十人十色の夫婦関係 Vol.2
2018.04.24
LIFE STYLE

結婚6年、同居は2週間。それでも幸せな日本-英国・遠距離夫婦

十人十色の夫婦関係Vol.2
夫婦のカタチは人それぞれ。その数だけ、異なる幸せがある。たとえ一般的なスタイルと一線を画すものであっても、当人たちが納得していればそれでいいのだ。当連載では、ステレオタイプな「理想の家族」の型にはまらず、独自のスタイルを持つ夫婦を取材。異色ながらも円満な結婚生活を通じ、多様な幸せの在り方を探る。

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結婚前からすれ違い続けて幾年月、今や遠距離が当たり前に

今回お話を伺ったのは結婚7年目の金子さん夫妻。6年間の結婚生活において、ほとんど一緒に暮らしたことがないという「別居婚」夫婦だ。しかし彼らに悲壮感はない。それどころか、実に幸せそうだ。そんなふたりの結婚ストーリーを紐解いていこう。

夫の洋さん(32歳)は都内大手商社に勤めるサラリーマン、妻の春菜さん(32歳)はイギリスで研究職に就いている。取材はケンブリッジの春菜さんとスカイプでつなぎ、“夫婦同席”のもと行われた。

夫の洋さんは、いかにも誠実な商社マンという印象。

付き合い始めたのは高校時代。そのまま同じ大学に進学したが、ほどなくして遠距離になる。

洋さん「大学3年のとき、妻が山形のキャンパスで研究をすることになったんです。私は卒業まで東京で、そのまま都内の企業に就職。妻は山形で大学院に進みました。以降も、なんだかんだとすれ違って、現在に至るまでずっと遠距離が続いています」。

洋さんが言うように、ふたりの人生はまさにすれ違いの連続。春菜さんは大学院卒業後、博士課程に進むため山形から京都へ。洋さんは洋さんで、入社3年目の夏からイギリスに転勤。2年間の赴任を終え、いざ日本に帰国という段になって、今度は春菜さんがイギリスで研究者として働くことに。「正直、避けられているのかなと思いました」と夫が苦笑するほど、ことごとくタイミングが合わなかった。

なお、入籍は洋さんがイギリスに発つ直前。春菜さんは当初あまり結婚に乗り気ではなかったが、3カ月にもおよぶ洋さんの熱烈な求婚が実った形だ。

洋さん「本当はイギリスについてきてほしかったけど、そもそもの結婚からして渋られてしまったので……。もう、そこからはゴリ押しです(笑)。日本を発つまでの間になんとか、せめて結婚だけは了承してもらおうと彼女のいる京都に行っては押しまくった。というのも、海外と日本となると、これまでの遠距離とはわけが違う。もし、僕が向こうにいる間に彼女に何かあったとしても、『交際相手』というステータスでは帰国しようにも会社の理解を得づらいですからね。あとはもちろん、遠く離れてしまうからこそ夫婦になって精神的なつながりを強くしたかったというのもあります」。

一方の春菜さんは、結婚に対してはやや冷静なスタンスのようだ。

取材は日本時間・夜7時半からスタート。イギリスのランチタイムを利用して、スカイプで参加頂いた。

春菜さん「夢のない話になってしまいますが、私自身はそこまで結婚を重要視していませんでした。逆に言えば、重要でないならべつにしてもいいかなと(笑)。夫が言うように、未婚だとパートナーとして社会的に不便が生じることはあると思いますが、心の繋がりとか感情的な面でいえば必ずしも夫婦という形をとる必要はないんじゃないかと。結婚している・していないに関わらず、彼に対しての絆はちゃんと感じていますから」。

春菜さんの言葉はぶっきらぼうで冷たく感じられるかもしれないが、最後の一言からは不器用ながら正直な夫への愛情が伝わってきた。大学時代の遠距離恋愛から10年以上にわたり、物理的な距離を乗り越えてきた絆は確かなものだ。

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たまに会うからこそ、常にフレッシュな気持ちでいられる

春菜さんは、洋さんとの共同生活を拒んでいるわけではない。ただ、一緒にいることより、今やるべき研究に没頭する道を選んだ。夫とは心でつながっている。自信があるからこそ、ステレオタイプな夫婦像に縛られる必要はない。幸い、夫もそんな妻を応援し、成功を望んでいる。

