OCEANS × Forbes JAPAN Vol.29
2020.10.14
LIFE STYLE

「タクシー会社っぽくない」と話題。バズを狙う三和交通の覚悟

当記事は、「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちらから。

TikTok動画に出演するおちゃめな中年男性は、同社の取締役(右)と渉外主任(左)だ(三和交通公式YouTubeより)
TikTok動画に出演するおちゃめな中年男性は、同社の取締役(右)と渉外主任(左)だ(三和交通公式YouTubeより)

軽快な音楽に合わせ、全力でダンスを踊るおじさんたち──首都圏でタクシー・ハイヤー営業をする三和交通の公式TikTok動画が話題を呼んでいる。出演するおちゃめな中年男性は、同社の取締役と渉外主任だ。

三和交通がネット上で話題となるのはこれが初めてではない。ドライバーが黒スーツとサングラス姿で送迎する「SP風TAXI」や、霊が出ると噂される現場をドライバーの解説付きで巡る「心霊スポット巡礼ツアー」など、タクシー会社らしからぬ「ぶっ飛んだ」企画がたびたび注目され、ファンの心を鷲掴みにしている。

なぜこのような取り組みを行うのか。三和交通広報部の小関正和さんと和田茉璃奈さん、乗務員の苅部俊哉さんに話を伺った。

10年後には運転手がいなくなる?

──タクシー会社とは思えないユニークな公式SNSでの発信が話題になっています。どんな目的で始められたのでしょうか?

和田茉璃奈(以下、和田):実は若い世代への「採用活動」をいちばんの目的に始めました。 

タクシー業界は、従業員の年齢層が高く、現在は50〜60代が中心。このままだと10年後には主力なドライバーたちがほとんど引退してしまって、人材不足に陥る危険性が、業界全体で強く問題視されています。

「タクシー会社は定年後に入るもの」というイメージや、硬い・怖いなどのネガティブな印象を一新して、若い世代に「働いてみたい楽しい職場」だと思ってもらいたい。ぶっ飛んだ企画やSNSを通して、三和交通に興味を持ってもらい、検索してほしい。その入り口になればと、2013年からSNSでの発信を始めました。

現在は、TikTokやTwitterなど多くのSNSを運用しているのですが、YouTubeでは、私たち広報部社員が「まーちゃん」「KOOちゃん」の愛称で出演。会社の取り組みを紹介するだけでなく、「〇〇をやってみた」など、一見会社と関係ない企画にも挑戦しています。

ちなみに、私が激辛のインスタント焼きそばをただ食べるだけの動画は、再生回数1.3万回にも伸びました(笑)。

写真左の「まーちゃん」、中央の「KOOちゃん」は広報部の和田茉璃奈さんと小関正和さんだ(三和交通公式YouTubeより)
写真左の「まーちゃん」、中央の「KOOちゃん」は広報部の和田茉璃奈さんと小関正和さんだ(三和交通公式YouTubeより)

三和交通のタクシー会社としての強みは、採用ホームページや説明会でアピールすればいい。とにかく、どんな手を使ってでも、三和交通で働くスタッフの素顔を皆さんに知ってもらいたい。その一心で、毎日タクシー会社の広報とは思えない仕事を頑張っています。

──三和交通さんが打ち出していらっしゃるタクシーのツアー企画も本当に個性的です。「タクシー会社らしくない」強烈さですね。

小関正和(以下、小関): SNSだけでなく、タクシーを利用したユニークなツアー企画も行っているのですが、これらもすべて、最終的には採用につながることを意識しています。

現在は、期間限定の企画も含めて、常時計10種類ほどのツアーを実施しています。霊が出ると噂される現場をドライバーの解説付きで巡る「心霊スポット巡礼ツアー」や、ドライバーが黒スーツとサングラス姿で送迎する「SP風TAXI」、忍者の格好をしたドライバーがござる口調で話す「忍者でタクシー」などが人気ですね。

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よく「タクシー会社らしくなくて、面白いね」と言われますが、実はこうした企画のほとんどは、タクシー運転手だからこそ生まれたアイデアなんです。

例えば、2015年から夏に毎年運行している「心霊スポット巡礼ツアー」。この企画で巡る心霊スポットは、乗務員が実際に不思議体験をした場所をヒアリングして決めています。毎日仕事でさまざまな道を走っているからこそ、恐怖体験を聞いてみるとポンポン出てきて驚きました。

また、タクシー運転手の多くが中途採用で入社していることから、転職前の職場の経験を生かした企画もあります。

「カメラバカドライバーと行くツアー」では、元写真教室講師や広告・映像制作の経験のある乗務員が、写真スポットを案内しながら撮影の仕方を教える、というもの。

タクシー運転手は地域を知り尽くしているだけでなく、前職も多種多様。経験豊富な彼らだからこそ、ユニークな企画が実現できるというわけです。

──こうしたツアー企画やSNSの発信によって、「三和交通って面白い!」「取締役の踊る姿が可愛い」など、大きな反響があったかと思いますが、本来の狙いとしていた採用面での効果はいかがですか?

