OCEANS

SHARE

2019.12.22

あそぶ

ファッション業界屈指のスピードランナーは、「いつでも10km走れる服」しか着ない

連載「Running Up-Date」
ランニングブームもひと昔まえ。体づくりのためと漫然と続けているランニングをアップデートすべく、ワンランク上のスタイルを持つ “人”と“モノ”をご紹介。街ランからロードレース、トレイルランまで、走ることは日常でできる冒険だ。
 牧野英明  
ランニング。たとえばカリフォルニアの先進的な企業では、フィジカルだけでなく、脳内をアップデートするためにも走る人が多いという。と、頭でわかっていても続けるのはそれなりに難しいもの。
そこで本連載では、スタイルのあるランナーにご登場いただき、それぞれのランニング哲学やスタイルついて語ってもらう。ここはひとつ、大いにモチベーションを刺激されてもらいたい。
ということで、記念すべき第1回目にご登場いただくのはビームスの牧野英明さん。社内では「BEAMS RUN CLUB」を立ち上げ、2019年の東京マラソンでは“サブエガ”と称される2時間50分切りを達成。ちなみにサブエガのエガは江頭2:50さんから来ている。
さらには「牧野をおいてほかにいないだろう」と、ビームスを代表してランニングインストラクターの資格も取得。「ファッション業界人だから、お洒落にユル~く走っているんでしょ」と侮ることなかれ。彼はガチのスピードランナーなのだ。
牧野さん
トップスは牧野さんが企画に協力したビームスオリジナル『Roundabout Run Club』コレクションのプルオーバパーカ。ボンテージ・パンクのディテールを取り入れた。

陸上部生まれ、ファッション育ち

「学生時代の部活動が陸上部で、トラック競技をやっていました。でも当時はそこまで打ち込めなくって、走ることよりもファッションのほうが好きだったんですよね。何しろ当時はランニング用のウェアやギアの選択肢が少なくって。もっとはっきり言えばダサかったんです。卒業後はビームスに就職してファッションのプロフェッショナルを目指しました。その服の背景にある文化や歴史を知ることが好きで、それは今でも財産として自分の中に残っています。
ただ、現在はそれがある意味で逆転しているような状態で、ファッションが本業になったら走ることがすごく楽しくなった。最近ではこういった取材をしていただく機会も増え、他社とのライセンス事業なども担当するなど、ランニングがダイレクトに仕事にもつながっています。面白いですよね」。
牧野さん
そのときどきで熱量に差があったとはいえ、人生の半分近くをランニングに捧げてきた牧野さん。それでもいまだ、走ることは圧倒的に難しいという。そしてそこが面白い、とも。
「トレーニング内容にはじまって、コンディショニング、ランニングフォームなど、知れば知るほど難しく、だからこそどんどんハマっているところです。少し前まで熱中していたのがトラック競技。地元の大会で中学生にまじって1500mを走ったりしています。そのかいあって、先日は全日本マスターズ選手権のM35クラスで6位に入賞することができました」。
タイムや距離などの一定のモノサシが共通言語となって、すぐに仲間を作ることができる。走るのは一人だけど、ランニングという動作は誰もができるからこそ、体験を共有するのも簡単だ。
「だいたい週6日くらいは走っています。歯みがきやシャワーと同じ感覚で習慣づけていますね。やらなくてもダメじゃないけど、やったほうが気持ちいい。とはいえ、意識して休養日を入れるようにもしています。長くこのスポーツを続けたいですからね。今はスピードをテーマにしていますが、長い距離を走ることにも興味はあります。例えばトレイルランニングの世界では100マイル(160km)のレースを完走することがひとつのステイタスになっているのですが、そういったロングレースだと家を空ける期間がどうしても長くなってしまいますよね。今はまだ子供が小さいので、その部分がクリアーになったら挑戦してみたいです。50歳までには100マイラーになりたいですね」。
マラソンの様子
MINATO シティーハーフマラソン(12月)ではハーフマラソンの自己ベストを更新。驚異の78分台!
ランニングの様子
日光国立公園マウンテンランニング大会での一枚。 ショート~ミドルのトレイルランニングレースも、年に数本参加している。

ランナー目線の考え方やモノ選びがアイデンティティに

今や走ることが自身のスタイルにおいてブレない芯を形作っているという牧野さん。
「大人になってランニングを再開してからというもの、ストレスと無縁の生活になりました。考え方もシンプルかつポジティブな方向にシフトできますし。ファッションに対しても欲張らなくなりました。例えば以前は靴をそれこそ何十足も所有していましたが、それだとどうにもキリがない。なので今は下駄箱の中にスーツ用のオールデン2足を残して、あとは“走れるシューズ”だけを買う、というのをマイルールにしています。意外と制約があったほうが、クリエイティビティも豊かになるにというか、スタイルを作りやすいですから。何より『牧野は走るヤツなんだ』って認知もしてもらいやすいですし」。
走る様子
「走るときも普段も、ほとんどファッションが変わらないんですよ。といってもランニングウェアで過ごすというのではなく、自分にとって走れる服であるということ。例えばストレッチ性が効いている服や、今のトレンドでもあるリラックスシルエットの服も動きやすくていいですよね。別にトラック走をするわけではありませんから、あとはランニングシューズさえあれば走れます。だから都内の打ち合わせで、ちょっとした移動のあるときなんかは大抵走っちゃいますね。終電で寝過ごしてしまい、隣の駅から走って帰ることもあります。先入観さえなければ、ランニングもファッションも、もっと楽めると思います」。
現在は栃木県の宇都宮方面から通勤している牧野さん。ちょっとした隙間時間を有効活用したいという狙いもあり、「いつでも10km走れるファッション」がワードローブの中心。今は自社企画でランニング専用ウェアにも関わっているけれど、それだけでなく、ランニングのエッセンスがにじみ出る服であればOKで、それがアイデンティティにもなっている。
では実際に牧野さんが愛用しているウェア&ギアとはどんなものなのか? 後編に続く。
RUNNER’S FILE 01
氏名:牧野英明
年齢:39歳(1980年生まれ)
仕事:ビームス 開発事業部 ライセンス事業課にてスポーツを担当
走る頻度:週6日程度。仕事終わりや昼休みにジムのトレッドミルなど
記録:フルマラソン2:49:01(2019東京マラソン)ほか
礒村真介(100miler)=取材・文 小澤達也=写真


SHARE

次の記事を読み込んでいます。