2020.01.03
LIFE STYLE

謙遜は美徳だが自慢してもいい。カナダ人落語家「日本人に感じた魅力を語ろう」

当記事は、「東洋経済ONLINE」の提供記事です。元記事はこちらから。

カナダ出身で日本の落語をマスターした桂三輝(サンシャイン)さん(写真:サンシャインさん提供)
カナダ出身で日本の落語をマスターした桂三輝(サンシャイン)さん(写真:サンシャインさん提供)

外国人としては史上2人目とされるプロの落語家・桂三輝(サンシャイン)さんが、ニューヨークを中心に世界で活躍している。20年にわたり日本文化にどっぷりと浸かり、日本を愛するサンシャインさんに、「外国人から見た日本人」について語ってもらった。

日本人は、文化に対する貪欲さと柔軟性がすごい!

――カナダ出身のサンシャインさんが、最初に日本に来たきっかけは?

トロント大学で芝居の研究をしていて、能と歌舞伎には、ギリシャ喜劇と共通する点があると知りました。「本物を観てみたい」と1999年に半年間の滞在予定で日本を訪れました。当時はインターネットも発達していなかったので、日本に関する事前情報はほとんどなし。「経済大国」「カブキ」「スシ」ぐらいのイメージでしたね。

――日本の第一印象は?

新宿に行ったら、高層ビルのライトアップが未来的で、テクノロジーを感じました。一方で、路地に入れば、何代も続く老舗の呉服屋やお茶屋が残っています。伝統と最新が混在していて「何ここ、最高に面白い!」と。

――アメリカやカナダは、歴史が浅いですからね。

ええ。ヨーロッパには歴史がありますが、「社会がモダンになりすぎると、伝統が忘れられる」という恐れを持っています。ですから、新しいものを取り入れることに慎重ですし、伝統は「守るべき存在」です。一方、日本人は、とてもナチュラル。頑張って伝統を守っている感じがなく、「面白いから」と茶道や書道を習ったり、俳句や短歌を趣味にしたり、子供に剣道を習わせたりしています。

――同時に、日本人は、「面白い」と思ったら、外国文化も躊躇なく取り入れます。最近はハロウィーンなんかもイベントとして定着していますね。

そうそう、宗教でも、仏教、神道、キリスト教など、イベントに合わせていいとこ取り。こだわりが薄いですね。「どっちかを選ぶ必要がある?」とばかりに、文化を掛け合わせるのが得意。明太子パスタなんて、イタリア人もびっくりですよ。文化に対して、これほど貪欲で柔軟な国はほかにないでしょうね。

――「日本人は、マネはうまいが、オリジナリティーがない」と、ネガティブにも評されてきました。

マネして、10倍のクオリティに仕上げるのがうまいですね。私の父はカナダで自動車修理業をしていましたが、「日本車はアメリカ車のコピー」と悪口を言いながらも、「性能がいいのは見習うべきだ」とも言っていました。日本人のマネのうまさは、悔しさと尊敬の念で見られてきたのではないでしょうか。

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――日本人はゼロから生み出すことが苦手なのでしょうか。

そんなことはないですよ。僕が日本に来た頃、原宿ではガングロメイクとルーズソックスがはやっていて、感動しました。あんなファッションは、パリにもニューヨークにもありません。どう考えても日本のオリジナルですよ。ガングロの女の子を彼女にしたいかどうかは別ですけれどね(笑)。日本のマンガは世界中で人気がありますし、コスプレも日本発じゃないですか。

 

とりあえず謝る日本人の気遣い

――いわゆる「日本人気質」とは?

思いやり、気遣い、「自分が自分が」と前に出ない控えめなところ、オーガナイズされているところ、まずは謝るところ……。

――まずは謝る……?

僕が、「G20大阪サミット2019」のレセプションで司会を務めることになって、大阪に出張したときの話です。関西国際空港に降り立ったら、各国語で「G20開催のため、ご迷惑をおかけして恐縮です」という趣旨のことが大きく書いてあって、「すばらしいな」と思いましたね。まだ何も起きていないのに、謝っているのですから。

「日本人は控えめで前に出ない」とサンシャインさん(写真:サンシャインさん提供)

確かに、入国審査には300人ぐらいの列ができていましたが、職員も通常の何倍も配置されていて、結局10分で順番がきました。それなのに、ブースの税関職員は、僕の指紋や写真を撮りながら「えらいお待たせして、すんませんね。G20なんで」とまた謝ってくれるのです。まったく待ってないのに!

その後、空港内のコンビニから宅配便を送ろうとしたら、店員さんが「G20ですから数日かかるかもしれません。すみません」とまた謝ってくれて、結局、翌日ちゃんと届いていました。まず謝って、そのうえでベストを尽くすって、すごいこと。まあ、大阪の方々、とりあえず「G20です」と言いたかったのかもしれませんけれどね(笑)。

仕事を終えてニューヨークの空港に戻ったら、G20でもないのに入国審査に90分待たされ、誰も謝らないし、急ぎもしない。アメリカが野蛮な国に思えましたね。あ、もちろん、アメリカも好きですけれどね。

――落語との出会いは?

