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2019.10.06

ライフ

綾野 剛「今はとにかく仕事がしたい。休みは本当にいらないですね」

知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。
綾野 剛●映画では「クローズZERO II」、「日本で一番悪い奴ら」、テレビドラマでは「カーネーション」、「コウノドリ」などの作品に出演。
1982年、岐阜県生まれ。俳優。2003年、「仮面ライダー555」で俳優デビュー。以降、映画では「クローズZERO II」(’09年)、「日本で一番悪い奴ら」(’16年)、テレビドラマでは「カーネーション」(’12年)、「コウノドリ」(’15年、’17年)などの作品に出演。
意図はなくとも時事性を纏う作品になった。10月中旬に公開される映画『楽園』である。
原作は作家・吉田修一による犯罪にまつわる短編を収めた『犯罪小説集』。そのうちの2篇が本作で、ある地方都市の青田に囲まれたY字路で起きた少女失踪事件から物語は始まり、未解決のまま12年の時が過ぎ、再び少女が失踪して展開を早める。
中心人物は、綾野剛、杉咲花、佐藤浩市が演じる3人。彼らは「人はなぜ、殺めるのか。」という命題のもと作中を生きる。なかでも、その生き方に強い関心を引かれたのが綾野演じる中村。2度目の事件の発生時、最初の事件の容疑者としても追い詰められていく彼は、幼い頃に母と海外から移住してきた貧困層に属する青年である。日本語がおぼつかない30代の「孤独な男」であり、そうした生活背景から時事性が匂いたった。昨今、川崎市登戸通り魔事件をはじめとして、ロスジェネ世代の「孤独な男」が犯罪者となる事件が現実に起きているためである。
「確かに豪士は孤独な男ですが、不幸だったかといえばわからない。常に母と過ごす時間が日常で、明日も同じ日が来ることに幸せを感じていたともいえます。他の人と交流していないから、幸せの形を誰かと比較したことがないんです。富める人からすれば貧しく見えても、心まで貧しいのかはわかりません」。
なるほど、豪士は初めから世の中からこぼれ落ちている。同じ「孤独な男」だったとしても、この点が現実の事件とは違う。多くの事件の犯罪者もそれまでは社会の一員として生きていた。日本での幸せの形を知っていたぶん、豪士以上に心の闇は深かったのかもしれない。では綾野は、自身の身の回りに見つけ難い人物を、どう演じたのか。
「役作りはロケーションに委ねた部分が大きいです。Y字路に立ったときや、豪士が暮らす古びた町営住宅の部屋に入ったとき。そうして撮影現場で時間を過ごしながら徐々に彼を理解していきました」。
しかも日本語力に乏しい役ゆえ台詞が少ない。より豊かな表現力を求められたが、そこは望むところ。本作から演じ方を変えたともいう。強烈なキャラを奔放に演じた時期、演技論を大切にした時期を経て、改めてあらゆることから自身を解放。いっそう役を生きようとしている。
「今はとにかく仕事がしたい。休みは本当にいらないですね」。ふとこぼした言葉が示すように最近は仕事に明け暮れる。本作を皮切りに、以降も『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』『影裏』と注目作が次々と公開。37歳を迎え、キャリアのピークはまだ見えていないのである。


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