2019.11.07
LIFE STYLE

あの伝説の名車「デロリアン」開発者の破天荒すぎる人生

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12月7日公開予定の映画『ジョン・デロリアン』は、伝説の車デロリアンを生み出した天才エンジニア、ジョン・ザッカリー・デロリアンの半生を描いている
12月7日公開予定の映画『ジョン・デロリアン』は、伝説の車デロリアンを生み出した天才エンジニア、ジョン・ザッカリー・デロリアンの半生を描いている  ©Driven Film Productions 2018

1985年公開の映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場する、クリストファー・ロイド演じるエメット・ブラウン博士(通称ドク)は、自分の愛車デロリアン(DMC-12)をタイムマシンに改造する。

どこか近未来感あふれるステンレス製のボディーに、まるで翼を広げるように開くガルウィングドアを持つデロリアンをドクが選んだワケを、「カッコいいタイムマシンを作りたかった」とドクが語っていたことを思い出す。映画を観た観客はそのシルエット、スタイルに夢を感じ、だからこそ時を経た今でもデロリアンという車は多くの人に愛されてきた。

12月7日公開予定の映画『ジョン・デロリアン』は、そんな伝説の車デロリアンを生み出した天才エンジニア、ジョン・ザッカリー・デロリアンの華やかな半生の光と影と、その裏に起こったコカイン取り引き事件などを描き出す驚愕のミステリーである。

バック・トゥ・ザ・フューチャーの“タイムマシン”

「事実は小説より奇なり」という言葉があるが、ジョン・デロリアンの人生もまた、数奇そのものだ。1925年デトロイト生まれの彼は、クライスラーが主宰するエンジニア養成学校で学んだ後、パッカードを経て、アメリカの大手自動車メーカーGMに移籍した。

そして、それまで高齢者向けだった同社の車のイメージを、「ポンティアックGTO」といった車を開発して若者向けにシフトチェンジ。その手腕が高く評価される。やがて若くして同社の取締役、副社長にまで上り詰めていった。仕事と美女を愛し、派手なセレブ暮らしを送ったジョンは人々の羨望の的だった。

だが、その名声とは裏腹に、もの作りの現場に戻りたい、自分の理想の車を作りたいという思いは膨らんでいく。そこで彼はGMを退社し、自分の作りたい自動車を作る会社デロリアン・モーター・カンパニーを立ち上げる。本作の物語の時代背景も、まさにこのあたりが中心となる。

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だが、彼の理想と夢を注ぎ込んだDMC-12が生産されたのはわずか3年半。自ら立ち上げた自動車メーカーもあえなく倒産してしまう。会社の凋落を決定づけたのは、なんと社長のジョン・デロリアン自身がコカインの取り引きで逮捕されるという一大スキャンダルだった。いったい彼に何が起こったのか――。

ジョン・デロリアンは、自ら会社を立ち上げ、画期的な車DMC-12を生産したが…… ©Driven Film Productions 2018

この映画では、1970年代の終わりから1980年代にかけて、ジョン・デロリアン邸の隣人だったジム・ホフマンという人物と、ジョン・デロリアンとの関係性を中心に描き出す。このホフマンという人物こそ、デロリアンがコカイン取り引きで逮捕されるきっかけを作った男だった。脚本は、公的に記録されている事実をもとに執筆されたというが、ホフマンについての情報は少なかったため、ここに関しては、ある程度自由な解釈でキャラクターをつくり出すことができた。

ニック・ハム監督も「脚本のコリン・ベイトマンは、この映画にバカバカしくておかしな雰囲気をもたらしてくれた。コリンも僕も、ホフマンのコミカルな人間性に興味を持っていたんだ。彼は嘘つきでずるいカメレオンのような人間だけど、彼が内に秘めていた面白さを表現したかった」と明かす。

ホフマンの妻のエレン(ジュディ・グリア)が言う「あなたは悪党じゃないわ。ただのバカなのよ」というセリフにも、彼の性質がよく表れている。

栄光と挫折の人生

ホフマンを演じるのは、ジェイソン・サダイキス。アメリカの人気コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」で注目を集め、『モンスター上司』『なんちゃって家族』といった作品に出演してきた才人である。

