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2019.11.14

ライフ

「オレはほめて伸ばすタイプだ」とかいう上司は20代から嫌われる

連載「20代から好かれる上司・嫌われる上司」 Vol.5
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。>>連載を最初から読む

褒める上司、訝る部下

「え、ほめて欲しいんじゃないの?」

「最近の若者は承認欲求が高い」とよく言われています。「承認欲求」とは「他者から自分を価値ある存在として認められたい」という欲求のことであり、「若者はほめて育つという人が多い」ということになっています。
そのため、世の上司たちは自らの部下のモチベーションを上げるために「なんとか機会を見つけてはほめなければ」と思う人が多いようです。素朴に考えて、ほめられること自体はマイナスではないと思うのですが、ところがそれを苦々しく思っている若者は少なくないようです。上司の動機は善だとは思うのですが、なぜこんなことが起こるのでしょうか。

なぜ、若者は「承認欲求」が高いのか

そもそもなぜ若者が「承認欲求」が高いのかというところから考えてみましょう。
今の20代の価値観についてさまざまな社会調査などを見ていくと、ひとつの特徴として「価値相対主義」というものが浮かび上がります。
「価値相対主義」とは、ひとつの価値観を絶対視して「これ以外はダメ」と考えることを嫌い、「みんな違って、みんないい」「ナンバーワンよりオンリーワン」と多様な価値観を並立して認めていくというものです。
そうなった要因は、戦後のリベラルな教育や、グローバル化によるダイバシティの進展などさまざまです。このように多様な価値観を認めることは良いことでしょうが、そこには重大な落とし穴があります。

人は結局何かを頼りたくなるもの

それは「価値相対主義」の最大の副作用である「虚無主義」(ニヒリズム)です。「虚無主義」とは、価値の相対化が行き過ぎて、「絶対に正しいものなど何もない」「なんだって、どうだっていいのだ」というように真理の存在を全否定する考え方です。極端に言えば、「働かなくてもいい」「人を殺してもいい」「人生に意味なんてない」というような考えにもつながります。
しかし、人間はそんな考えに耐えられるほど強い存在ではありません。「なんでもいいのだ」という自由を与えられると、逆に孤独と自己責任の重さに押し潰されてしまうことが多いのです。その結果、結局は何か自分の頼りになるものを探すようになります。

半径3m以内の世界で生きている

そこでもう一度、絶対主義の世界に戻る人も中にはいるでしょう。「出世」や「お金」や「名誉」などの既存の価値観に戻るのです。ただ、そういう人は目立つのですが、少数派です。一度、相対化してしまったものを再び絶対視することはなかなかできません。ニーチェ風に言うなら「神は死んだ」のです。そうなると、あとは「溺れる者は藁をもつかむ」で、目の前にあるものにしがみつくことになります。
つまり、自分から半径3m以内にいるような身近な人たちとお互いに「自分たちのやっていることは正しいよね」と肯定し合う、これが今の若者がよく言われる「承認欲求」の正体ではないかと私は思います。


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