーツでも美しさは大事。それは無駄な力がどこにもかかっていない証拠だからです。ダイビングしている人を初めて見たときに美しいと感じました。身体的な造形、体の動き、波の動き、海洋生物の動きとのシンクロ。これらが織りなす神秘的な美に魅了されます」
——恐怖心を克服するコツは?
「恐れはゲームの一部です。恐れがあるから注意深くなるし生きている実感も得る。重要なのは恐れに支配されないこと。水中では水圧、暗さ、寒さだけではなく、結果が残せるかという恐怖もあります。だから、リスクを最小限にする準備をしっかり行い、あとは息を止め、時を止め、思考を止め、あるがままを受け入れて恐怖に打ち克つことが必要です。結果、潜水は自分を成長させてくれる限界への挑戦でもあるんです」
——パネライとのパートナーシップからブランドアンバサダーに。
「誇りであると同時に責任も感じます。地中海で生まれたパネライと自分は同じDNAを持っている(笑)。自分が着ける時計には絶対的な信頼性を求めるので、確かな伝統と高い技術を持つパネライはまさに適役。地上か水中かを問わず着けています。もはや相棒という存在を超えて、自分のカラダの一部ですね(笑)」
パネライのDNAを継承する、正統派ダイバーズウォッチ
ルミノール サブマーシブル 1950
アマグネティック 3デイズ
オートマティック チタニオ – 47MM
ネリーが愛用するのは、ダイバーズに銘打たれる「サブマーシブル」最新作。ハイライトは、その耐磁性能だ。軟鉄性のインナーケースにムーブメントを閉じ込め、国際基準値をはるかに超える4万A/mの磁界に耐えうる。日常の帯磁リスクに備え、いざ海で必要な精度も保持できる。従来モデルよりも10%以上薄くなったチタンケースは、装着感も良好だ。ネリーが「カラダの一部のようだ」と言うのも頷ける。
ちなみに、通常ウォッチメーカーは防水性能テストを真水で行うが、パネライはすべて塩水で行い、海水が及ぼす回転ベゼルやリュウズプロテクターのロックなどへの影響もチェックする。名ばかりのダイバーズウォッチとは一線を画す、まさにプロフェッショナルダイバーズなのだ。
髙村将司=文