「この映画はラブストーリーに似たところがある」と語るサダイキスは、「デロリアンとホフマンとの間にあるのは友情なんだけど、素敵な出会いから始まって、つまらないケンカもする。二人の関係性を表すシーンがいくつもある」と指摘する。

そしてサダイキスが「素敵な出会い」と語る前半のシーンこそ、二人の関係性の肝となる。

ガレージで「ポンティアックGTO」の修理に苦心していたホフマンのもとにデロリアンがやってくる。いともたやすくエンジンを修理してみせたデロリアンは「これは僕が設計したんだ」と明かす。そして「次は何をするんだい?」と尋ねられたデロリアンは、自身が立ち上げた会社でまさにこれから作ろうとしている新しい車(DMC-12)について、デザイン画を描きながら話してみせる。

あの特徴的なガルウィングドアをスケッチしながら、「未来の車だ。真上に飛ぶ。どこでも駐車可能だ。重力に逆らうんだ。高いが価値がある」。情熱的に語るデロリアンの言葉に「まるでSFみたいだな」と、ホフマンは夢見心地の表情を見せる。

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何かが通じ合った瞬間を感じたのだろう。デロリアンは「金曜は暇か? パーティがあるんだ」とホフマンを誘い、二人は距離を縮める。麻薬の運び屋から足を洗い、FBIの情報提供者として暮らしていたホフマンは、世間からの名声を欲しいままにしていたデロリアンにあこがれのまなざしを向けるが、だがやがてそれは嫉妬と悪意に変わっていく。

「わたしが育ったアメリカでは、男は仕事で判断される」「父は、勤勉さを忘れない限り、夢を見てもいいと言った」「夢の車を作ること。成功したアメリカ人があこがれる車だ」――。

彼が発する言葉は、ホフマンをはじめ、多くの聴衆に陶酔感を与える。しかし物語が進むにつれて、単なるアメリカンドリームの体現者というくくりでは捉えきれないデロリアンのもろさや愚かさまでもが見えてくる。

そんなジョン・デロリアンを演じたのは『落下の王国』『ホビット』シリーズのリー・ペイス。劇中で描かれる時期のデロリアンの年齢よりもかなり若かったが、ペイスが持つ天性のカリスマ性が決め手となった。

撮影現場に30台以上のデロリアン

彼はデロリアンについてリサーチを行い、彼の複雑な人物像に惹き付けられた。

コカインの取り引きで逮捕され、会社も倒産してしまう ©Driven Film Productions 2018

「デロリアンについてみんながよく知っているのは、彼がマスコミを前にたくさんの発言をしていたから。彼は公の場を楽しんでいたようだが、本当はどんな人間だったのか、実はみんなあまり知らない。資料を見たり読んだりしてもジョン・デロリアンという人物のことはわからない。だからこそ演じるのが面白いと思った」。

撮影は主にプエルトリコで、1980年代に建てられた邸宅が多く残る地区がロケ地に選ばれた。撮影現場にはオーナーたちによって完璧に整備された30台以上のデロリアン(DMC-12)があったという。

だが本作の撮影中、2017年最大の熱帯低気圧と言われたハリケーン・マリアが、プエルトリコと隣のドミニカを直撃し、壊滅的な被害がもたらされた。プエルトリコの主要道路は封鎖され、電力も水道もストップするなど、混乱が続いた。

しかし、製作陣は1週間後に撮影を再開したという。あえて製作を続行することで現地経済に貢献し、復興を後押しするという狙いもあった。現地スタッフの家族には、撮影隊が調達したガソリンや食料を提供してお返しをした。

また、俳優たちもプロデューサー陣などと一緒に「プエルトリコ・フィルム・フレンズ・リリーフ・ファンド」を立ち上げ、30万ドル以上を集め、一部を小児科病院に寄付。映画撮影隊とロケ地との良好な関係がうかがい知れる。

車好きではなくても、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を通じてデロリアンという車を知っているという人は多いだろう。だが、その背景に隠されたエピソードは案外知られていない。

本作は、忘れ去られた破天荒な事件を浮き彫りにしただけでなく、ホフマンとデロリアンの複雑な友情模様を丁寧に描き出している。そうしたシーンを見るとグッとくるものがある。


壬生智裕:映画ライター
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記事提供:東洋経済ONLINE

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