OCEANS

SHARE

2018.02.16

ライフ

職場の20代に「今の、セクハラ発言じゃないですか」と言われた


職場の20代がわからないVol.7
30代~40代のビジネスパーソンは「個を活かしつつ、組織を強くする」というマネジメント課題に直面している。ときに先輩から梯子を外され、ときに同僚から出し抜かれ、ときに経営陣の方針に戸惑わされる。しかし、最も自分の力不足を感じるのは、「後輩の育成」ではないでしょうか。20代の会社の若造に「もう辞めます」「やる気がでません」「僕らの世代とは違うんで」と言われてしまったときに、あなたならどうしますか。ものわかりのいい上司になりたいのに、なれない。そんなジレンマを解消するために、人材と組織のプロフェッショナルである曽和利光氏から「40代が20代と付き合うときの心得」を教えてもらいます。
「職場の20代がわからない」を最初から読む

職場にはハラスメントだらけ。同じ行動でも、相手がどう思うかによる

今回のテーマは「距離」です。セクハラ、パワハラ、モラハラ、オワハラ(「就職活動終われハラスメント」といって、新卒採用で内定した学生に自社に入社して欲しいと強く口説くと、こう言われたりします)、現在では本当にたくさんのハラスメントが存在しています。我々オッサン世代が特に標的にされているという被害妄想もあり、何をしてもハラスメントと言われるというので、「ハラスメント・ハラスメントだ」などと言う人もいます。
これらすべてのハラスメントにおいて共通するのは、「相手がハラスメントだと思ったらハラスメントである」という考え方です。職場恋愛とセクハラを分けるのも、叱咤激励とパワハラ、モラハラを分けるにもすべてこれです。同じようなことをしていても、ある時にはハラスメントとされ、ある時にはそうされない。それが「相手がそう思うかどうか」というだけでは、ハラスメントだと糾弾されがちなオッサン世代も一体どうしたら良いかわかりません。
 

それぞれが持つ「適切な心理的・物理的距離感」が異なっていることに起因

では、「相手がハラスメントと思うかどうか」を決めるのは一体なんでしょうか。それが、冒頭で本稿のテーマだと述べました「距離」、相手との心理的な距離感です。心理的な距離感とは、別の言い方をすれば、親近感と言っても良いでしょう。ちなみに、当然ながら心理的距離感と物理的・身体的距離感には相関があり、好意をもっている相手には身体的にも近づきたくなり、逆に、敵対心や苦手意識がある相手からは遠ざかりたいと感じてしまいます。この心理的距離が相手とどの程度であるかを間違えて行動を起こすと、それが何らかのハラスメントとされるのです。
こちらは勝手に分かり合っていると思っていても、相手はこちらを得体の知れない人と思っていれば、それぞれが適切な距離だと思っているものは異なることになります。心理的距離感が異なれば、心地の良い物理的距離感も異なります。親しく振舞っているつもりが、相手には馴れ馴れしすぎると感じたり、相手のことを思ってのストレートな物言いとしたものが、言われる筋合いのないような他人から余計なことを言われた、と思ったりするわけです。
 

120cm以内に近づけるかどうか。物理的距離から心理的距離を推察

心理的距離は、心の中のもので見えないものですから、それと相関のある物理的距離から推測するしかありません。ある人とどれぐらい心理的距離があるかどうかは、どの程度の物理的距離を相手がどのように感じているのかをよく観察すればよいのです。エドワード・ホールは物理的距離を、45cm以下を密接距離と呼び、恋人や親子などの極めて親しい人のみが快適な距離としました。120cm以下を個体距離と呼び、友人や知人レベルの親しさの人なら快適な距離としました。
例えばこのような基準をベースに、日常的に対象となる相手とどの程度の距離にある場合に、相手がどう思うかをきちんと観察し、それによって心理的距離を推定するわけです。自分が近寄ると、相手がじりじり下がったり、嫌な表情をしたりするような状況であれば、それは近すぎるということです。往々にして、心理的距離感を間違える人はこういう細かいところを観察できていないのです。相手を観察せずに自分の行動を決めてしまうのは、自分の欲求や都合だけで動いていると言っても過言ではありません。
 

「相手への依存心」や「嫌悪感」が、適切な距離感を保てない要因に

このように、物理的距離が相手に与える影響を観察できていないという他にも、距離感を誤ってしまう要素はいろいろあります。まず近すぎる場合(ハラスメントはこの場合によく起こります)の原因としてよくあるのは、「相手への依存心」です。簡単に言えば、好きであったり、関心を持っていたり、期待をしているというような場合です。相手の存在が自分の中で大きなものであればあるほど、当然ながら近づきたくなりますし、自分の感情を相手に投影して、相手も同じように好意を持っていると勝手に認識したりします。
逆に、遠すぎる場合(この場合も、ネグレクト等、ハラスメントにつながる場合もあります)の原因としてよくあるのは、一番わかりやすいのは「相手への嫌悪感や不信感」です。仏教の四苦八苦にも「怨憎会苦」といって「会いたくない人に会う苦しみ」が入っているぐらい、嫌な人には近づきたくありません。もうひとつあるのは、自分に人間不信や強い内向性、自信の無さなどの性格的特徴がある場合です。そういう場合は、相手がどうであれ、必要以上に心理的・物理的距離を取ってしまう傾向があります。
 

「相手への気持ち」を自覚できるよう、他者からのフィードバックを受ける

ハラスメントにならないように相手との心理的距離=物理的距離をコントロールするには、以上のように、適切な距離感を相手と自分の側からきちんと見て、判断するということが大切です。そのためには、先に挙げたように、物理的距離の与える影響を観察するとともに、相手に対する自分の気持ちを明確に認識するべきです。ただ、「自分の気持ち」が自分で簡単にわかれば良いのですが、そうは問屋がおろしません。むしろ、自分の気持ちこそ、自分が一番わからないとも言えます。
自分の気持ちに気づくには、他者からのフィードバックが欠かせませんが、我々オッサン世代は、それなりに偉くなってしまっていたり、日本的長幼の序の影響を受けたりして、自然に若者が「あなた、こんな風に見えてますよ」などと言ってはくれません。オッサン世代が他者からフィードバックをたくさん受けるのは至難の技ですが、受容的な雰囲気を醸し出したり、積極的に自分がどう見えているかを自分から聞いて回るなどの努力をしていかなければ、距離感を間違って、ハラスメントをしてしまうことからは逃れられないことでしょう。
文/曽和利光
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。


SHARE

次の記事を読み込んでいます。