OCEANS

SHARE

2021.05.26

ライフ

世界を駆け巡る自然写真家・高砂淳二「大切なのはアロハの心を持って接すること」

体長10数mの美しいザトウクジラ。その姿を実際に目にすると、この世の神秘を感じざるを得ない。そう話してくれたのは自然写真家の高砂淳二さんだ。
彼が撮影するのはただの風景ではない、“生命の神々しさ”だ。
 

ときに子守唄を歌いながらシャッターチャンスを狙う

世界中を駆け巡る自然写真家・高砂淳二の信念「被写体、それは生命です」
写真のザトウクジラは南アフリカの沖合で撮られたもので、海面下から飛び上がる様子を狙う望遠レンズの先で大きくジャンプした。
クジラは人と同じ哺乳類。肺呼吸をし、海中では息を潜め、水面上に出ると呼吸する。右側中央部に見られる、鼻から出た水飛沫がその証しである。
人とクジラの祖先はともに原始的哺乳類といわれ、海から陸に上がっていった生物の進化において、クジラの祖先はのちに海に帰っていった。ルーツをたどれば仲間。普段の生活で彼らの存在を感じることはないが、都市から遠く離れた海には確実に存在する。
「写真は南アフリカのコーヒーベイに2週間ほど滞在して撮影したものです。毎朝ボートで沖に向かい、一日中海上を走り回って過ごすなかで撮りました。
コーヒーベイの大きな見どころは6月頃のサーディンラン。南極から10億匹とも20億匹ともいわれるイワシが北上してくるのですが、同時にその群れを狙いクジラやイルカ、サメたちが移動してきます。このときもクジラを見つけて追っていました。
すると、潜った次の瞬間に巨体が空へ! ボートの30m先くらいで起きた出来事。スケールはとても大きく、同じ哺乳類とはいえ別次元の生き物としか思えない。神々しささえ感じました」。
続けて高砂さんは、身体は大きいが凶暴性は感じないのだと言った。感動的な遭遇の経験は南アフリカ以外の海でもあり、むしろクジラはフレンドリーで、好奇心が強く、興味を抱いて高砂さんが乗るボートに近づいてきたこともあったという。
彼らが近づいてきたのは、高砂さんの佇まいにも理由があったのだろう。撮りたいと思う生き物に脅威を抱かせず、好奇心をくすぐるのが高砂流。そう感じさせるもう1つのエピソードはカナダでのことだ。
「秋にシロフクロウを撮りにいったことがありました。シロフクロウは警戒心が強いものの好奇心が旺盛なのだとガイドさんに教えられていたので、1人での散策中に見つけたときに子守唄を歌いながらゆっくり近づいてみました。
撮りたいと思うと殺気みたいなものが出てしまうのですが、出ないようにシロフクロウには視線を送らず、心の中でも『何もしないよ』『俺は仲間だよ』と念仏のように唱えていました。
そのうえで、こちらを気にしたように思えたら動きを止めて、安心した様子を感じたらまた近づいて。そのようなことを繰り返し、最終的にはかなり近寄って撮ることができました」。
敵ではなく、面白いやつだと思わせる。そのため自分の子供の幼少期に歌って聞かせた子守唄を口ずさんだ。存在感を抑えるために腹這いで近づくこともある。
目線は等しく、もしくは下から。愛情を持って。それができれば、まず自分の動きが変わる。動きが変われば相手の安心感を引き出せ、好奇心を抱かすことができる。
同様のスタンスでシロクマやイルカなども含め野生動物を多く撮ってきた。状況は多彩。だがどんなときでも大切にしているのはアロハの心を持って接すること。敬意や感謝を大事にするのがいい。そう教えてくれたのは、ハワイの先住民だった。


2/4

次の記事を読み込んでいます。