ニューノーマルな時代の「大人カジュアル」ガイドブック Vol.23
2020.10.19
LIFE STYLE

これからの働く空間をつなぐ。デザイナー・山下泰樹が提案する “食寝働分離”

今やリモートワークも珍しくなくなった。そんな新常態にはたして私たちは追いついていけるだろうか。

その基盤となる住空間の充実とともに、社会との懸け橋について語る。

 

「気持ち良く過ごす。その当たり前を提供したいですね」

20世紀初頭イタリアで誕生した未来派は、都市と機械の新世紀に対し、速度と同時性を讃え、芸術を通して意識変革を促した。距離と時間の制約から解放される自由。自宅に居ながらにして世界とつながるリモートワークこそこれを実現し、未来派が夢見た理想なのかもしれない。

ニューノーマルの時代、デザイナーの山下泰樹さんは、新しい住環境として“食寝働分離”を提案する。これは住宅の基本である“食寝分離”に働を加え、十分な広さにおいて、それぞれの目的に応じて機能的に住空間を分けるという発想だ。

だがそれはリモートワークによって気付かされた、私たちの生活環境の現実から生まれたものでもあった。

インテリア・建築設計デザインを手掛ける山下泰樹さん。
山下泰樹●1981年、東京都生まれ。2008年インテリア・建築設計デザインを手掛けるドラフトを設立。オフィスデザインを先駆けに、都市開発や環境デザインに領域を広げる。カフェを設けたゆとりあるオフィスは快適な空間づくりとともに、海外拠点のリモートワークもいち早く実践する。

「世界50都市ぐらい訪れていますが、世界のホテルはたとえ狭くても空間の使い方が上手で豊かです。日本ではどうしてこれができないのか。

都市部では、食事をするダイニングはレストラン、友達と憩うリビングはカフェというように、街に機能を委ね、肝心の住まいは寝る場所でしかない。そんな現状から、まず決定的に空間が狭く、家で働く以前に実はすごく無理していたということを知ってほしかった」と山下さん。

新たな住空間の提案は社会に一石を投じ、動かしたのは個人だけでなく、企業や官公庁だった。

「やっぱり変わっていかなきゃダメなんだという意識は、企業もそうだし、政治のレベルもそう。特に興味を示したのが大手の不動産デベロッパーです。これまで経済効率や利益率を上げるためにスペースを小分けにして詰め込んできましたが、余裕ある空間づくりへゆっくりでも動き始めると思います」。

一方でリモートワークは、個人や家族の負担によって支えられている部分がかなり多いという。

「会社もオフィスを縮小しコストを浮かせるのではなく、もっと空間をゆったり使うべきだし、週一の通勤なら社員も都内でなく、湘南や軽井沢など家族と豊かに暮らせる環境に住み、その費用を補助するのもいい。

ただずっと自宅で作業していると、何でこの会社で働いているんだ?という気にもなってきます。会社だから得られる満足や充実感も大切で、それによって仕事への意識が好転していくのだと思います」。

仕事は人生の多くの時間を占める。自分自身や他者だけでなく、リモートワークとなると、家族とも向き合うことがその充実につながる。

「自室に人も呼べず、オフィスで働く姿も外には見せない。でも快適で余裕のある住空間をつくれば、そこが人と人との接点になり、懸け橋になると思います。ITという小窓の中だけでつながるというのも侘しい。僕らの仕事とはそういうことなのでしょう」。

未来はかけ離れたものではなく、今この現実に端緒はある。その扉を開くのがデザイナーだ。

 

川西章紀=写真 柴田 充=文

# リモートワーク# 食寝働分離
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