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2018.05.23

ライフ

マンガ『信長を殺した男』に見る、明智光秀の素顔と驚きの仕事術

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4月下旬、2020年放送予定の大河ドラマ『麒麟がくる』の記者発表が行われた。主演・長谷川博己が演じるのは「明智光秀」。そう、あの“本能寺の変”で織田信長を討ち倒したとされる人物の生涯が描かれるのだ。

織田信長の忠臣だったが、反旗を翻した明智光秀。日本史に残る大きなクーデターとされるこの事件は、主君の暴虐に業を煮やした忠臣の叛逆というのが、今日における“定説”として知られている。明智光秀は裏切り者だというのが、多くの人の認識だろう。しかし、それが“嘘”だったとしたら――。

『信長を殺した男~本能寺の変431年目の真実~』(明智憲三郎 原案、藤堂裕 漫画/秋田書店)は、そんな歴史の真実を暴き出した作品だ。

『信長を殺した男~本能寺の変431年目の真実~』(明智憲三郎 原案、藤堂裕 漫画/秋田書店)

原案を担当した明智憲三郎氏は、光秀の子孫である人物。“逆賊 明智光秀の子孫”という汚名を返上するため、歴史資料を徹底的に洗い直し、ある真実にたどり着いたという。それを一冊にまとめたのが、2013年に発売された『本能寺の変431年目の真実』(文芸社)だ。本書は累計40万部を突破。史実に一石を投じる歴史書として、知られることとなった。

『信長を殺した男~本能寺の変431年目の真実~』は同書を原案にした歴史マンガであり、光秀をはじめとする武将たちの意外な素顔が描かれている。

光秀の信長に対する信頼、愛情の深さ。人情に厚い信長の性格。そして、彼が最後に遺したとされる言葉。いずれも知られていないことばかりで、一読すれば驚きの連続だろう。それと同時に、「信長の傍若無人ぶりに光秀は耐えられなかったため謀反に至った」という動機に、疑問が生じる。深い絆で結ばれていたふたりの関係性が、そんな理由で壊れてしまうのだろうか……?

本作では光秀と信長の出会いの瞬間から、少しずつ信頼関係が築かれていくさまが丁寧に描かれている。それは、初老の中間であった光秀が立身出世していくサクセスストーリーだ。現代に置き換えれば派遣社員から正社員になり、やがて副社長という重役に上り詰めていくようなもの。その様子は、組織に身を置く読者なら胸のすく思いだろう。と同時に、聡明にして機を見るに敏であった光秀の“仕事術”に学べる点も少なくないはずだ。

光秀の“仕事人生”を軸に、随所に張り巡らされた伏線とさまざまな登場人物たちの思惑が、本能寺の変へと収束していく。

大河ドラマ放映の前に、一読するのも一興だ。「歴史は勝者のもの」という言葉の重みが感じられるとともに、そこには、歴史に埋もれていった事実の行く末に思いを馳せる楽しみがある。

五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。



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