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2018.01.26

ライフ

職場の20代に「結果出せ」と言ったら、「残業OKですね」と返された


職場の20代がわからないVol.6
30代~40代のビジネスパーソンは「個を活かしつつ、組織を強くする」というマネジメント課題に直面している。ときに先輩から梯子を外され、ときに同僚から出し抜かれ、ときに経営陣の方針に戸惑わされる。しかし、最も自分の力不足を感じるのは、「後輩の育成」ではないでしょうか。20代の会社の若造に「もう辞めます」「やる気がでません」「僕らの世代とは違うんで」と言われてしまったときに、あなたならどうしますか。ものわかりのいい上司になりたいのに、なれない。そんなジレンマを解消するために、人材と組織のプロフェッショナルである曽和利光氏から「40代が20代と付き合うときの心得」を教えてもらいます。
「職場の20代がわからない」を最初から読む

世の中は矛盾だらけ。若者は矛盾への鬱憤がたまっている

さて、今回のテーマは「矛盾」です。言うまでもなく世の中は矛盾だらけです。会社も職場ももちろん矛盾だらけです。上司から降りてくる指示を見ても、さまざまな矛盾を感じる若者は多いでしょう。
少し前に、サイボウズの広告のコピーがネットで大変話題になりました。曰く、「結果出せおじさんと、早く帰れおじさん……ふぅ(ため息)」「ノー残業、楽勝!予算達成しなくていいならね」など。「一体、どっちをすればいいと言うのか」「明らかに指示が矛盾してるじゃないか!」などのコピーが、日頃「数字も、時短も」と要求され鬱憤がたまっていた若者たちの共感を呼び、拡散につながったのだと思います。
 

「矛盾を両立させろ」と言われ続けてきたオッサンたち。

一方、オッサン世代は、この若者の感覚に違和感を覚える人もいるのではないでしょうか。我々世代は、「結果を出すこと」と「早く帰ること」のように、一見すると矛盾に見えるもの同士を「両立させろ」とずっと言われ続けてきたため、世の中はそんなものだと思っています。
我々の世代のビジネス書『ビジョナリー・カンパニー』にも、『「ORの抑圧」をはねのけ、「ANDの才能」を活かす』という言葉が出てきます。偉大な会社は、変化か安定か、低コストか高品質かといったような、相反する両極端を二者択一ではなく、両方を同時に実現させようとするという意味です。最近、某都知事が繰り返し使っていた、ヘーゲル哲学の「アウフヘーベン」という言葉もありました。
対立するものを、どちらかを取るのではなく、なんとか両立させるアイデアを考えるということです。昼食にカレーかうどんのどちらにしようと考えて、カレーうどんにする、というようなものです。オッサンは、矛盾慣れしているのです。
 

矛盾を両立できたのは、市場の成長という背景があったから

さて、この違いを、オッサンは辛抱強い、若者はダメと考えてはいけないと思います。というのも、オッサン達が矛盾になんとか対処することができたのは、戦後の高度成長からバブル景気までの、すべての矛盾を飲み込んでくれる市場の成長という背景があってのものだからです。「二兎を追うもの一兎も得ず」ではなく、二兎を追っているうちに市場が成長していって両方とも結局満たせてしまうようなことがあって、矛盾を解決しなくても良かったのです。
もちろん、本当の意味での「ANDの才能」「アウフヘーベン」による矛盾の解決をしてきた素晴らしいオッサン達もたくさんいたと思うのですが、実際にはほとんどの場合、矛盾を解決しないまま、厳しい二者択一としないまま、許されてきたにすぎないのではないでしょうか。むしろ、そういうオッサン達は、日本が成熟化していくに従って、今度は二者択一の厳しさにさらされているわけですが、結局それを若者に丸投げすることで、問題から逃げています。いわゆる「働き方改革」で生じているさまざまな問題などはその典型例でしょう。
 

これからは「トレードオフ」の時代。何かを犠牲にする勇気のほうが難しい

今でも、「ANDの思想」や「アウフヘーベン」が実現できれば、それに越したことはありません。素晴らしいことだと思います。しかし、環境は変わりました。今は、逆に、両立しがたい、矛盾する選択肢があった場合に、どちらかを捨てて、どちらかを取るという「トレードオフ」、つまり、何かを実現するために、何かを犠牲にする、捨てるという二者択一の勇気を持つことのほうが難しいこと、チャレンジしなくてはならないことに変化したのではないでしょうか。
それをうまくできているのはむしろ若者です。家庭と仕事をうまくやっていくために、飲みニケーションを捨て、伸びない給与で生活を支えるために物欲を捨て、と、オッサン達がいろいろ捨てられずどんどん追い詰められていく中、軽やかに自分の人生の目的を達成しています。上司として部下を持つオッサン達は、昔の感覚のままで「ANDの思想」だとか言っていないで、有限な若者の時間から、何をしなくてよくさせてあげるか、何を取り去ってあげることができるかを考えてあげるべきだと思います。
 
文/曽和利光
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。


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