十人十色の夫婦関係 Vol.4
2018.05.30
FAMILY

夫47歳、妻27歳。「だけど、乗り越える壁なんてなかった夫婦」

十人十色の夫婦関係 Vol.4
夫婦のカタチは人それぞれ。その数だけ、異なる幸せがある。たとえ一般的なスタイルと一線を画すものであっても、当人たちが納得していればそれでいいのだ。当連載では、ステレオタイプな「理想の家族」の型にはまらず、独自のスタイルを持つ夫婦を取材。異色ながらも円満な結婚生活を通じ、多様な幸せの在り方を探る。

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歳の差はひと回り以上

今回お話を伺ったのは新婚ホヤホヤの杠(ゆずりは)夫妻。5年の同棲を経て、今年の3月に入籍した。夫の雅之さんは47歳、妻の由那さんは27歳。一般の夫婦で20もの歳の差は珍しい。しかし、そこにいたのは年齢の壁を物ともせず、自然体で暮らすふたりだった。

夫はフリーランスのテレビディレクター。妻は看護師を経て、現在は大手企業に勤めている。(C)ハービー・山口

『おそ松くん』のTシャツでインタビューに臨む夫に対し、「そんな格好でいいの?(笑)」と突っ込む妻。仲の良さが伝わる和やかなやりとりから取材はスタートした。

まずは、単刀直入に聞いてみた。お互いのどんなところが好きですか?

由那さん「一番は人に対する思いやりですかね。出会ってから今日までずっと優しく、包み込むように接してくれるから安心して身を預けられます。もともとは特に年上好きというわけでもなかったんですけどね。ずっと仲の良い両親を見て育ってきたので、父のようにおおらかで優しい人がいいなあという漠然とした思いはありました」。

雅之さん「彼女は年上との付き合い方がじつにうまい。失礼じゃない程度に馴れ馴れしく、しかも狙わずナチュラルに接する。ふたりでよく飲みに行くんですけど、彼女のように着飾らない自由な若者って、そこにいるおじさんたちからも愛されるんですよね。逆に僕はこういうアヤシイ感じの風貌だし、押しが強いから初対面の人にはわりと警戒されちゃうんですよ(笑)。でも、ユナちゃんと一緒だと、最初の壁を彼女がとっぱらってくれるから有難いなって」。

出会いは代官山の飲み屋。常連だった雅之さんが由那さんにちょっかいを出し、飲み友達になったという。
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世代間ギャップなんて、そもそもない

とはいえ、20歳差となると、同年代同士の夫婦にはない悩み、不満もあるだろう。例えば、話が合わないなんてことはないのか?

由那さん「確かに、出会ったころは映画や音楽の話はあまり噛み合いませんでした。でも、無理に合わせなくていいと思うんです。例えば、飲み屋で彼と誰かが昔の音楽の話で盛り上がっていたら、私は無理に入らず違う人と話したりとか。お互いに無理にギャップを埋めようとしていないですね」。

雅之さん「まあ、若い時は確かに『自分の好きなものを理解してほしい』って気持ちもありましたよ。でも、今はまったくない。そこは、オッサンになって成長した点だと思います(笑)。だから、とりあえず話題をふってみて彼女が乗ってくればそれでいいし、興味がなさそうだったら別の話をすればいい。まあ、そんなもんですよ」。

これ以外にも、「世代間ギャップ」にまつわる質問をいくつか投げてみたが、“苦労話”はまったく出てこない。雅之さんいわく「ギャップがあるとか、そもそも全く思ってないんですよね(笑)」とのこと。20歳も離れていれば、「年齢の壁を乗り越えたエピソード」のようなものが聞けるだろうと想像していたが、ふたりには壁そのものがないのである。

年上だからこうあるべき、みたいな気負いもない

普段は歳の差をまるで意識しないというふたり。ひと回り以上も年上のパートナーだからといって、由那さんが雅之さんに「過度な期待」を寄せるようなこともない。あくまで対等に、フラットに向き合っている。

由那さん「年上だからって完璧じゃないんだなっていうのは、一緒に暮らし始めた頃、わりと初期の段階で悟りました(笑)。パジャマをそのへんに脱ぎ散らかすとか、彼に対してイライラすることもけっこうありますからね。まあ、そういうのは年上じゃなくてもイライラしていると思うんですよ」。

一方の雅之さんにも、年長者としての気負いはないようだ。

雅之さん「年上だからこうあるべき、みたいなのは全然ないですね。まあ、強いて挙げるとすれば彼女に対してムキにならないこと、かな。僕から彼女にダメ出しをすることはないけど、彼女からのダメ出しは受け止めて、カチンときてもムキにならないように努めています。彼女の言葉がきついときは『そういう言い方をすると損をするよ』って嗜めるくらいで、まあそこは大人なんですよ、さすがにね」。

由那さん「確かに、それくらい余裕がある人じゃないと続いていないと思います。それは年上だからなのか、彼だからなのか分からないですけど……」。

ただ、雅之さんの「オッサンならではの経験」が活かされるケースはもちろんあるようで、例えばこんなことがあったという。

由那さん「私が苦労している時に一緒に走ってくれるのはありがたいです。特に転職活動のときは、彼の励ましやアドバイスが本当に力になりました」。

雅之さん「といっても、彼女が面接で話そうとしている内容をひと通り聞かせてもらって、面接官にウケが良さそうな部分をピックアップしただけなんですけどね。面接官って大体オッサンなので、そのへんのツボは僕のほうが分かるじゃないですか」。

由那さん「それに、面接に限らず人との関わり方のコツみたいなものだったり、教わることは多いです。例えば、先輩に対しても繕わないで正直に振舞ったほうがかえって信頼されるよとか」。

雅之さん「まあ、彼女にとっての先輩だって、僕よりは年下なんですよ。そう考えたら、彼女だっていくらか気楽にふるまえると思うんですよね」。

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彼女が80歳になるまでは生きたい

しかし、もちろん心配ごともある。特に、雅之さんの健康面だ。

雅之さん「付き合い始めて3年目くらいに、ふたりで生命保険の契約に行ったんですよ。その帰りに彼女、泣いたんです。彼女が80歳になったとき、僕が生きているのか想像したみたいで。色んな話を聞いているうちに、僕が生きていない状況をリアルに想像しちゃったんですね」。

それまで年齢差を意識せずに暮らしてきたからこそ、由那さんにとってはショックだったようだ。そこで雅之さん、一念発起する。

雅之さん「まあ、現実的に僕が先に逝く可能性は高いわけですが、なるべく長く生きなきゃと思った。由那ちゃんが80歳まで生きるなら、僕は100歳まで。20年くらい長く生きられたらオッケーかなと。彼女をがっかりさせたくないから、健康への意識はけっこう変わったと思います」。

普通のアラフィフが、20代の女性と結婚する。同年代の男性からすれば、夢のような話かもしれない。しかし、杠夫妻にそんな気負いやてらいはない。年上だから、若いから、そういう物差しではなくひとりの人間として互いを尊重している。取材前に抱いていた年の差夫婦に対する先入観を打ち壊す、「普通の夫婦」がそこにはいた。

榎並紀行(やじろべえ)=取材・文

# 十人十色の夫婦関係# 夫婦# 歳の差
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