2021.06.09
LIFE STYLE

サッカー選手が「農業」に挑む。福島ユナイテッドFC、新機軸の好調ビジネス

当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら

「福島ユナイテッドFC農業部」の農業部長を務める樋口寛規選手

Jリーグ57クラブは、それぞれの地域に根ざした社会連携活動「シャレン!」を活発に行っている。

世界のサッカーリーグでも珍しい特色だ。そのなかから、特に社会に幅広く共有したい活動を一般投票と選考委員の審査で選ぶ「2021 Jリーグシャレン!アウォーズ」が開かれ、受賞したクラブの活動が5月10日に発表された。

パブリック賞を受賞したのが、福島市、会津若松市を中心に県全域をホームタウンとする「J3福島ユナイテッドFC」。選手たちが手づくりする桃やりんごなど農産物がみずみずしくておいしいと評判だ。

東日本大震災の原発事故の影響で受けた県産品の風評被害を払拭すべく、2014年から「福島ユナイテッドFC農業部」を立ち上げ、地元農家たちとタッグを組んで育てた農産物をイベントや試合などで販売してきた。

コロナ禍の昨年6月から農業部の公式オンラインショップを始め、販路を拡大し、農業支援にとどまらない事業展開が評価された。

どのように地元農家と連携しながら、収益を生むビジネスとして事業を進めてきたのだろうか。福島ユナイテッドFCゼネラルマネージャーの竹鼻快、事業部の阿部拓弥、農業部部長を務める樋口寛規選手に話を聞いた。

農作物への風評被害に、サッカークラブは何ができるのか

福島ユナイテッドFCが本拠地を置く福島市は、野菜や果樹などの農業が盛んな地域。震災後、原発事故による農業への影響を周囲に住む農家から聞いたことが活動の始まりだったと竹鼻は振り返る。

「原発事故の風評被害を受けて農作物が売れないこと、後継者が不足していることを理由に、農業を辞めようとする声が多く聞こえてきた。そこで、何か自分たちに協力できることがないかと考えるようになりました」

福島市内は福島第一原子力発電所から距離が離れているため、農作物などの出荷が制限されるほどの放射線量は検出されていなかった。しかし震災後は福島県産の野菜や果物への風評被害が多く発生。

消費者庁の風評被害調査で「福島県産の食品購入をためらう」と答えた人の割合は、この活動が始まった14年8月に19.6%ともっとも多く、徐々に減少しているものの、安全性が確保され、事故から10年たったいまでも8.1%に上る。

そうした状況を変えるために、サッカークラブは何ができるのか。

福島県の大野農園にある福島ユナイテッドFC農業部が育てるりんごの木。ここから活動が始まった

もともと繋がりのあった企業からの紹介で知り合った、福島県石川町でりんごを栽培する大野農園との出会いがきっかけとなった。

「大野農園代表取締役の大野栄峰さんは、当時から異業種とのコラボレーションを通じて地域の農業活性化に取り組んできた方。大野さんと『一緒にやりましょう』という話になり、広報活動を行うだけでなく、ある程度自分たちが本気で農業に関われるようにと、りんごの木を2本購入したところから活動が始まりました」(竹鼻)

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農作業は選手とスタッフがトレーニング後に行う。可能な限り選手全員が工程に携われるように、作業は持ち回り制で分担されているが、農業部部長を務める樋口選手は、できるだけすべての作業に参加している。

「最初はどうしたらいいかわからず、恐る恐る作業をしていたんですが、農家さんが優しく教えてくれるので、段々と自信をもって作業ができるようになってきています」

「福島ユナイテッドFCのお米」(2kg、1620円)。農業部の公式オンラインショップには、生産者のストーリーも載っている

いま農業部で取り扱っている農作物は桃やアスパラガス、米など、全部で6品種。その中でも夏の暑い時期に旬を迎える桃は、もっとも作業がハードな農作物だという。

「甘みが強くておいしい、あかつきという品種を栽培しています。実がなってから傷んでいくのが早いので、半日がかりで行う収穫作業はかなりの戦いですよ(笑)。

おいしい状態のまま届けられるように、効率を意識しながら、箱詰めや発送作業までを自分たちで行っています」

夏に桃の収穫を行う選手たち

今年の売上目標は1000万円

農業部で栽培、収穫された野菜や果物は福島県産の農作物や加工品を出店する「ふくしマルシェ」と農業部のオンラインショップで販売されている。

ふくしマルシェでは、アウェイの試合会場や提携クラブである湘南ベルマーレのスタジアムなどで出店を行ってきた。

その売上は、1度の開催で20~40万円ほど。新型コロナウイルス感染症が拡大する前の2019年には、農業部の活動で年に約700万円の売上があったという。これは、ファンクラブ会費による収入と同額程度に及ぶ。