和田: 実際に、企画やSNS運営に力を入れ始めてから、新卒採用への応募人数は急増しました。10年前に新卒採用を開始した当初は、例年2〜3人ほどでしたが、現在では20人近くにまで伸びています。

苅部俊哉(以下、苅部):私も転職で乗務員になったのですが、入社前に三和交通の奇抜な企画やSNSを知って、普段の丁寧な接客とのギャップ萌えといいますか(笑)、いい意味でぶっ飛んでいる面に好感を持って入社を決めた1人です。

いまでは、前職の電気量販店の接客で培った知識をもとに、「カメラバカドライバーと行くツアー」の運転手も任せてもらっています。これまでの経験を生かせることはやりがいになりますし、何よりすごく楽しいですね。

元デザイナーの社長によるアイデアが爆発

──多岐にわたるユニークな取り組みですが、誰が発案しているのでしょうか?

小関:ほとんどが代表取締役社長の吉川永一による発案です。

吉川は、現在43歳で、2003年に三和交通に入社。それまでは、音楽のプロモーションビデオを作成するなど、フリーランスのデザイナーとして働いていました。

吉川のこうした職歴とデザイナーならではの柔軟な発想が、「タクシー会社」という枠を飛び越えた企画を生み出す源泉なのかもしれません。実現不可能な無茶振りも多いので、広報部としては困ることもあるんですけどね(笑)。

和田: SNS運用もほぼすべて吉川の提案です。彼はアイデアを出すだけではなくて、周りを巻き込むことがとても上手いんですよ。

私も元々は、配車センターのオペレーターをしていたのですが、吉川に声をかけられて、いまや動画で激辛焼きそばを食べることに……(笑)。

当初は、動画の企画も撮影も編集も未経験だったので抵抗もあったのですが、あれよあれよと吉川の勢いに流されて、勉強を始め、いまではすべての動画編集を任されるようになりました。

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失敗してもいい。とりあえずやってみる

──吉川さんのリーダーシップだったのですね。社内の雰囲気は、こうした「ぶっ飛んだ」取り組みに対して、最初から前向きだったのですか?

和田:いえ、ツアー企画を始めた当初は、ほぼ全員が大反対(笑)。「何をやっているんだ」と、受け入れがたい空気が強くありました。

三和交通は全送迎の約50%が無線配車と予約によるもので、リピーターのお客さまも多い。だからこそ、こうした奇抜な取り組みで会社のイメージに傷がつき、お客さまが離れていく恐怖心が大きかったのだと思います。

でも、いざ思い切ってやってみると、お客さまの間でも評判が良くポジティブな意見を多かった。また、SNSで話題になったり、メディア露出が増えたりしたことから、社内の理解も少しずつ広がって、いまでは「テレビで見たよ!」と乗務員から声をかけてもらうことも多くなりました。

小関:「失敗してもいい。とりあえずやってみる」。そんな吉川のチャレンジ精神に感化されて、最近では乗務員からの企画の発案も増えているんですよ。

例えば、有名な三億円事件の犯人の足取りルートを巡る「三億円事件ツアー」は、事件当時、実際に事情聴取を受けたことがある乗務員のアイデアで実現しましたし、新撰組ゆかりの地を巡る「THE 新撰組ツアー」は、歴史好きな乗務員が主体となって運行しています。

公式のSNSも、最初は広報部社員のみで運営していましたが、いまでは乗務員や役員も積極的に出演してくれるようになりました。ユニークな企画やSNS運用が、部署を超えた会社全体の風通しを良くするきっかけになっています。

和田:実は、ツアー企画のほとんどは赤字です(笑)。予約制のサービス企画では通常の運賃に加え指定料金をいただいたり、ツアー企画では運行台数を調整したり、さまざまな工夫はしていますが、やはり採算は取れません。

ですが、企画やSNSはすべて売り上げではなく、注目を浴びて「バズる」ことを目指しているので、利益がなくても取り組みを続けています。これからも、より多くの方に三和交通やそこで働くスタッフたちの姿を知っていただけたらと思っています。

──10月からタクシーによる飲食配送が全面解禁されるなど、コロナ禍をきっかけにタクシー業界も変わりつつあります。今後の展望について教えてください。

和田:このコロナ禍では、お使い代行サービスや、社員が抗体検査を実施した様子の動画をYouTubeで配信するなど、試行錯誤や変化がありました。さらにこれからは、自動運転やライドシェアサービスも増え、タクシー業界全体が大きな変革期を迎えているように感じます。

しかし、三和交通は、「人」がかかわることで生まれる付加価値はなくならないと考えます。普段の送迎での接客はもちろん、ワクワクするような企画や一緒に働きたい職場環境はやはり「人」があってこそ生まれるのだと。

その私たちならではの魅力を磨いて、これからもお客さまに選ばれるタクシー会社を目指していきたいと考えています。

三和交通は、「人」がかかわることで生まれる付加価値はなくならないと考えます
(左から)広報部の和田茉璃奈さん、小関正和さん、乗務員の苅部俊哉さん

 

大竹初奈=文 松崎美和子=編集

記事提供:Forbes JAPAN 

# タクシー# フォーブス# 三和交通
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