2017.10.04
LIFE STYLE

「上司に相談します」は生産性で見て致命的だ 。「生産性が日本の1.5倍」ドイツ人に学ぶ

当記事は、「東洋経済ONLINE」の提供記事です。元記事はこちらから。

ドイツの働き方から学べる、仕事の生産性を上げるための大事な条件とは?(写真:Kzenon / PIXTA)

日本では長時間労働が取りざたされ、さまざまな働き方改革の提案がされるなか、その効果はなかなか見えてきません。一方、ドイツは「生産性が高い」として、日本とよく比較されます。

1時間当たり労働生産性を比較すると、日本42.1ドル、ドイツ65.5ドル(2015年)。1年間の平均実労働時間は、日本1719時間、ドイツ1371時間(2015年)

国土面積もGDP規模もほぼ同じ両国ですが、その違いはどこにあるのでしょうか。

ドイツで通算20年のビジネス経験を持ち、『仕事の「生産性」はドイツ人に学べ 「効率」が上がる、「休日」が増える』の著書がある隅田貫氏に伺います。

私がドイツで働いていた時のことです。

ある日、会社のポストに届いていた郵便物をオフィスまで持って上がって、「これ、届いていたよ」と秘書のデスクに置きました。私宛の郵便物があったので、気を利かせてほかの郵便物もすべてオフィスに持って行ったのです。

秘書に「ありがとう」とにこやかにお礼を言ってもらえるのかと思いきや、彼女は怒りました。

「これは私の仕事であって、あなたの仕事ではないでしょう」

これが、ドイツ人が認識するアサインメント(割り当てられた仕事)というものかと理解しました。

秘書にとっては、郵便物を持ってきてみんなに配るという業務がアサインメントに含まれているので、それが自分のやるべき仕事になります。それをほかの人が本人の断りもなくやってしまったら、越権行為になるのです。

私は慌てて、「ごめん、自分の郵便物があったから、ついでに持ってきたんだ」と釈明しようとしましたが、「ついでに」というニュアンスをドイツ語で表現するのが難しく、結局、平謝りするしかありませんでした。

私がドイツ人と一緒に働いてきた実感として、「ドイツ人は働きすぎない」人たちだと感じています。基本的に自分のアサインメントを遂行することには勤勉です。しかし、それ以上のことはあえて無理にやらないのです。

そして、このように「明確なアサインメントを意識すること」が、場合によって生産性を上げるためには重要なのではないか、と感じていました。

「働きすぎない」とはどういうことか

私は1985年から通算20年にわたり、ドイツで暮らし、ドイツ人と共に働いてきました。

ドイツはある意味で、日本ととても“近い”国です。地理的な距離は約1万キロメートルもありますが、国土面積はほぼ同じで、GDPでも日本が世界3位、ドイツが4位と、隣同士であることが多いのです。

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それだけではありません。どちらの国も第2次世界大戦後、敗戦国として、いわゆる焼け野原の状態からスタートしました。必死の努力で経済復興を遂げたことも、また、それ以降には、つねに自国通貨が強かったために、経済を質的に向上させなければならなかったことまで同じです。

しかし、もちろん「違い」もあります。

私がドイツにいた20年の間には特に、日本とドイツの違いは大きくなっていました。ドイツという国の力が、強くなったのです。

それは、両国の調査データからも見て取れます。OECD(経済協力開発機構)の調べによると、ドイツの労働時間1時間当たりで見た労働生産性は65.5ドル、日本は42.1ドル(2015年)。つまり、単純に比較すれば、ドイツは日本の1.5倍以上の生産性があるのです。

そんなドイツ人は、いったいどのような働き方をしているのでしょうか?

象徴的な例を挙げるとすれば、

・休暇は年に5~6週間分は取る
・日々の残業は限定的
・毎日、やるべき仕事を終わらせるとすぐに帰宅し、夕飯を家族で囲む

どうしてこれだけ余裕のある働き方ができるのか、しかも一定の成果を出せるのでしょうか。

国が産業の国際競争力を戦略的に育てているという前提はありますが、そのうえで国民一人ひとりに、日本と比べてはるかに「柔軟性」がある、ということが理由として挙げられます。意外に感じる人もいるかもしれませんが、言葉を換えれば「いい加減」、もっと言うと「完璧を求めない」(割り切っている)ともいえる態度を持っているのです。

要は「いつも100点を目指す」のではなく、「場合によっては70点でもいい」――そのメリハリこそが、効率化につながる。これが、ドイツが日本に比べて生産性が高い(投入労働時間が少ない)理由のひとつといえます。

