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2018.03.02

ライフ

職場の20代に「マネジメントには興味ありません」と言われた


職場の20代がわからないVol.8
30代~40代のビジネスパーソンは「個を活かしつつ、組織を強くする」というマネジメント課題に直面している。ときに先輩から梯子を外され、ときに同僚から出し抜かれ、ときに経営陣の方針に戸惑わされる。しかし、最も自分の力不足を感じるのは、「後輩の育成」ではないでしょうか。20代の会社の若造に「もう辞めます」「やる気がでません」「僕らの世代とは違うんで」と言われてしまったときに、あなたならどうしますか。ものわかりのいい上司になりたいのに、なれない。そんなジレンマを解消するために、人材と組織のプロフェッショナルである曽和利光氏から「40代が20代と付き合うときの心得」を教えてもらいます。
「職場の20代がわからない」を最初から読む

 

出世を望まなくなった若者たちだが、本当に若者は無気力になったのか?

今回のテーマは「出世」です。2017年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが新入社員に実施したアンケート調査によると、「出世したい」「出世しなくても好きな仕事を楽しくしたい」の二者択一の質問で、前者は46.6%。これに対して後者は53.4%でした。この傾向は2014年以降から続いているもので、今の若者は出世というものに徐々に興味がなくなってきているようです。
そう考えれば、本稿のタイトルのように「マネジメントに興味がない」、つまりマネジャーになりたくない、偉くなりたくないとの発言が増えるのも当然でしょう。このことは、我々オッサン世代からすれば、出世を望まないのは「向上心の欠如」や「自己満足」と思い、最近の若者は無欲、無気力なんだから、と感じるかもしれません。しかし、本当に若者は無気力になったのでしょうか。
 

そもそも、出世=管理職の仕事に就くことの価値が下がってきている

私はそう思いません。若い人たちの中には、昔の世代と比べても向上心の強い人はたくさんいます。若者たちは無気力になったから出世を望まなくなってきているのではなく、出世、つまり一般的な意味では組織長・管理職になってマネジメントの仕事に就くことが、魅力的ではなくなってきているのです。
ビル・ゲイツが語ったとされる有名な言葉のひとつに「ギーク(オタク)に親切にするべき」というものがあります。その理由とは、「これからは、ひとつのことを極めている人のほうが、平均的に何でもできる人よりも重宝されるため、彼らの下で働くことになるかもしれないから」とのことです。たくさんの人の力を結集して、方向合わせをし、ひとりではできない大きなパワーに変えて行くことが、これまでは(もちろん今もですが)重要な仕事でした。ところが上述のビル・ゲイツの言葉のように、極端な話、何百人何千人の力を結集するよりも、「一騎当千」なひとりの天才の仕事のほうがずっと成果が出るというようなことが増えているのです。そうなれば、マネジャーは「偉い人」というよりは、サーバントリーダーという言葉もあるように、スタープレイヤーの力を引き出す環境整備役、いわば裏方であり、あくまで主役はプレイヤーという業界が増えてきたのかもしれません。
 

人間の精神発達には、ライフサイクルによって適した役割がある

それに加えて、20代の若者がマネジメントに興味が持てないというのは、ある意味、人間の精神発達という観点からみると、もともと当然のことでもあります。アイデンティティ(自己同一性)という有名な概念を提唱した心理学者エリクソンのライフサイクル理論によれば、子育てや自分の後継者の育成など、次世代が発展していくことにやりがいを感じるのは40代頃とされます。20代のような青年期はまだその段階にはなく、それよりも、思春期からの発達課題であるアイデンティティを固め、「自分らしさ」を形成し、自分の人生を捧げるべき対象を発見していくことのほうが重要です。そして、そのまた次は、「親密性」といって、自分にとって特別な存在となる他者(仲間や恋人など)との親密な関係を構築できるようになり、人を愛する力を獲得しなくてはなりません。
このような段階を経てようやく、マネジメントのような「自分以外」の人の世話をすることに対して関心が出てくるのが自然なことなのです。それなのに、無理をして有能な若手に、「出世したいはずだろう」とマネジメントを担わせることが本当に良いことなのでしょうか。個人差はもちろんありますが、おおよそ、それぞれの年代の精神発達に「適した役割」というものがあるのです。
 

自由人なプレイヤーを活かす“スーパーマネジャー”の価値は上がっていく

これまで述べてきたように、時代的にプレイヤー志向の人が増えていることと、そもそも若手がマネジメントという職務に興味を持つのはやや早いという理由で、「マネジメントに興味がない」という発言や状況が現れるのでしょう。しかし、20代の若者も、時が経てば、我々オッサン世代になっていき、プレイヤーの環境整備や後進の育成などの「世話」をする、マネジメントの立場に関心を持つようになるはずです。
また、プレイヤーをずっと続けていたくても、身体的な衰えや、老化などの不可避なものによって、マネジメント側に立たないと居場所がなくなるということもありえます。さらに、いくらプレイヤーの時代といっても、マネジメントが全く無用になることもないでしょう。むしろ、自律的で自由人なプレイヤーたちが増えれば増えるほど、彼らをマネジメントできるスーパーマネジャーの価値はむしろ上がっていきます。Googleのような企業でも、エリック・シュミットというスーパーマネジャーを迎えたことは象徴的な事例だと思います。これは極端な例としても、今は「マネジメントに興味がない」と若者が思っていたとしても、プレイヤーを続けられなくなったときに本人の気持ちも変わっていくのです。
 

マネジメントをやりたがらない若手には、まずは「タスクマネジメント」からやらせてみる

「生涯現役」という言葉もありますし、ずっとマネジメントなどしなくてもよい業態や仕事もあることでしょう。一生プレイヤーをしたいと思い、それができれば幸せなことです。何も言うことはありません。しかし、現実的には上述のように、いつかは今の若者もオッサンになり、プレイヤーとしては衰え、マネジメントを期待されるようになっていきます。ところがマネジメントも専門スキルですから、その時になっていきなりできるものではありません。ですから、若手が「やりたくない」と言ったとしても、少しずつ、だましだまし、マネジメントの仕事をさせてあげるのも親心というものです。
マネジメントと一言で言っても、タスクマネジメント(仕事やプロジェクトのマネジメント)とピープルマネジメント(字義通り、人のマネジメント。育成やキャリア指導など)に分かれますが、前者であればまだ精神的な発達課題がついていっていなくともできるはずですし、抵抗感もないのではないでしょうか。嫌がられても、マネジメント機会を与えてあげるのは、オッサン世代の良心です。
 
文/曽和利光
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。


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