日本に行って5年後です。横浜の焼鳥屋で開かれた落語会で、若手噺家の落語を聞いて、「すばらしい芸に出会ってしまった」と衝撃を受けましたね。私の人生が変わった瞬間です。すぐに「これやりたい!」と。焼鳥屋のマスターには、「落語は修行が大変だし、君は外国人だし」と反対されましたけれど、意志は変わりませんでしたね。約3年後の2008年に、桂三枝(現:六代桂文枝)に弟子入りしました。

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――今はニューヨークを拠点に、世界各地で落語をされています。カナダ出身のサンシャインさんが、ニューヨークで落語をすることは、どう受け止められていますか。

日本人は、例えば外国人が適当に着物を着ても、「興味を持ってくれてありがたい」と寛大ですが、アメリカ社会では、相手の文化を安易に盗むことを「cultural appropriation(文化の盗用)」と表現し、問題視します。ですから、私はマクラ(落語の本題に入る前の小噺)で、「落語は、修行が必要な芸術だ」ということを話しています。そうでないと、「ただ、外国人が着物を着て、適当に話している」と思われますから。

僕の落語については、ニューヨーク・タイムズや『ニューヨーカー』などのメディアが、「これはcultural appropriationではない」と評してくれています。つまり「日本の伝統芸をきちんとマスターしている本物だ」と理解してもらえているわけです。

――落語の笑いは、ニューヨーカーにもウケるのでしょうか。

僕のお客さんは、白人、黒人、スペイン系など、95%が日本人以外です。古典については、英語に翻訳しただけですが、みなさん大爆笑です。たとえストーリーの舞台は日本でも、夫婦げんかや、憎めない泥棒の笑い話など、コアとなるユーモアは世界共通ですね。

落語の笑いはね、すごく柔らかいのです。西欧の古典は、善良な王子と悪役の魔女が戦ったりしますが、落語には本当の悪人が出てきません。ちょっと抜けた人は出てきますけれどね。また、落語には、「悪いやつは殺されるから、いい子でいるように」みたいな大人目線の教訓もなく、これは世界的にみても珍しいと思います。

政治、宗教で人を分けるのではなく、バックグラウンドの違う人間が一緒になって笑えるのもいいですね。とくに最近のアメリカは、トランプかクリントンか、白か黒かと、二極化・対立化しているので、落語的な笑いが必要とされているのかもしれません。

 

落語はブロードウェイでも通用すると確信

――2019年9月から、ブロードウェイでパフォーマンスをされています。「落語でブロードウェイに出る」という発想は、日本人にはなかった気がします。

ないでしょうね。僕は、6年前から「いける!」と。2013年にカナダのウィンター・ガーデン劇場で落語を披露したのですが、そのときは、僕の弟が中心となって、カナダ人相手に、50ドルのチケットを1000枚売ってくれました。カナダのビジネスマンたちが、みなさん大爆笑。このときに、「ブロードウェイでも通用する!」と確信したのです。実はブロードウェイの公演は、当初3カ月半の契約でしたが、つい先日、来年4月までの延長が決まったところです。

――落語の可能性を感じますね。

ブロードウェイで認められたら、落語の歴史が変わります。僕がブロードウェイで演じるのは、日本のデパートが赤字覚悟で銀座に本店を出すのと同じで、ブランディングに対する投資です。僕は、日本の落語をブランディングして、世界のマーケットに進出することがイメージできています。ブロードウェイに出るための資金は、日本の方々に投資していただいているので、恩返ししたいですね。

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――日本には、落語以外にも、海外に伝えるべき魅力が隠れていそうですね。

魅力ありすぎですよ! 経済的にはバブルが崩壊して元気がなくなったかもしれませんが、たとえ経済力で中国に負けることになっても、技術、文化、美術、芸術など、すばらしいものがあります。地方に行くと、陶器や寄木や、すばらしい伝統工芸がたくさんあるじゃないですか。アピールしないとね。

――日本人はアピールが苦手ですからね。

アピールしないと外国人にはよさが伝わりません。例えばお刺身は長年の修行がないと上手には切れません。包丁にも、長年の伝統と技術、修行が隠れています。それらが合わさって唯一無二の芸術を作り出しているのです。でも、それを知らない外国人には、刺身はただ魚を切っただけに見えます。

私服だと落語家にはとても見えない(写真:筆者撮影)

以前、酒蔵の4代目がニューヨークを訪問して、日本酒を紹介していたのですが、4代目だということをあまり強調しないのですよね。本人は「親父から継いだだけ」みたいな感覚なのかもしれませんが、アメリカ人にとっては、「え!? おじいちゃんのお父さんの代から、150年も日本酒を作り続けているの?」と、感動ポイントですよ。でも、それを説明しないと「おいしいね」で終わってしまう。日本の一流の何がすごいのかを世界に伝えたら、外国人は感動するし、絶対にマーケットはあると思います。自信を持ってください。

――自信といえば、謙遜の文化は、サンシャインさんの目にはどう映りますか?

「つまらないものですが」とプレゼントをくれるから、「たいしたことない物か」と思っていたら、後で「え!? むっちゃすごいモノくれてるやん。早く言ってよ!」となりますね(笑)。アメリカ人なら「むっちゃ貴重なもの持ってきたよ!」と自慢するのに。もちろん、後から価値を知ったからこそ、感動が10倍になるという側面もありますけれどね。

 

外国人の視点から日本の良さを伝える

――サンシャインさんはニューヨークではもちろん、ワールドツアーで世界各地に落語を広め、同時に、マクラでは、日本人気質や日本文化の面白さ、魅力を伝えてくださっています。

ええ、そうです。お任せくださいませ。僕のマクラを聞いた外国人は、「面白い。日本に行きたくなった」と言いますよ。僕の役割は、外国人の視点から、日本のよさを伝えることだと思っています。

――最後に、日本の皆さんにメッセージをお願いします。

いつもお世話になっております。縄文時代からコツコツと、すばらしい文化を築いていただき、ありがとうございます。僕の人生は落語で変わりました。できるだけ恩返しさせていただきます。

 

鯰 美紀:インタビュアー&ライター
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記事提供:東洋経済ONLINE

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