20代から好かれる上司・嫌われる上司 Vol.48
2021.07.30
LIFE STYLE

「努力は裏切らないから」と訳知り顔する上司は、20代から嫌われる

「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……

オリンピックは努力の成果を発揮する場

とうとう東京オリンピックが始まりました。結果としてメダルが取れたかどうかにかかわらず、選手の皆様にとってはこれまでの厳しい努力やトレーニングの成果を発揮する場ができ、本当によかったなあと私は思います。

連日のマスコミ報道で選手の皆様の様子を見ていると、今年50歳の私などは、若い選手の皆様が子供のようにも見え(失礼)、勝手に我が子に向けるような目で応援してしまいます。

著名な選手などは前から密着取材を受けていて、懸命な努力をしているシーンなども見ることができ、「やはりこういう努力をしてきたから、この結果があるのだなあ」「努力は裏切らない」と思うこともしばしばです。

能力は変わらない?それとも成長する?

さて、あなたは、「人の能力なんて遺伝子レベルで決まっていて、生まれ持ったものであり、そうそうは変わらない」と思う人でしょうか。

それとも「人の能力は、努力をすることによって、自分の能力を伸ばして成長することは可能だ」と思う人でしょうか。

スタンフォード大学のドゥエック博士は、前者の考え方を「固定された思考態度」(Fixed Mindset)と呼び、後者を「成長する思考態度」(Growth Mindset)と呼びました。

そして、前者の考えを持つとその考え通りに成長が止まり、後者の考えを持つとこれまたその考え通りに成長していくと主張しました。

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「努力すれば成長する」と思うと成長するのはなぜか

この「成長する思考態度」を持つとなぜ本当に成長するのでしょうか。

まず、自分の能力の限界はまだまだわからないと思うことで、努力することを無駄なことだと思わないため、継続的な学習や訓練を行うことができます。難しい課題や障害に対しても、そこから学びを得られると考えれば避けることなく挑戦することでしょう。

自分は変われる、いつでも改善できるのだと思っていれば、批判に対しても耳をふさぐことなく寛容になることができ、そこから学ぶことができます。

他者の成功を見ても、妬み嫉みの対象とするのではなく、何かを学び取って自分の糧にしようとします。そう考えると、結果、成長するのは当然でしょう。

職場で「努力は裏切らない」と言ったらどうなるか

オリンピックの選手が努力の末、結果を出すシーンを見たり、ドゥエックの「成長する思考態度」の話を聞いたりすると、「努力は裏切らない」と信じることがとても重要であることは疑う余地がないように思えます。

実際、そう思うことで成長し、成果が出やすくなるのですから、そういう思いを個々人が持つことはよいでしょう。

しかし、それを仕事の場で若いメンバーたちに「努力は裏切らないから君たちも頑張れよ。オリンピック選手たちを見ろ」と言うのは少し待った方がよいかもしれません。

そういうことを軽々しく若手メンバーに言ってしまうと、意外なところから反発を招いてしまうかもしれないからです。

もう「既に」頑張っているかもしれない

それは、彼らは既にがっつりと頑張っていて、それなのに成果がなかなか出ずに悩んでいるところかもしれないからです。

そんなときに「努力は裏切らない」と言われると、「そう、努力は裏切らない『はずなのに』、自分の場合は成果が出ない。ということは、やはりそもそもの自分の才能が足りないのかもしれない」と、逆に「固定された思考態度」に向かわせてしまうかもしれません。

そして、自分に対する自信を失った若者は、その引き金となった言葉を発した上司を逆恨みしてしまうこともあるでしょう。既に頑張っている人に対して「頑張れ」と言ってはいけないのです。

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努力しても、成果が出るとは限らない

加えてもうひとつ理由があります。それは、オリンピックでも仕事でもそうですが、最後の最後で結果が出るかどうかは、「努力をしてきたか」とか「成長する思考態度」以外の要素も大いにあるからです。

ものすごく頑張ったオリンピック選手でも、思いがけないアクシデントによって、求める結果を得ることができないことなど数限りなくあります。どれだけ努力をしても、運悪く想定外の障害が発生したり、自分を引き上げてくれる人や機会に恵まれなかったりで、努力が報われないことなどいくらでもあるのです。

「努力しなければ、成果は出ない」は真かもしれませんが、「努力しても、成果が出るとは限らない」も真なのです。

努力している個人に成果を出させてあげるのが上司

そして、その最後の「努力以外の要素」の大きな部分を担うのが仕事においては上司なのです。

若いメンバーが懸命に努力をして、あと一歩のギリギリのところで止まっているとしたら、そこをあと押ししてあげたり、引き上げてあげたりするのが上司の役割ではないでしょうか。

それを高みの見物でもするかのように「努力は裏切らないぞ」とか言っているのだとしたら、「いや、僕らはもう結構限界まで頑張っているので、なんとか助けてもらえませんか」という心の声が聞こえてきそうです。

努力を成果につなげる最後のドアの鍵を持っているのは上司の皆さんたちなのです。

連載「20代から好かれる上司・嫌われる上司」一覧へ

「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは……
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。
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組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス
『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

 
石井あかね=イラスト

# 20代から好かれる上司・嫌われる上司# オリンピック
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