37.5歳におしえたいこと Vol.3
2017.09.15
LIFE STYLE

「あと5年頑張れたら」69歳のガンダム総監督・安彦良和が伝えたい思い

価値観のコリをほぐす“読むサプリ”
37.5歳におしえたいこと Vol.4
気持ちはまだまだ若いが、そろそろ成熟への一歩も踏み出す世代。それが37.5歳。だからこそ若者の間で流行っていることを知っておきたいし、先輩には引き続きアドバイスを頂戴したい。自分の「好きなモノ」だけでアタマの筋肉がカチコチにならないよう、同世代以外の著名人のみなさんに聞いてきた。「37.5歳におしえたいこと、ありますか?」

人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。

『機動戦士ガンダム』冒頭で語られる有名なナレーションの一節だ。いわゆるファーストガンダムの誕生から30年以上が過ぎ、その前日譚として描かれるのが、完全新作アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』シリーズである。約半年に1度のペースで劇場で上映され、この度上映された「激突 ルウム会戦」で5作目を数える。総監督は、キャラクターデザインと作画監督としてファーストガンダムに携わった“レジェンド”、安彦良和先生(69歳)だ。

アニメ制作の現場からは長く離れていたが、当時の“勘”は今も健在

本作では、ファーストガンダムの舞台である一年戦争の端緒となった軍事衝突「ルウム会戦」が描かれる。モビルスーツによる戦闘シーンもさることながら、突然の事態に巻き込まれ、翻弄される市井の人々も克明に描かれる。

「コミックを描いているときもそうでしたが、戦争の悲惨さは、しっかり伝えないといけないと思いましてね。『この世界の片隅に』という名作も見ましたが、そういうことをしっかり描くアプローチは正しいと思うんですよ」

『THE ORIGIN』シリーズは、ガンダム20周年の節目に安彦先生自ら手がけた同名のコミック作品が漫画原作。つまり原案であるアニメから、漫画原作となるコミック、さらにそのアニメ化の総監督まで、1から10まで手がけている。コミックとアニメ版を見比べると再現性が極めて高いことがわかるが、それは当のご本人が一連の作品にしっかり携わっているがゆえのこと。

「絵コンテは7〜8割を僕が切っていますが、今回の山場となる艦隊戦のシーンはカトキハジメがやっています。いろんなアイデアを出してくれたので、『じゃあやって』ということになって」

カトキハジメ氏(53歳)はメカニックデザイナーで、ガンダム作品にも多く携わっている。緻密で様式美に溢れた作風にはファンが多い。モビルスーツが補給艦からカタパルトを使わずに出撃するシーンなど、新たな解釈が盛り込まれている。

「描写はCGに助けられていますよね。もう随分アニメ制作の現場から離れていたので、テクニカルなところはわかりません。完全にお客さんですよ。ただ案外忘れていなかったのは、絵コンテを切ったりタイムシートを読んだりということです」

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ガンダムを、『THE ORIGIN』として作り直すことが自分の努め

ガンダムの誕生に関わったレジェンド中のレジェンドだ。きっと、安彦先生に関わるスタッフは、緊張しまくりに違いない。

「どうですかねぇ(笑)。サンライズ(アニメ制作会社)に行くのは打ち合わせくらいで、制作進行が原画を自宅に持ってきてくれるんです。僕の本業は漫画家だけど、原画が気になるから第一優先でチェックして、また漫画の執筆に戻る。次の日チェックした原画を取りに来てくれるわけです。このスタイルはすごく気に入っているんですよ」

こうして作られた本作は、本編が80分を超える作品になった。これまでの4作は60分強だったが、今回は「フォーマットの縛りが取れた」とのことで、ルウム会戦のイントロダクションや、見目麗しい女性キャラクター、クラウレ・ハモンによるピアノの弾き語りをフルコーラスで収録するなど、「とても映画的なアプローチがとれた」という。こういった“こだわり”の数々は、実は安彦先生の長年にわたる思いが結実した成果だ。

「ずっと悔やんでいたのは、シリーズの根幹にあるファーストガンダムが正視しがたい状態で、30年以上、人目にさらされてきたことです。ガンダムがひとつのカルチャーになって、枝葉を伸ばしてさまざまな作品に派生した今、オリジナルをもう一度作り直したい。それが自分に課せられた努めだと思うんです」

ファーストガンダムは制作当時、潤沢な予算や制作期間が与えられず、半ば突貫で仕上げられたものなのだ。過酷さから倒れた安彦先生は、後半に制作の最前線を離れざるを得なかった。ゆえに安彦先生、37.5歳におしえたいことは、当時の忸怩たる思いを払拭するために作った本作そのもの。これからガンダムを知るならまずは『THE ORIGIN』シリーズだし、今から見ても遅くはないのだ。だから当然、前日譚のみならず本編までアニメ作品としてキッチリ世に出したいと考えている。

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やりたいことをやるためには、我慢が必要

「本編にあたるところまでやるべきだと、常に言い続けています。『THE ORIGIN』は他ならぬ当時のサンライズ社長からの熱い要望で描き始めたので、しっかり映像化までしないといけない……と言っていい、厚かましい根拠が僕にはあるんです」

だが、御年69歳。12月で70歳を迎える。話しぶりもセンスも筆致もまったく衰えを感じさせないが、それでもファンとしては安彦先生の健康が心配だ。とくにアニメ制作の現場はハードなことは、他ならぬ先生自身がよく知っている。

「あと10年現役でいようとするのは虫がいい話だから、あと5年頑張れたらできると思っています。どの程度のボリュームのものなら作れるのかを、今考えていますよ。片っぽで本業の漫画家も未練たらしくまだ抱えていますけど」

生涯現役で成し遂げたい仕事をする。この精力はぜひ見習いたい。

「若い人とまだ仕事が一緒にできるのは幸せだと思います。やりたいことをやってきたのが、精神衛生上よかったんだと思いますよ。それは最高の贅沢ですが、そのスタイルを作るまでって、結構大変なんですよね。路頭に迷うピンチはいくらでもあるし、迷いきったら浮かんで来られない。偉そうなことをいうようですが、好きなことをやるというワガママをいうためには、今日我慢しなさいということです。我慢して何らかのパフォーマンスを発揮できれば、明日はもっと自己主張ができます」

安彦先生はおそらくその高みに立てたわけだが、そこで終わらない。仕事に対しては、あくまで貪欲だ。

「仕事をしながら死ぬのは理想だと思いますよ。でも、『あの人は死ぬまで仕事して幸せだった』という話を聞きますが、本人としてはもっとやりたかったんじゃないのかな、って思いますけどね(笑)」

【PROFILE】

安彦良和
1947年北海道生まれ。1970年虫プロにアニメーターとして入社。独立後はキャラクターデザインや演出、監督として活動する。1979年『機動戦士ガンダム』を手がける。1989年、漫画家に転身し多数の作品を生み出す。2001年『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を連載。現在は『ヤマトタケル』(角川書店)を執筆中。15年、アニメ『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』総監督。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』(Blu-ray&DVD、11月10日(金)発売)は大ヒット上映中。世界の総人口の半数を死に追いやり、一年戦争の火ぶたを切った“コロニー落とし”、そして人類史上初めての宇宙における大規模艦隊戦「ルウム会戦」が描かれる。

吉州正行=取材・文 林 和也=撮影

# インタビュー# 一年戦争# 機動戦士ガンダム
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