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2018.11.05

ライフ

「マザー」のデニムがカリフォルニアで作られる理由

LAを拠点とし、ほぼオンラインのみでの販売ながら、女性たちの間で絶大な人気を博しているデニムブランドが、マザーだ。今年、待望のメンズラインがスタート。デザイナーのティム・カーディング氏は、あのギャップでデニムを手掛け、日本やイタリアでもデニム作りを学んだという正真正銘のデニムラバーである。
マザーとは?
2010年にLAでスタート。メンズのデニム畑を歩んできたティム・カーディング氏と、レディスのデニム業界で豊富な経験を持つリラ・ベッカー氏の2人が共同創立者。当初はレディスのみだったが、2018年春夏よりメンズラインが登場。デニムへのこだわりに溢れたディテール、肌なじみの良い素材感、計算し尽くされたシルエットが魅力。商品はロンハーマン メルローズ店とアメリカでのオンライン展開。日本ではRHC ロンハーマンで購入可能だ。

「カリフォルニアという場所が、僕にデニムを作らせる」

共同創立者/デザイナー ティム・カーディング 氏 1969年、米バージニア州ポーツマス生まれ、シカゴ育ち。NYのデザインスクールを卒業後、’95年に独立し自身の会社を設立。2000年にギャップに入社し、「1969ジーンズ」のデザインを担当するなど数々のヒット作を生み出した。’07年にはギャップを退職し、セブン フォー オール マンカインドのデニムデザインを担当。’10年に共同設立者のリラ・ベッカーとともにマザーを立ち上げる。8歳と3歳の息子たちと遊ぶのが大好きな、父としての顔も持つ。
デニムは今、戦国時代。さまざまなブランドが群雄割拠するなかで愛すべき1本を選ぶには、見た目だけではなく共感できる背景が欲しい。そんな僕らの感情を刺激するデニムブランドが、今季より日本に本格上陸。その名はマザー。デザイナーであるティム・カーディング氏の言葉には、デニムに対する熱い思いが溢れている。
「デニムと聞けば、やれ生地がどう、加工がどうと、ディテールばかりが注目されがちです。でも僕にとっては、『1本のデニムをはいた人がどんな気分になるのか』が最も重要。マザーでは、そのフィーリングの部分を強く伝えていきたい。ディテールはその次に語られるべきだと思うのです。僕らのデニムは、ほぼすべてをカリフォルニアで生産しています。青い空と太陽が輝く、リラックスしたムードに満ちたこの土地の空気感を、デニムをはいた人にも感じとってほしいのです」。
カリフォルニア生産と聞くと、確かに我々のテンションはグッと上がる。もちろんカーディング氏がディテールを重要視していないわけではない。むしろ“好きなほう”だと思う。実際、新作を手に取ってあれこれ説明してくれたときの彼は、デニム好きのいち少年に戻ったかのようだった。そしてデニムという服そのものの魅力について聞くと、こう語ってくれた。
「新品で買ったときよりも10年後のほうが格好良くなる服なんて、デニム以外にないですよね。色落ちや縮み、リペアの跡は、着用した人それぞれの唯一無二のもの。つまりその人のストーリーがデニムに表れるんです。シルクのシャツじゃこうはならない」。
そんな無類のデニム好きが自身のブランドを設立したのは2010年のこと。当初はレディスのみの展開だった。
「ビジネスパートナーのリラ・ベッカー(※1)の専門がレディスだったので、メンズのことはまったく頭になかった。実際、当時の僕らは一杯いっぱいだったし(笑)。でも2年前、レディスの“スーペリアライン”で、ヴィンテージから着想を得たデニムばかりを作っていたときのこと。ふと“僕もこんなデニムをはきたい!”という気持ちが湧き上がってきたんです。『やはりメンズも作ろう』と言ったら、ほかの男性スタッフも『ミー・トゥー!』って(笑)」。
こうして生まれたのがマザーのメンズライン。ステッチの色使いやポケットの形状、素材選びや加工には、ヴィンテージ表現に対するこだわりが詰まっている。そしてこだわるからこそ、苦労することも多いのだとか。
「ついさっきまで誰かがはいていたかのようなデニムを作るのは、本当に難しい。縫製して、洗って、加工すれば、生き物のように表情が変わるのだから当然ですよね。メンズを始めてからは本当に仕事が増えました。個人的にどうしても入れ込んでしまうから(笑)」。
そのメンズラインは、オンライン販売でかなりの人気を博しているという。
「僕のデニム作りのキャリアはそのまま、マザーのデニム作りの糧になっています。日本やイタリアをはじめとして、世界中のデニム作りを見聞してきたことも役に立っている。今後も自分の直感を大事にしていきたい。そして遠い先を見るよりも、このマジカルな場所──カリフォルニア──で、デニムを作り続けていきたいですね」。
 
※1 リラ・ベッカー
LAファッション界でその名を馳せるショールーム「Sea」を立ち上げ、数々の西海岸デニムを世界に発信してきた人物。マザーではマーケティングを担当。ちなみに、カーディング氏の妻ではない。
髙村将司=文 加瀬友重=編集


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