OCEANS × FLUX Vol.7
2021.04.11
LIFE STYLE

約100年、変わらない魅力。ハワイ島コナの、ローカルに愛される老舗ホテル

当記事は「FLUX」の提供記事です。元記事はこちら

1917年に日系一世のマナゴ夫婦が始めたハワイ島、コナにある「マナゴホテル」。家族代々受け継ぎ現在4代目、地域のランドマークとしての魅力は変わらない。ローカルが集うレストランの人気メニューはポークチョップ。

夕暮れ時、マナゴホテル前を走るハイウェイ沿いの歩道に、白髪の女性が立っている。女性は立ち位置を変えては、ホテルのクリーム色の外壁と、金属製で波型の日よけと、その上に整然と並ぶ2階の窓が最もうまくカメラに収まる角度を探している。

ホテルの入口付近では、4人の客がウインドー越しに中のアンティークボトルを眺めてから、ロビーに入っていく。受付カウンターの奥から宿泊客に声を掛けている人物は、経営者のタリン・マナゴだ。

数分後、ホテル正面の突き出し看板が点灯する。建物最上部の「マナゴホテル」と記されたコーヒー色の文字の中央から1階の日よけのすぐ上まで架かる縦長の看板で、赤と緑と青のネオンが、地元の人であれ、島の住民であれ、海を渡って来た人であれ、分け隔てなく迎え入れてくれる。

マナゴホテルは、サウスコナ地区の象徴であるホテル兼レストランで、タリンと妹のブリトニーは4代目の経営者に当たる。姉妹の曽祖父母にあたるマナゴ・キンゾウとオサメが事業を始めたのは1917年。それまでの雇い主から借りた100ドルが元手だった。

曽祖父母は、キャプテンクックで買い取った民家を改築して、全2部屋のうち1部屋でうどんやパンやコーヒーの提供を始めた。

当時、タクシー運転手が近隣のパリスホテルで乗客を降ろしてから、夫婦の店を訪れて休む場所を求めることがあった。オサメはこの要望に応えて、50セントから1ドルで布団を貸し出した。

ホテルの古風な魅力は、時の試練にも耐えてきた。

こうした運転手が常連の宿泊客になると、曽祖父母はこの機会を捉えて事業を拡大し始める。

1929年の拡張工事と全面改装を経て、現在の旧館が完成した。その後、1959年から1969年にかけて、旧館の裏側に3階建ての新館を段階的に増築した結果、部屋数は64になった。

レストランは広々としていて、懐かしい風合いの木製テーブルで食事を楽しめる場所だ。マナゴ一家によると、ハワイ州に現存するレストランとしては最古だという。

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時代を超えて受け継ぐ我が家

創業から1世紀が経った今、マナゴホテルは常連客にとって各自の幼少期を思い出させてくれる存在であり、初めて来た人にとっては、キンゾウとオサメの地域に尽くしたいという思いを体感できる場所だ。そしてタリンとブリトニーにとって、ホテルは我が家である。

タリンとブリトニーが受け継いだのは、コナコーヒーの木と同じくらい地域に深く根差したホテルだ。現在30代の姉妹は、幼い頃からホテルの洗濯室で遊んで、庭を駆け回って、皿洗いもやった。ブリトニーは、毎日キャンディー入れにお菓子を詰めたり、お金を数えたり、ソーダ販売機に補充したりして、祖父のハロルドから25セントの小遣いをもらったことを覚えている。

タリンは、ホテルで育った子供時代を「私たちにとっては普通のことでした」と振り返った。

ホテルに入る人は、誰であれ正面にあるキンゾウとオサメの肖像画に出迎えられる。肖像画の間に掛かっているのは、タリンとブリトニーの祖父母ハロルドとナンシーの結婚50年を記念した時計だ。祖父母はホテルの2代目経営者でもある。

真珠湾攻撃の後、自宅に戻ったハロルドは、歩道で父のキンゾウから「明日からこのホテルはお前に引き継ぐ」と告げられた。その後、ハロルドが入隊して家を離れたが、妻のナンシーがキンゾウとオサメを支えて、ホテルは営業を続けた。

ロビーの壁には、島の歴史を伝えるニュースの切り抜き記事や写真も飾られている。玄関の右側にあるガラスケースに収められているものは、キンゾウが使っていた古いカメラだ。

受付カウンターの先にはレストランがある。壁のレターボードに書かれたメニューの中で、特に有名なのがポークチョップだ。宿泊客だけでなく、地元の住民もここで食事する。子供の頃に親に連れられて来た人が、今度は自分の子供と一緒に訪れるのだ。

レストランで食事することを習慣や伝統のように捉えている人も多い。数十年前は、コーヒー豆を収穫する労働者が、1日の締めくくりに酒を飲む場所だった。今では、子供の登校前に家族で早めの朝食を楽しむ若い夫婦も見られる。

