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2019.04.16

ライフ

Gショックデザイナー・橋本威一郎(39)が見つけた、革新の生み出し方【後編】

【前編】を読む
新卒でカシオ計算機に入社し、35歳でひとつの目標でもあったG-SHOCK(Gショック)のデザイン部門に足を踏み入れた橋本威一郎さん(39歳)。デザイナー人生を歩み、カーボン素材の最新モデルを生み出すまでにはさまざまな紆余曲折があった。
橋下さん
「これ本当に同じ会社なの? ってぐらい、これまでの現場とは何もかも違いました。転職したのかと思うほど(笑)」。
電卓、デジタルカメラ、楽器、プロジェクター、携帯電話と各部署をわたり歩いてきた橋本さん。大きく異なったのは製品完成に至るまでの膨大なデザイン数とその記録量だった。これまでデザインする機会の多かったコンシューマー系製品は消費サイクルが早く、世に出ても2〜3年で消えてしまうのが常だったが、時計の消費サイクルは特別で、詳細な設計図を残すことを求められた。
「時計はいまだに20年前のモデルがリニューアル販売されているぐらいですから、図面として残す過程が製品存続のためにも大切なんです。例えばこの時計の3年前の機種はどんな部品と色を使ったかとか。ただ、その記録量が多すぎて……」。
戸惑うことの多い現場で、初めて橋本さんがデザインしたのはMASTER OF Gシリーズの“陸”部門に当たる「マッドマスター(GWG-1000)」だった。名前のとおり、圧倒的な防塵・防泥構造がウリだが、完成は苦労の連続だったという。
GWG-1000
「泥が入ってもボタンが押せる。これってすごく難しい。気密性を高めすぎると、注射器のようにボタンが押しにくく、押したら戻らなくなってしまうんです。発売日程も決まっていたので、ボタンの周囲にパイプを配置して水を排出する構造にたどりつくまでは眠れない日々が続きました」。
さらに橋本さんを苦しめたのは「Gショック基準」とも呼ばれる、ブランドが求める耐久レベルの高さだ。
橋下さん
「Gショック基準は本当に厳しいんです。例えば防水試験もG-SHOCKは笑っちゃうぐらい水圧をかけますから。もう落として、こすって、沈めて、叩きつけて……もうここまでくると変態だなって思います(笑)。そこがGショックの信頼性と魅力でもあるんですけど」。
クレイジーにすら見える強さへの探究心。そんなGショック基準をクリアしつつ、癖の強すぎない、けれどデジャブ感のないデザイン性を探る。デザインを書いてはブラッシュアップを重ねる日々。だからこそ思い入れのある時計ができあがった。自分がデザインした時計をつけている人を見かけると、子供を見るような気持ちになるという。
「マッドマスター発売後のレビューで『誰も予想しなかったデザインだけど、みんなが待ち望んでいたデザイン』というレビューを見つけたときは、心の中でガッツポーズしました」。


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