2019年7月、ザスパクサツ群馬のホームスタジアムで開催された「ふくしマルシェ」。相手チームのファンも農産物を購入してくれる

クラブの資金を確保する新たなビジネスとしての基盤が作られているが、これは活動開始当初からの狙いでもあった。竹鼻はこう明かす。

「サッカークラブはホームタウンが決まっているので、拠点のある地域の人口がそのままクラブの規模になる。J1の観客動員数は人口の1%と言われていて、J2やJ3はもっと低い。なので、チケットやグッズ収入はある程度限界が見えていました。そこで、社会貢献活動に取り組みながら、新しいビジネスにしていくことも意識していました」

現在はコロナ禍によりふくしマルシェでの出店は制限されているが、その分オンラインショップの売上で補完することができていると阿部は言う。

「オンラインショップでの売上は好調な状態が続いています。今年は農業部全体で1000万円を売上目標にしていますが、そうするとチケット収入にも並ぶ数字になる。当初考えていた通り、新しいビジネスとしての軸ができてきています」

出店やオンラインショップでの販売が実績よく続いてきたのは、農作物自体の品質がいいことなどもあるが、明確なターゲット設定によるところが大きな要因のひとつだ。

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阿部は当初からの事業戦略をこう語る。

「農作物を扱う他のオンラインショップと競争しようとしているのではなく、『サッカー好き』が僕らのターゲット。普通、応援しているクラブ以外のグッズを買ってもらうことはないですが、サッカークラブが地域課題の解決に向けて作っている農作物ということで、他クラブのサポーターにも購入してもらえる状況ができています」

アスパラガスを収穫する福島ユナイテッドFCゼネラルマネージャーの竹鼻快(左)ら

また、活動を通じた地元農家との繋がりは、ビジネス以外にも広がっている。農作業を通した選手と農家の交流が、クラブと地域の関係性が密接になる機会を作っているのだ。

樋口選手は「農家さんとたわいもない世間話をしたり、作業後に一緒にお茶をしたり、コミュニケーションを取る機会が増えています。その中で知り合った方がスタジアムに訪れて試合を見に来てくれることもある。そうした人たちが来てくれるからこそ、サッカーもよりがんばろうと思うことができています」と語る。

今年で選手歴11年目の樋口選手。プロスポーツ選手としてのセカンドキャリアに向けた正直な想いも、農業部に取り組むモチベーションに繋がっているという。

「段々とサッカーだけをやっていればいいという歳ではなくなってきていて。いち社会人としてサッカー以外の知識を増やしたい、人として成長したいという思いの中で、積極的に農業部の活動に携わらせてもらっています」

深さを持って、全国へ福島産農作物の魅力を発信

はじめは農業への風評被害を解決するために始まった取り組みが、新たなビジネスとして、クラブと地域の交流の機会として、選手が人間性を高める場として、広がってきた福島ユナイテッドFC農業部の活動。樋口選手は農業部長として「継続性を持ちながら、より活動を展開していきたい」と意気込みを語る。

「この事業も時間が経ってきたことで、地元農家さんの温度感に合わせながら、福島産の農作物の魅力を発信することが一番の目的になってきています。農家さんたちの信頼を積み重ねながら、とにかく長く事業を続けられたらと思っています」

今年4月初旬、桃の木が開花し、余分な花を摘みとる作業をする樋口選手。おいしい桃を育てるため、ひと手間を惜しまない

その中で大切にしていくのは、広がりではなく深さ。これからは単に農作物の種類を増やしていくのではなく、いま育てている野菜や果物への知識や経験、地元農家との繋がりを深めながら、福島産の農作物の魅力をより多くの人に発信していくことを目指しているという。

「僕たちはサッカー選手なので、練習や試合のことを考えるとむやみやたらに種類を増やすことはできない。これからは深みをもたせていきながら、全国のみなさんに福島のおいしいものを届けられたらいいなと思っています」

福島ユナイテッドFC農業部では、福島の桃やりんご、米などが届く農産物の定期便(1万円から)を、6月30日まで予約受付している。高い糖度と芳醇な香りが特徴的な洋梨「ル・レクチェ」や「高尾」という高級品種のぶどうなど、希少な果物も予約販売されている。コロナ禍でなかなか出かけづらいからこそ、産地直送の果物や野菜を味わうのも楽しいだろう。

これから旬を迎える桃と10月中旬に収穫される洋梨「ル・レクチェ」

◾️「2021 Jリーグシャレン!アウォーズ」各賞はこちら

・ソーシャルチャレンジャー賞:横浜F・マリノス、アルビレックス新潟
・パブリック賞:福島ユナイテッドFC、清水エスパルス
・メディア賞:ガイナーレ鳥取

 

宮本拓海=文 督あかり=構成 福島ユナイテッドFC=写真

記事提供=Forbes JAPAN

# フォーブス# 福島ユナイテッドFC# 農業
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