タリンとブリトニーの両親ドワイトとシェリルは、36年前にホテル経営を引き継いだ。両親が取り組んできたのは、ホテルの懐かしさを残しつつ、客がもてなしを実感できるような快適な場所にすることだった。

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変わらないから戻るリピーター

大規模な変化を起こせば、常連客を遠ざける恐れがある。ドワイトがそう学んだのは、マナゴホテルを受け継ぐために戻ってきた1984年のことだった。オアフ島の旧カハラ・ヒルトンでバーの雑用係から経験を積み、最後はハワイ島の旧マウナ・ラニ・ベイ・ホテルで飲食部門の長まで上り詰めたドワイトは、マナゴホテルを近代化するという壮大な計画を持っていた。

たとえば、客室にテレビや電話を設置するといった案である。ところが、常連客から「そんなことをしたら、近いうちにホテルに通うのをやめるぞ」という警告を受けた。

タリンとブリトニーも、それぞれオアフ島のレストランとカリフォルニア州のホテルで働きながら業界について学んでから、マナゴホテルの経営を受け継いだ。ただし、その後姉妹が行ってきたのは、ホテル予約サイトへの掲載(予約自体は、今も紙の予約帳に手書きで記入)といった小さな改良である。

姉妹は、変化のために変えるつもりはない。それは、身の回りにあるものの多くが自分たちより長い歴史を持っているからだ。たとえば、キンゾウの肖像画の右側に立てかけられている木の柱は、ホテルの創業当時に、旅人を泊めるために使われていた和室にあったものだ。

時代がかった装飾。名高いポークチョップなど長年続くメニュー。マナゴホテルには、時を忘れさせるようなものがたくさんある。

「ここは、私の子供時代そのものです」とブリトニーは語る。「私たちはこの世界で育ちました。ここでの生き方が好きなんです。今のままでうまくいってるなら、わざわざ変える必要はないと感じています」。

「だから皆ここに戻ってくるんです。変わらないものが見られるから」とタリンも付け加える。

宿泊客は、昔も今も夕食のポークチョップを楽しみにしながら、鉢植えが並ぶ庭を歩き回ることができる。和室も1部屋あり、畳と障子と布団、そして日本式の風呂まで付いている。ハロルド・マナゴが母親のために作ったというこの和室は大人気で、チェックアウト時に来年の予約をしていく人もいるほどだ。それから、どの客室にもテレビはない。受付デスクの向かい側にテレビを見る部屋があるだけだ。

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ホテルに捧げた先代

世代を超えても変わらないものは他にもある。マナゴ家が、事業と客に献身的に取り組んでいることだ。たとえば、ドワイトの母ナンシーは朝4時半から週7日間働いていて、夜9時までホテルにいることもあった。ドワイトによると、1カ月間で最も遠出したのがホテル前の歩道だったときさえあったという。

いつも地元の人と観光客で賑わっているホテルにも、静かな場所はある。

「私たちは、献身的に取り組んできました」とドワイトは話す。「妻も身を捧げてくれましたし、従業員も本当に頑張ってくれました。そのおかげで、現在の私たちがあるのです。もう一度やり直せるとしたら、何か違うことをするでしょうか。いえ、ほぼ何も変えないでしょう。これまで取り組んできたことに、何も悔いはないからです」

タリンとブリトニーは、父親の中に祖父の姿を感じることが増えてきた。娘2人に経営を引き継いでからの仕事ぶりや接客の仕方が、祖父に似てきたのだという。「父は絶対に認めませんが、皆がそう感じているんですよ」とブリトニーは笑いながら話す。

日が暮れ始める。テレビがある部屋では中年の夫婦が手を取り合って『CBSウィークエンドニュース』を見ている。番組が終わると、ハワイの地元局「KHON2」にチャンネルを替えて、夕方のニュースを見始める。同じ頃、花柄のドレスとラウハラ帽子を身に着けた老女の手を引いて、女性がホテルに入る。

後ろから、アロハシャツを着た男性も付いてくる。3人は、1920年に撮影された写真を通り過ぎる。当時のホテルを背景に、作業着をまとったホノカア農場の労働者たちが写っている写真で、1人はクレーン・シンプレックス・モデル5の自動車に腰かけている。

ホテルの突き出し看板のネオンは、地元の人であれ、島の住民であれ、海を渡って来たであれ、分け隔てなく迎え入れてくれる。

そろそろ夕食の支度ができたようだ。ラウハラ帽子の老女たちがレストランに入ると、10席のうち9席に先客がいたので、最後の12人掛けの席に腰を下ろす。この席の中では一番乗りだったようだ。

レストラン客の多くは常連で、夜にサウスコナの町へと帰るときは、スタッフが名前で呼びかけてお礼を伝える。初めて来た人は、注文したおかずと茶碗に入ったご飯が来るまでの間、壁のメニューに目を走らせている。この中から、きっとすぐに次の常連客が生まれるだろう。

 

写真=ミッシェル・ミシナ 文=キャメロン・ミクルカ 翻訳=加藤今日子

This article is provided by “FLUX”. Click here for the original article.

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