思い切った「権限移譲」が必要なとき

ただ、単に「アサインメント」が決まっていれば、効率的に、スピード感を持った仕事のやり方ができるかといえば、そうではないと思います。

「フラットな組織」と「現場への権限委譲」が前提として必要です。

私がドイツの会社(メッツラー社)に勤務して、「仕事がしやすいな」と感じた点のひとつは、社員相互のヒエラルキーが限定的で、組織構造がフラットに近く、風通しが良いところです。

日本では上司と部下の上下関係、同僚同士でも年齢や入社時期などがとても重視されますが、ドイツ人に限らず一般に外国では無関係です。自分より年上だから、1年先輩だからといった理由で、へりくだったり、逆に威張ったりするということはいっさいありません。

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もちろん、TPOをわきまえて、大人として言うべきではない発言はしませんが、会議で自分の意見を言うのに、上だから、下だからという理由で躊躇はしません。比較的オープンに何でも言える雰囲気があるのです。

そのようなフラットな組織を持つメッツラー社では、個々の社員のアサインメントがはっきりしているだけではなく、そのアサインメントをこなすために「必要な権限」が与えられていました。

これが生産性を上げるための大事な条件なのです。

仕事のスピードはどう決まるのか

日本ではおなじみの「上司に相談してみます」は、ドイツでの経験ではほとんど聞いたことがありません。もちろん、大きな案件になると自分の一存では決められないことも出てきますが、任された決断を躊躇していては、顧客は言うまでもなく、同僚からの信頼も失います。

日本企業が海外企業と交渉するとき、担当者が即断即決できないために、ほかの外国企業に仕事を取られてしまうことがあるという問題点は、ずいぶん前から指摘されていました。さすがに、それでは負けっぱなしだと気づいた企業は、現場の担当者に権限を与えるようにしはじめているようですが、ほかの国に比べるとまだまだです。

大きな案件で権限を与えるのが難しいのなら、日常的な小さな案件で一人ひとりに権限を与えるところから始めたらいいのではないでしょうか。そうするだけでも、仕事のスピードが格段とアップするかもしれません。

メッツラー社では私も、任された範囲では「いちいち上におうかがいを立てる」ようなことはいっさいありませんでした。経費や対外決済、人事、総務、コンプライアンスなどについては、当然ながら独断を戒められていましたが、日常的な顧客対応などでは、相当な自由度が確保されていたのです。そして、その自由度が、モチベーションにもつながっているのだと思います。

ドイツの会社に勤務して意思決定のスピードが速いと感じるのは、決めるべき人が明確で、決して集団決定が前提ではないからだと思います。

それぞれが自分の責任に照らして決断をためらわないから、意思決定が早いのです。そして、決めて任せたからには、口出しはしない。たとえ「この顧客とは、この条件で契約を結んでほしくなかった」と思ったとしても、最初にそう指示を出していなかったのなら、部下の判断を尊重するしかありません。逆に、部下の決断を覆すようなことをしたら信頼関係が損なわれる可能性もあります。

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日本なら、平気で「なんでこんな条件で契約を結んだんだ。今すぐ、条件を再交渉してこい」と部下の判断を覆すこともあるでしょう。そして、「なんで事前にもっと相談しなかったんだ!」となったりもするのです。これでは上司も部下も生産性が上がりません。

部下に権限を渡せないのは、何かあったときに上司が自分で責任を取るのが嫌なのか、部下をそこまで信頼していないかのいずれかでしょう。それなら、最初から「この金額で決めてほしい」と指示を出しておけばいいだけです。

そういった権限をあやふやにしたまま部下に仕事を任せてしまうと、途中で何度も上司に確認したり、何度もやり直すことになったりして、結果として仕事のスピードを上げるのが難しくなります。

「会議の人数を減らす」だけで

日本は集団決定をしたがります。
会議が多いのも、ひとりで決定するのを避けて、大勢で決めたいから。ひとりで責任を負いたくないという事情もあれば、ひとりで決めるのを周りが許さないという事情もあるでしょう。社長がひとりで決めたら、「ワンマンだ」と批判されたりするのです。

しかし、「そうやって大勢で決めようとすると、とんがっていた意見がどんどん丸くなっていく」と、ある企業の元経営者が語っていました。だからその経営者が社長に就任してすぐに実行したのは、「会議の人数を減らすこと」だったそうです。

意思決定の人数を減らすことは、意思決定のスピードを上げるための最も有効な手段です。

会議の人数を減らすこと自体、各部署から猛反発を食らうのは想像に難くないでしょう。それでも、自分たち以外のカルチャーを学び、一人ひとりが主体的に半歩ずつでも企業カルチャーを変えようとしたら、いずれそれが大きなうねりになって、必ずいい方向に向かっていくと思います。

著者:隅田 貫(メッツラー・アセットマネジメント シニアアドバイザー)
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記事提供:東洋経済ONLINE

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