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2018.07.20

かぞく

中学受験が親の未熟さをあぶり出す。ある父の贖罪

父親と中学受験 Vol.6
「仕事ができる父親ほど、子育てに苦手意識がある」。そんな傾向があることは、昔から根強く囁かれている。仕事で結果を出すための手法と、子供の素質を伸ばすための手法が相反することが多いからだ。しかし、いざ「中学受験」となると、子供と共通目標を立てて合格という結果を得るために、自分のビジネスノウハウが活きてくるはず! と意気込む父親も多い。実は「中学受験」には大きな落とし穴があるとも知らずに……。
この連載では、年頃の子供がいるオーシャンズ世代の父親が「中学受験に関わるときに注意すべきこと」を、教育・育児ジャーナリストのおおたとしまさ氏に直言してもらいます。
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PDCAサイクルが招いた悪循環

Dさんは、地方公立進学校から国立大に進み有名企業に就職。飛ぶ鳥を落とす勢いで出世し、若くして会社の内外から注目を浴びていた。
激務ではあったが、ときどき子供の中学受験勉強を見た。教えるというよりも、長期・中期・短期の目標を明確にし、そこからブレイクダウンした計画を立て、実行状況を確認し、改善点を指摘するということをくり返した。普段直接話す時間が少ないので、日誌も付けるようにした。ビジネスの現場で身に付けたPDCAサイクルを、子供の中学受験に応用したのだ。自信があった。
しかし、子供は自分の思ったとおりに勉強しない。日誌にシールを貼ったり、受験勉強を息子の好きなサッカーに例えたりしてモチベーション向上を図ったが上手くいかない。成績も上がらない。
小6になってからのことだった。Dさんが帰宅すると、予定のことが何もできていなかった。「なぜやっていないんだ?」。尋問が始まる。息子が口を開けば、「言い訳するな」と遮った。「いまやろう!」。無理矢理やらせた。
そんなことが、週1回、週2回と、次第に増えていった。勉強しない日が増えれば、その分のしわ寄せが、そのあとの計画に上乗せされる。学習計画がどんどん非現実的になっていく。ますます息子のモチベーションは下がる。悪循環はわかっていたが、もう止まらない。ふがいない息子を見て、「ふざけるな!」と怒鳴り散らした。手も出した。
夏休み。遅れを取り戻そうと、Dさんは一層熱心に息子に指導した。反比例するように成績は急下降。
「思い返せば当時、仕事のストレスも大きくて、私自身に余裕がなくなっていたのです。それに気付かずに、子供のできていないところだけを見て、子供自身を見ていなかった……」。
このときDさんは、中学受験の魔物に完全にとりつかれてしまっていた。自分がどんどん自分でなくなっていく。ありのままの子供が見えなくなっていく……。


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