37.5歳のもしも……家族に介護が必要となったら Vol.8
2017.09.24
LIFE STYLE

日本の認知症対策は先進国と比べて遅れている、は本当か

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あまり考えたくはない未来の「もしも」が、人生には必ずある。夫婦のこと、子どものこと、両親のこと、会社のこと、健康のこと、お金のこと、防災のこと――心配しだすとキリがないけれども、見て見ぬフリをするには、僕たちもそう若くはない。今のうちから世の中の仕組み、とりわけ社会保障(セーフティネット)について知っておくことは、自分の大切な人たちを守るためにも“大人の義務教育”と言える。37.5歳から考える未来の「もしも」――この連載では「親の認知症」について全6回で考えていきたい。

日本の認知症対策は、どのように進化してきたのか。その歴史を振り返る

親が認知症になったときに、日本ではどんな助けがあるのか。それを理解するためにも、日本の認知症対策の“これまでの歩み”を知っておくと良いと思います。できるだけ専門的ワードを使わず書いてみますので、お付き合いください。

日本ではかつて「認知症」は「痴呆」や「呆け」と呼ばれていました。1972年(昭和47年)に、有吉佐和子さんの小説『恍惚(こうこつ)の人』がベストセラーとなり、社会的関心が急速に高まりましたが、当時は認知症患者への支援が整っておらず、適切な治療やケアが受けられずに“処遇困難者”として疎んじられた時代でもありました。「呆け老人は家では面倒がみれない」からと、精神病院や閉鎖病棟に入院させられ、薬物による行動制限や身体拘束を受けた人も多かったのです。

1980年に「呆け老人をかかえる家族の会(現在は、認知症の人と家族の会)」が発足され、認知症を介護する人たちが集い語り合える場が出来ます。国もようやく重い腰を上げ、1986年に痴呆性老人対策本部を設立。また少人数での共同生活でケアを行うグループホームが国内で初めて出雲に誕生し、少しずつ認知症高齢者対策が具体化されていきます。

2000年には介護保険制度がスタートし、それまでの市町村が一方的に介護が必要かどうかを決める措置制度から、「高齢者の尊厳と自立を支援する」「利用者が自分でサービスを選べる」「社会全体で高齢者の介護を支える」といった内容に大きく転換しました。それに伴い、認知症高齢者向けのサービスも増えていきます。2004年には「痴呆症」から「認知症」への呼称変更が行われ、2008年に「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」、2012年に「認知症施策推進5か年計画(通称:オレンジプラン)」、2015年に「認知症施策推進総合戦略(通称:新オレンジプラン)」を公表。この流れだけみれば、日本では着実に認知症対策が進んでいる――ように見えます。

しかし一方では「先進国と比較すると、日本の認知症対策は遅れている」と厳しい指摘もあるのです。

日本は先進国で最も認知症高齢者数が多いのに、フランスから14年も遅れている

日本には、先進国の中で最も多い、約460万人の認知症高齢者がいます。そんな日本で認知症対策が国家戦略として明確に位置づけられたのは、2015年の「新オレンジプラン」とされています。「新オレンジプラン」の大きな特徴は、“病院ではなく、住み慣れた家や地域で暮らし続けることができる社会”を目標としていることです。しかし、住み慣れた家や地域で認知症ケアが受けられる、というのは、欧米諸国ではすでに当たり前の概念でした。

例えばフランスでは、認知症高齢者が約85万人います。国家戦略として認知症対策「プラン・アルツハイマー」が始まったのは、2001年。日本より14年も早い。さらに2008年にはサルコジ大統領が5年間で1800億円を予算化。認知症高齢者一人当たりに換算すると、実に日本の40倍を投じたと言われています。

約70万人のイギリスは2009年、約25万人のオランダは2004年、約27万人のオーストラリアは2006年に、それぞれ国家戦略として認知症対策を位置づけました。アメリカでも2011年に「国家アルツハイマープロジェクト法」が策定されています。

欧米諸国の国家戦略の成果は、病院に入院している認知症高齢者率の低さに表れています。日本が15%と突出して高い中、フランス・オランダはほとんどなし、イギリスは1%以下。さらに日本の認知症高齢者は長期入院が多く「病院に閉じ込めている」と批判の対象となっています。

世界のスタンダードは「認知症を抱えながらも地域で暮らし続けられるよう支援すること」。日本も2015年の新オレンジプランをきっかけに、2025年までに世界のスタンダード、もしくはそれ以上の“地域包括ケアシステムの構築”を目指しています。専門用語を使わない、といいながら、最後は難しい言葉が並んでしまいましたが、目指すゴールは私たち自身が、「近所に認知症高齢者がいることを自然に受け入れられる」「自分ができる範囲で支援をする、見守る」という行動ができるかどうか、なのです。

次回は「親が認知症になったときに、あなたは周囲に告白できますか?」をテーマにしたいと思います。

※参考文献: ・認知症サポーター養成講座標準教材(全国キャラバン・メイト連絡協議会) ・認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(厚生労働省) ・認知症国家戦略に関する国際政策会議(東京都医学総合研究所、厚生労働省)

取材・文/藤井大輔
リクルート社のフリーマガジン『R25』元編集長。R25世代はもちろん、その他の世代からも爆発的な支持を受ける。2013年にリクルートを退職し、現在は地元富山で高齢者福祉事業を営みながら、地域包括支援センター所長を務め、住民向けに認知症サポーター講座を開催している。主な著書に『「R25」のつくりかた』(日本経済新聞出版社)

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