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2019.04.08

ライフ

70歳を迎えたジャズトランペッター・近藤等則「面白いのはまだまだこれから」

知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。

失敗はマズイことじゃない。失敗こそがカッコいいんだよ。

近藤等則●1948年、愛知県生まれ。京都大学在学中にトランペッターを志し、ニューヨークで活動。’84年に帰国しIMAバンドを結成する。
1948年、愛知県生まれ。京都大学在学中にトランペッターを志し、ニューヨークで活動。’84年に帰国しIMAバンドを結成する。のちに拠点をオランダ・アムステルダムへ。「地球を吹く」をテーマに世界の大自然と共演してきた。昨年は12枚の作品を発表するなど70歳を迎えてなおフル稼働中。
見よ、この目力、この色気。70歳を過ぎてますますギラつくジャズトランペッター、近藤等則である。昨年は半年で12枚ものアルバムをリリースしたほか、かつて一世を風靡したIMAバンドを25年ぶりに復活させるなど、そのエネルギッシュな活動が再び注目されている。
「俺の人生は失敗と脱線の連続でね。『音楽でどう自由になれるか』をテーマにしているんだけど、自由を追求すると築いてきた道を盛大に踏み外したり、脱線したりしちゃうんだ」。
そう笑い自らの歩みを振り返るが、その生き方こそが彼の音楽家としての揺るぎない個性を形成してきた。
「我々フリージャズの人間が行う即興演奏は、失敗がカッコいいんだ。予測していなかった面白いことが起きるわけだからね。今の世の中の人は失敗をマズイことだと思っているけど、そうじゃない。失敗こそがカッコいいんだよ」。
今回、IMAバンドを再結成したのは「誰も作ってない21世紀の音楽をやるため」と語る近藤。これまでニューヨークやアムステルダムを拠点にグローバルな活動をしてきた彼が力説したのは、日本人特有の感性が持つ大きな可能性についてだった。
「21世紀になって、次にどの文明が地球を救うかと考えた場合、それは日本なんじゃないかと思ってるんだ。何事もまず頭で考える西洋人とは違って、豊かな自然とともに暮らしてきた日本人は身体の感覚が鋭敏なんだよ。日本人には理屈を超えた生命力が表現できると思っている」。
そして、身体感覚を研ぎ澄ますことが世界の真実を知る術だと説く。
「本当の人間というのは、自分を取り巻く360度に対して鋭く意識が広がっているものだと思う。今は前しか見ていない人が多いけど、全方位で感じることが大事だね」。
そして全方位への感度を高められると、彼がテーマにしてきた“自由”の本当の意味がわかるという。つまり、自分の命が宇宙とつながっている感覚を得られると、すなわちそれが自由な状態にあるというのだ。
なんともスケールの大きな話だが、宇宙とのつながりを意識しつつ半世紀も音楽を追求してきた彼が実感したことだけに説得力がある。そうして古希を超えた現在、これからの目標を聞いてみると、またまたナナメ上からの回答が返ってきた。
「若いときは身体が固いし無駄なエネルギーも使うけど、今は力が抜けてきた。自分なんてちっぽけなものだってことはかなり昔にわかったから、自分と向き合うことはとっくに卒業。ずっと宇宙と向き合ってきて、面白いのはまだこれからだよ。音楽への情熱はとめどなく増している」。
この圧倒的な人間力には、老いさえ太刀打ちできないのだ。
『スペース・チルドレン』
『スペース・チルドレン』KONDO・IMA 21
KONDO・IMA 21/TKレコーディングス/3000円
復活したIMAバンドの新作。21世紀のスペースミュージックを奏でる達人たちのアンサンブルの素晴らしさはもとより、熱量、興奮度、洒脱度、すべてがMAX。宇宙スケールの音像に圧倒される作品。http://tkrecordings.com
PAK OK SUN(CUBE)=写真 美馬亜貴子=取材・文 ゴロウタ=衣装協力


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