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2021.09.26

ライフ

海の神秘に魅せられて半世紀。ハワイの水中写真家が捕らえてきた世界とは

当記事は「FLUX」の提供記事です。元記事はこちら

ウェイン・レヴィンさんは、子供の頃、祖母と一緒に南カリフォルニアからオレゴン州ポートランドへ向かう電車に乗った。そこで生まれて初めて、長方形の枠に囲まれた生命を目にした。
電車の窓枠をフレームに見立てたこの空想写真は、地球上の息をのむようなシーンを切り取る彼のライフワークを初めて実践に移したものだった。
レヴィンさんはその生涯をかけ、旋回しながら泳ぐ魚の巨大な群れ、海中の生き物たちの貴重な一瞬、ホワイトウォッシュが雲のようにたなびく海面の下で潜るサーファーの姿、葉が青々と茂る森やそびえる山々の壮大な風景などをカメラに収めていく。
12歳のとき、父親からプレゼントとして最初のカメラを手にした瞬間から、レヴィンさんには写真家としての天性の才覚があった。父親は医師だったが、息子に同じ道を歩ませようとはしなかった。
「私が撮った写真をたくさん褒めてもらえたので、小さい頃から写真はうまいのかもなと感じていました」と振り返るレヴィンさん。高校を卒業後、サンタバーバラにあるブルックス・インスティテュート・オブ・フォトグラフに進学した。
1968年に家族でハワイへ移住し、旅の写真に対するレヴィンさんの情熱が目覚めた。1年半をかけて、南太平洋をヨットで航海し、アジア、ヨーロッパ、メキシコ、中央アメリカの一部をトレッキングしながら回った。このときに撮影した写真がホノルルのギマアートギャラリーでの初の個展の元となった。


サンフランシスコ・アート・インスティテュートで美術学士を、ニューヨークのプラット・インスティテュートで美術修士を修めたのち、1983年にハワイに戻り、ハワイ大学マノア校で写真を教え始めた。そして、ここで水中写真の世界に足を踏み入れることになったのである。
「波が海岸線で割れる様を海の中から見るのが大好きでした」と、レヴィンさんは語る。この瞬間を捕らえるため、友達から水中カメラを借りて海中に持ち込んだ。しかし、次々と襲ってくる波で、自分の身体もカメラも傷だらけになってしまった。
「波が身体を(警戒すべき)岩に打ちつけるのではなく、波から放り出されたときに起きるんです。水位が下がったときに、岩やサンゴにズタズタに引きずられてしまう」。
このときの失敗は怪我の功名となり、傷をつけてしまった友人の水中カメラを手元に置き、代わりに自分自身のカメラレンズを差し出すことになった。こうして初めて本当に水中の世界を見ることになり、たちまち夢中になった。
水中写真だけでなく、レヴィンさんは陸上の作品でも多くの人に認められていた。長年にわたって、環境保護論者であり著名なハワイの写真家でもあるロバート・ヴェンカムさんのアシスタントとして働いた。この間、モロカイ島のカラウパパ国立歴史公園を記録し、のちに『Kalaupapa: A Portrait』という本の出版につながった。
オハイオ州のデイトン・アート・インスティテュートのアート・イン・レジデンスに参加し、さらにラピエトラ-ハワイ・スクール・フォー・ガールズという学校で写真のプログラムを開始した。
1990年には妻のマリーと結婚する。ふたりは旧アムファックギャラリーの展覧会に写真を出品していたことで知り合った。

その後、レヴィンさんはハワイ島のコナの街に引っ越し、ダイビングと水中写真への愛がさらに熟成する。
年月を経て、写真作品に対する価値観も変化した。単に素晴らしい瞬間を写しとるだけではなく、連作写真を通じて思考や感情をやりとりすることに魅せられるようになった。
レヴィンさんには、10年以上にわたってアクレ(※訳注 ハワイ語でメアジ)を追って、何百匹もの輝く魚が丸い群れをなして海中を移動する姿を収めた一連の作品がある。
「群れをなして動く様が大好きだったんです。群れが見事な形を作り出すことにも魅了されました。自然と魚の動きが調和して密集ができると、全体でひとつの個体のように見えてきます。1匹1匹が大きな有機体を構成する細胞のような存在です」とレヴィンさん。
この連作は、2010年に写真集『Akule(アクレ)』として出版された。これは印象的な魚の群れを白黒写真で収めた写真集で、2015年の秋に第2版が出版された。
レヴィンさんの写真は、アイコンタクトにこだわったり、クロースアップや完璧なアングルで撮影したりするのではなく、対象と環境との関係にフォーカスを当てている。サンゴ礁の側を泳ぐクラゲやイルカの自然な姿や、潮によって作られた海底の複雑な砂模様などが、白黒写真で鮮やかに描かれている。
「私たちの理解の少し先にある不思議な世界、それを伝えたい。私が水中写真を撮るのは、海面から見えない世界を明らかにしたいからではありません。その神秘の姿を深めていきたいからなのです」。
 
詳細は、waynelevinimages.comへ。                                                   
レア・グリーソン=文 ジョン・フック=写真 上林香織=翻訳
This article is provided by “FLUX”. Click here for the original article.


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