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2021.04.15

ライフ

「何もない」からできたまちづくり。小山薫堂がみた幸せの閾値(いきち)

当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら
観光ではなく、関わって光る「関光」を目指す甲佐町
築130年の古民家ホテルとして改修した「NIPPONIA 甲佐 疏水の郷」が、熊本県甲佐町にオープンした(2020年11月)。ホテルは地元住民によって開発・運営されている。

甲佐町は人口1万人の、何もない町。これまで長い期間、民宿やホテルすらなかった。しかし、「何もない甲佐町だからできることがある」というから不思議だ。

自身も熊本出身であり、多くの地域プロデュースを行う小山薫堂氏が、同ホテルを運営する地元の企業 Drawingを代表して米原賢一氏、一般社団法人パレットを代表して大滝祐輔氏と共に、〈何もない町のまちづくり〉の面白さについて雪の熊本で語り合った。

地元に取り込まれる感覚



商店街入り口にあったかつてのたばこ屋は、約130年の歴史を経て、いま古民家ホテルとして活用されている。

主屋と離れがあり客室は3つだ。「地域とゆるやかにつながる縁側(えんがわ)」のコンセプトを表すように川沿いに縁側がある。宿で過ごして良し、自然にひかれるままに外に出て過ごすも良し、の価値を提供している。



施設の支配人はじめ、朝食提供店、体験提供事業者、施設の施工会社まで、関わる全ての人が地元・甲佐町の住人。滞在者は気がついたら、地元・甲佐町に取り込まれている感覚だ。

また、商店街をめぐりつつ、地域との交流がうまれるパス「KOSA PASS with NIPPONIA」を宿では準備しており、商店街で散歩していると、美味しいコーヒー1杯、ニラが沢山はいった「ニラメンコ」というメンチカツ1つと、様々な〈おまけ〉がもらえる。

美濃和紙を使った版印刷が美しい。

来た人も地域の人もハッピーになれる「関光(観光)」

近年、多くの地域で、観光客や移住者の増加を目的としたまちづくりが行われている。しかし、まちづくりが必ずしも地域住民に歓迎されている訳ではない。

「静かな暮らしを乱す観光客はいらない」という声が聞こえてくるからだ。甲佐町はどうだ。聞けば、同じように移住者を歓迎しているが、ひと工夫がされている。

「人を呼ぶ=観光客ですが、それだけで止まらずファンになってもらうことを目指しています。その先に移住があるんです。他者が新たに住み始めてもトラブルにならぬよう、ファンになってもらう必要があります。そして、僕らはそんな方々と一緒にまちづくりがしたい」(米原氏)



「僕らの『かんこう』は、通常の観光ではなく『関って光る』という意味での関光(観光)。地域の人がお節介しながら、旅行者にどんどん関わる。お節介をする地域の人も、町に来た人もハッピーになれるような“しかけ”をちりばめています。

ホテルのラウンジは、地域の方にも気兼ねなく来ていただくスペース。ラウンジにはパン屋が併設されており、宿泊した人と地域の人が交流できるような空間になっています。地域全体でお迎えできるような空気を常に意識しています」(大滝氏)



ホテル開業の影響で、観光に訪れる人が増えた甲佐町では、まちから失われつつあった賑わいが増えたと喜んでおり、多くの人がもてなしに参加しているという。


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