2020.05.23
LIFE STYLE

そもそも5Gで何が変わるのか? シリコンビーチではこう使われている

当記事は、「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちらから。

Shutterstock.com

シリコンバレーは、アメリカ・カリフォルニア州にある、言わずと知れたIT企業のメッカである。

では、「シリコンビーチ」をご存知だろうか? ポスト・シリコンバレーとも言われ、スタートアップの新たな聖地として、一部の人の間では注目を浴びつつあるが、日本人にはまだそれほど知名度が高くないようだ。

シリコンビーチは、サンタモニカ、ヴェニスを中心とした一帯を指す。映画産業で有名なハリウッドがあるロサンゼルスが近いだけに、シリコンビーチには、「hulu」をはじめエンターテインメント企業も多い。10秒間だけ写真・動画をアップロードできるソーシャルメディア「スナップチャット」や、ビデオドアベルを開発し、2018年アマゾンに買収された「リング」、求人サイトのユニコーン企業「ジップ・リクルーター」、中古車の定額制レンタルサービスを手掛け、ソフトバンクが投資した「フェア」、電動キックスクーターのシェアサービス「バード」など。

もちろん、スタートアップ生態系に不可欠なインキュベーター、ベンチャーキャピタルも多く存在する。

シリコンビーチの一角に「プラヤビスタ」と呼ばれる場所がある。非常に小さなエリアで、車で5、6分あれば一周回れてしまうほどだ。サンタモニカ、ヴェニスのベッドタウン的な意味合いも兼ねて開発された、実験的な場所と言えよう。このシリコンビーチの中でもヴェニスビーチ近くに位置する「アボット・キニー」通りは、ニューヨーク・ソーホー地区と並んで、アメリカで「もっともイケている」エリアとされている。

ここは2010年ごろから「スタートアップ生態系」が形成されつつある。グーグルは、ハワード・ヒューズという実業家が1943年に建てた飛行機格納庫の中に、近代的なオフィス「SpruceGoose」を構築した。このほか、マイクロソフト、ヤフー、ユーチューブ、フェイスブック、hulu、スナップチャットなど、そうそうたる企業がこのプラヤビスタに存在している。

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ここに住むひとりの日本人投資家がいる。世野いっせい氏だ。

世野氏はプライベート・エクイティ・ファンド(米国の富裕層の個人的資金を運用することがメイン)で14年間仕事をしてきたが、現在は引退し、芸能人やメジャーリーガーをはじめ、世界の富裕層を中心に、資産運用などのアドバイスを個人的に行なっている。ファイナンスの視点からみた独自の不動産分析で「目的」と「予算」から物件を選定、出口戦略まで一貫した手腕には定評がある。

世野氏は、仕事と並行してプライベートでも個人の資産運用を米国不動産投資を中心に行なってきた。このため、毎日2時間くらいかけて米国各地の土地の動向を見るのが日課となっている。あるとき、ロサンゼルスのある一部地区の地価が高騰していることに気づいた。それがこのシリコンビーチにあるプラヤビスタだったのである。興味を抱いた世野氏はこの地に住むことを決めたという。

世野氏にこの世界最先端の地の話をうかがった。数回にわたってお送りしたい。

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シリコンビーチは実験エリア、5G運用開始は2018年から

「隣近所の人との日常会話の中に、最先端の情報がさらりと出てきます。これはこの地ならではのメリット。ものすごく刺激になりますね」と世野氏は言う。

「プラヤビスタ」の邸宅で(写真提供:世野いっせい氏)

「彼らが言っているのが、数年も経たないうちに、今会社に毎日通っている人の約70%は在宅で仕事するようになるということ。私は常々不動産という切り口から物事を見ているので、『ああ、近い将来オフィス賃貸は難しくなるな』と思いました。実際、不動産のトレンドも変わってきています。

アメリカというとこれまでは広い庭付きの一軒家でしたが、最近ダウンタウンのど真ん中では、日本の都市部に存在するような超高層マンションが人気になってきています。在宅勤務が一般的になることで、人と顔を合わせる時間が減ってきた。そこで、逆に人とのコミュニケーションを求めるようになった若い人たちが、お互いに近隣のエリアに住み、仕事が終わったあとに歩いてカフェやレストランに集い、雑談するというライフスタイルを求めるようになってきたからです」

シリコンビーチ風景(Getty Images)

日本も「時差」はあるものの似たような流れがくるはず。なので、同じような現象が起こる可能性は高い、と世野氏は分析する。IT化の流れが不動産にも変化を及ぼす、ということだ。

日本でも、いよいよこの春に次世代通信5Gがはじまったが、シリコンビーチは実験エリアとして、2018年からすでに5Gが使われているという。

「私の家でもWi-Fiをつけると、スマホのWi-Fiネットワークの中に『+5G』と表示されます」と世野氏。さらに、エリア内での郵便配達車は一部自動運転。人間は運転を車に任せて、目的地に止まったら荷物を運ぶだけだ。これは通信の遅延がなく、回線が切れない5Gだからこそできるワザである。

2時間の映画が3秒でダウンロードできる

最近は耳にすることも多いと思うが、5Gの何がすごいかというと、そのスピードである。

わかりやすく言うと、高速で大容量。遅延しないし途切れないのである。たとえば、従来の2時間程度の映画を5Gなら3秒でダウンロードできると言われている。今のインフラではとても考えられないスピードである。スマホで簡単に長編動画を観ることができる。

