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2017.08.29

ライフ

【ニューウェーブ インタビュー】是枝裕和 〜ホームドラマで培った力が、初めてのサスペンスを作らせた〜

知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。

【是枝裕和】

1962年、東京都生まれ。映画監督。’95年に『幻の光』で映画監督デビュー。同作ではベネチア国際映画祭で「金のオゼッラ」賞を受賞し、注目を浴びる。近年は『そして父になる』『海よりもまだ深く』などホームドラマを多く監督。最新作『三度目の殺人』ではサスペンスに挑戦した。
カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した『そして父になる』をはじめ、海外でも高い評価を受ける是枝裕和監督。最近は家族を題材にした作品が続いていたが、新作『三度目の殺人』で初めてサスペンスに挑戦した。
そのきっかけは、司法制度に対する疑問だった。「何度か裁判を傍聴したことがあるんですけど、裁判官が寝ていたり、弁護士が裁判所で初めて資料を読んでいるようだったり、ほとんど流れ作業でやっているんですよ。こんな状況で、人が人を裁けるのだろうかと思うことも多くて」
映画の主人公である重盛(福山雅治)は、そんな流れ作業に疑問を持たずに仕事をこなしてきた弁護士。しかし殺人事件を自供した三隅(役所広司)の弁護を担当することになり、しだいに謎めいた三隅の行動に翻弄されるようになっていく。この福山と役所の息詰まる共演は、本作の大きな見どころだ。
「役所さんは日本でいちばんうまい役者だと思いますね。こっちの想像を超えた演技をするので、僕らは役所さんの一挙手一投足を見逃さないようにするのに必死でした。そんな役所さんの演技を受ける福山さんもいい。彼は黙っているときの表情がいいんです。色っぽいし、胸の中でうごめいているものが見えてくる」
はたして三隅は犯人なのか? 重盛と同じように観客も事件の闇に迷い込み、裁判の判決が出たとき、人が人を裁くことの難しさを痛感させられる。そして「真実がわかって終わる話にはしたくなかった」という本作 は、単なる謎解きで終わらない、是枝流のサスぺンスに仕上がっている。
「最近、ホームドラマの制作が続いていたんですけど、それによって小さな描写を積み重ねる
“人間のデッサン”力を鍛えたいと思っていました。今回はその取り組みを活かせたと思います。人間が描けていないと、サスぺンスはあらすじを追うだけの話になりやすいですからね」
思えば、当初は作家性が強いイメージのあった是枝が、ホームドラマを続けて撮ったのは意外に思えた。が、それが彼の新境地を切り開くことに。そして今回のサスぺンスへの挑戦。そこにはどんな想いが秘められているのだろう。
「世間で僕は作家性の強い監督と思われていて、自分でもそんな気がしていたんです。けれど、そのイメージにとらわれていたら自分の世界を狭めてしまう気がしたんです。それではいけないと。今は自分を外に向けて開いている最中ですね」
世界的に高い評価を得ても攻めの姿勢を忘れない是枝監督。『三度目の殺人』は挑戦することの大切さを教えてくれる作品でもある。

『三度目の殺人』


監督、脚本、編集:是枝裕和/出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず他/配給:東宝 ギャガ/9月9日(土)よりTOHOシネマズスカラ座ほかにて全国ロードショー
http://gaga.ne.jp/sandome/
2013年公開の『そして父になる』以来、4年ぶりに是枝裕和と福山雅治がタッグを組んだ作品。弁護士と30年前にも殺人前科がある容疑者(役所広司)を軸に展開する心理サスペンス。是枝作品に初出演となる役所広司の演技も必見。
菅野ぱんだ=写真 村尾泰郎=取材・文


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