20代から好かれる上司・嫌われる上司 Vol.15
2020.04.03
LIFE STYLE

「自分の若いときはブラックだったなぁ」と昔話をする上司は20代に嫌われる

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「20代から好かれる上司・嫌われる上司」とは・・・ 

労働時間を減らせば、本当に生産性は上がるのか

ここ数年、政府主導でどんどん広がってきている「働き方改革」は、「休み方改革」だと揶揄されるぐらい、どれだけ労働時間を短くできるかということに偏っているといわれています。

そもそも「働き方改革」とは、少子化で労働力の絶対量が減っていくことから、現在は世界の中でもかなり低い日本の労働生産性を上げようという運動です。生産性とは、成果÷投入資源ですから、分母の投入資源である労働時間を減らせば生産性は上がる。そういう計算なのでしょう。

しかし、そんな単純ではないことは誰もが知っています。労働時間が減ることで成果も減れば、結局生産性は上がりません。

生産性を高めるには、能力開発か工数削減を行うしかない

もし、同じ能力の人が同じ工数の作業を行えば、労働時間に比例して成果が上がったり下がったりするため、生産性は変わりません。逆にいえば、能力の開発を行うか、工数を削減することができれば、少ない労働時間で高い成果を出すことができるために、生産性は高まるということです。

「労働時間を減らすと生産性が上がる」という素朴な理屈の裏には、少ない時間で仕事をすべき状況になれば、なんとか工夫して(この「なんとか」というのが怪しいのですが)能力を高めたり工数を削減したりするのではないかという楽観的な気分が混入しているのでしょう。

能力開発や工数削減の責任は、経営やマネジメントにある

さて、その際、この能力開発と工数削減は一体誰の責任でしょうか。自己啓発的文脈から考えれば、個々の社員が自律的に自分の能力を開発して、さらに自分の仕事の工数の削減案を出すべきともいえるかもしれません。実際、それができる人は有能な人として処遇すべきでしょう。

しかし、それでもできなければどうするのか。私は、最終的には社員の能力開発も仕事の工数削減も、経営やマネジメントの責任ではないかと思います。近年の経営やマネジメントはすぐ社員に「自律」とか「自走」とかを求めます。しかし、求めるのは良いとしても、できない場合の策が無いのであれば、責任放棄と謗られても仕方ありません。

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かつての長時間労働は、デメリットも大きかった

そこで、表題の件です。私も最初に入った会社は今なら「ブラック企業」といわれるかもしれないレベルで労働時間の長い会社でした(当時です)。おじさん世代は、長く働いたことで、いろんな試行錯誤をして、結果としてさまざまな経験ができて良かったと思っています。そのことから、労働時間に制限のある若者がかわいそうに感じることもあり、それが表題のような発言につながるのでしょう。

しかし、一方でマンガは20年ぐらい読めませんでしたし、スポーツもやらず、趣味らしい趣味も持てませんでした。無駄に長い労働時間で失ったものは大きいと、少しだけ後悔しています。

「無駄な仕事」をやりきると温存されてしまう

そして、若い世代に申し訳なく思うのが、無駄な(非効率な)仕事を私がやりきったために、職場にそのやり方が温存されてしまったことです。

例えば、自分の仕事でいえば、ものすごい数の面接をやりきりました。採用のピーク時は1日12時間面接というのを2カ月程度も続けるというのを毎年行っていました。私がやりきったものですから、「面接はやればやるだけよい」ということになってしまい、後に続く人は大変だったと思います。

さすがに最近ではターゲティングの精度の向上や、適性検査でのスクリーニングを強化するなどで、むやみに面接をしなくてもよくなっているようですが、それは最近のことです。

やりきるのでなく、改善しておいてほしかった

「昔はブラックだった」という昔話の影にあるのは、「大変だったがオレはやりきった」という自慢です。しかし、上述のように、若者からすれば「やりきった、じゃねえよ」です。

「あなたがやりきったから、いまだにこんな無駄な仕事が残っている」「やりきるのではなく、こんなことできませんと突っぱねたり、改善したりしておいてほしかった」というのが本音でしょう。

悪意は無いかもしれませんが、「昔はブラックだった」おじさんは、まさに、工数削減をするという責任を無自覚に放置したわけです。そのうえ、上司になってからも、工数削減も能力開発も「自律的に頑張れ」「自由と自己責任」では、嫌われても当然です。

やりきってしまい、ごめんなさい

数年前に『やり抜く力 GRIT』という書籍がベストセラーになりました。その後、上司の「昔はブラック自慢」≒「オレはやりきった自慢」は加速したようにも感じます(同書の意図とは別に)。

ただ、本来なら改善すべき「やり抜いてはいけない」ことまでやりきってしまうことは、害悪のほうが大きかったかもしれません。

もう一度、我々おじさん世代は、自分がやりきってきたことを客観的に振り返ってみるべきでしょう。そして、無駄と思うことをやりきらないことで工数削減を頑張っている(かもしれない)若者を、「昔はブラック自慢」で暗に非難するのは、もうやめたほうがよいのではないかと思います。

 
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「20代から好かれる上司・嫌われる上司」
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。上に戻る

組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス
『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

石井あかね=イラスト 

# 20代から好かれる上司・嫌われる上司# マネジメント# 働き方改革
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