ところで、アメリカの5Gと日本のそれの質は大きく異なっている。日本の5Gは通信速度が27Gbpsと言われている。一方アメリカの5Gの速度は1.2Gbps。日本で現在使われている4Gの速度と大差ないのである。日本は開始時期こそ遅れを取っているように見えるが、その内容は格段に上である。

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「プラヤビスタ」はシリコンビーチの一角にある(写真提供:世野いっせい氏)

「エンターテイメントとITの融合」がしやすいのがシリコンビーチの一番の特長である。サンタモニカには音楽系のスタジオ、ハリウッドには映像のスタジオが多数ある。つまり、人材と設備が豊富にある。それを活かせるのがシリコンビーチと言えるだろう。ユーチューブなどが普及してきた今、これからは個人が放送局になれる時代。そこで必要となるのが、「人材」である。

シリコンバレーにはエンジニアは大勢いるけれど、エンターテイメント系のクリエイターはロスに比べると格段に少ない。シリコンビーチにはソフト面でのプロが多数存在するのである。「これこそがシリコンビーチが発展し続けている理由のひとつではないでしょうか」と世野氏は言う。シリコンビーチは個人がメディアになるための最強のツールが揃ったエリアなのである。

「これまでは容量などの問題から、動画の作品づくりにさまざまな制限がかかってきたが、5Gによってその障壁はかなりなくなった。ものすごく重いデータも無制限で送れるから、好きな動画を撮れるし、配信もできるようになった。それを最大限に活かすためにできたのがシリコンビーチだと聞いています」(世野氏)

アメリカ企業は数年前から「すべてが5G想定」だった

「今、ユーチューブでは1分ほどの動画でも広告はつきます。けれど、10分以上になるとたくさんの広告をつけられるようになり、その分広告収入も増える。ただ、専門家によれば、これからのユーチューブは「再生回数」ではなく「視聴時間」が重要視されるようになると言われています。そのため、今後1分程度の短い動画には広告がつかなくなる可能性もありそうです」と世野氏は言う。

ということは、今後はユーチューブにも長編が増えてくるということだ。今は発信側がどんなに長い動画をつくっても、受信者(視聴者)側にそれを受け入れられるだけのスペックがないことも多いけれど、5Gになればその問題もらくらくクリアするだろう。

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映画業界でも同じようなことが行なわれている。「アメリカで今、5Gに期待しているのは、4Kや8Kの動画が観られること。映画は現在、1本2時間程度のものが多く、長くても3時間くらいのデータ量です。けれど、水面下では3時間を超える作品が制作されています。どういうことかと言えば、「映画を観ておしまい」ではなく、ネットフリックスなどの映像ストリーミング会社との連動を考えているんです。

たとえば、ヒーローもののアベンジャーズだったら、映画にさまざまなヒーローを登場させて宣伝をし、テレビではそれぞれのヒーローのストーリーを切り出して、各々のドラマをシリーズものとして配信していくということです。5Gなら楽にダウンロードできるから、大量なサウンド、映像もストレスなしですね」と世野氏は言う。

このように、発信者側ではすでに準備は整いつつあるようだ。あとは受信者側に5Gが普及するのを待つばかり。

こういった話が、机に向かっているときや会食をしているときではなく、一緒にプールで遊びながら、スタバでお茶をしながら普通に聞けるのがシリコンビーチだ。

情報は「ヨコ」に移動する

「このようにインフラが整備されたエリアで仕事をしている人たちは圧倒的に有利ですよね。そして、こういうところで育った子どもたちは、自然とこういった最先端の知識や情報を身に着けているのですから、これまた強いといえるでしょう。

情報はタテには移動しません。ヨコに移動していくものです。つまり、同じレベルの人の間でしか同じ情報は通用しないのです」と世野氏。まさに、シリコンビーチに住む子どもたちはITの英才教育を受け、次世代の貴重な戦力となり得るのではないだろうか。

では、同じようなことが今後、日本でも起こり得るだろうか。

「一気に5Gを普及させることはできないから、日本ではじめるならまず東京からでしょう。ということは、東京都内の5Gのインフラが整備されたエリアで仕事する人たちが圧倒的に有利な立場に立つことはたしかです。それにともなって、人の流れも変わってくるのではないでしょうか。

今は家賃も安いし、テレワークもできる……などの理由から、地方に本社機能を移転する企業も多いでしょう。それがどう変わってくるか」と世野氏は話してくれた。

5Gが普及することで、はたして日本にシリコンビーチのようなエリアができるのか。ビジネスにはどのような変化が見られるのか? 気になるところである。

世野いっせい
投資家。米国シリコンビーチ在住。米国不動産を中心に資産を築き、年間不労所得は3億円を超える。著書に、『お金持ちの「投資家脳」、貧乏人の「労働脳」 ──本物のお金持ちしか知らない55の法則』(河出書房新社)、『金持ち脳でトクする人 貧乏脳でソンする人 一生お金に困らない55の法則』(PHP文庫)。

 

柴田恵理=構成・文
石井節子=編集

記事提供:Forbes JAPAN

# 5G# シリコンビーチ# フォーブス
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