洋さん「自分で言うのもなんですが、妻は優秀なんですよ、本当に。大学も首席でしたし、研究者として世の中に貢献できる人だと思うんです。僕のために料理を作ったり家事をしたり、そういうことに時間を費やすより研究者として羽ばたいてほしい。最終的にはノーベル賞をとってほしい、なんて思ってます(笑)」。

そんな夫に、妻も素直な感謝を述べる。「今の生活に不満は全くありません。離れているので常に安否確認はしていますが、基本的には互いに放置です。かなり自由にやらせてもらっていますね」。

平日のコミュニケーションはLINEで、毎日たわいもないやりとりする程度。休日は日本時間の22時からビデオチャットで会話をするが、絶対の決まりではない。飲み会などの予定があればキャンセルできるゆるいルールだ。

洋さん「自分の時間を好きに使えるのは、僕にとってもありがたい。休日はイラストを描いたり、LINEのスタンプを作ったり、友人とゲーム実況の動画を撮ったりしています。料理も好きですし、ひとりでできる趣味ばかりですね。最近はドローンも買いました。妻は妻でランニングや乗馬をやりますし、別居婚だからこそ互いに個人の時間を思う存分楽しめる。そう、前向きにとらえています」。

必要以上に干渉せず、頼りすぎず、しかし確かに思い合っている。そういうふたりだからこそ成り立つ遠距離婚。こんなメリットもあるようだ。

洋さん「たまに会うと、やっぱり新鮮で恋心が燃え上がるんですよね(笑)。付き合い始めてから数えると14年になりますけど、未だにフレッシュな気持ちでデートできる。別れ際には『次は半年後だね』って空港で涙ぐむくらい、互いの大切さを実感するんですよ。別居状態が、かえって夫婦円満の秘訣になっていると思います」。

2016年冬、スイスにて。ふたりは年2回ほど会い、旅行を兼ねることもある。この写真はヨーロッパ旅行をしたときの様子。背景に見えるのはイタリアとの国境に聳える、標高4478mのマッターホルン。
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わずか2週間の同居生活、夫の本音は「幸せでした」

そんな夫婦だが、じつは2週間だけ一つ屋根の下で生活したことがある。夫がイギリスでの単身赴任を終えるタイミング、その最後の最後で妻がケンブリッジの研究機関に着任し渡英。ほんのわずかな期間だったが、初めてふたりの場所と時間が重なった。

春菜さん「あの2週間だけは、一般的な家庭に近い経験ができたと思います。でも、互いに仕事が忙しくて、甘い新婚生活という感じではなかったですね。夫は夜が遅く、私は朝が早かったので、生活時間がなかなかかみ合わずすれ違い。一緒に住んでいるからといって、必ずしも仲が深まるわけじゃないんだなと。じつは同居生活に少し期待していたぶん、残念だったというのが本音です」。

どこまでもクールな妻。「そろそろ仕事に戻らないと」と席を立つ最後まで、甘い言葉は聞かれなかった。洋さんはそんな妻の話を静かに聞いていたが、スカイプが切れたあと、こんな本音を吐露した。

洋さん「妻らしい意見だと思います。でも、彼女はああ言いましたが、僕はあの2週間、本当に幸せだったんですよね。夜、仕事から帰ってきたときに待ってくれている人がいる。朝、行ってきますと言える相手がいる。そんな些細な一つひとつに、幸せを噛みしめていました。今さら古い家庭像を押し付けるつもりはないし、現状を前向きに楽しんでもいるけど、普通の同居生活に憧れる気持ちが全くないわけではありません」。

また、かくいう妻も、条件が整えば再び同居してもいいと語っていた。

春菜さん「さすがにいつまでも別居婚を続けようとは考えていません。年を重ねるにつれ、別居への不安や違和感は大きくなっていくでしょうし、この先子供を持つとなったら今のスタイルはさすがに無理。とりあえず現職の契約が満了したら、日本で新たな仕事に就くつもりです」。

本格的な同居に対しては夫婦とも「不安がある」と口を揃える。だが、ともに長年のひとり暮らしで育てた自立心や相手への思いやりは、来るべき同居生活を円満に送る上でも大いに役立つだろうと考えている。

家庭の“実態”が見えづらいその関係は、一見脆くも思える。しかし、海を越えてなお、一度も離れることなく心をつなぎとめてきた。その歳月は、確実に夫婦の糧になっているようだ。


取材・文=榎並紀行(やじろべえ)


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第1回
「子供をつくらない」を条件に結婚。そんな夫婦の幸せのカタチ

# 十人十色の夫婦関係# 夫婦# 遠距離
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