2017.07.26
LIFE STYLE

「苦手なヤツ」と何とかうまくやっていく方法  〜ジャイアンはなぜ映画だと頼りになるのか〜

当記事は、「東洋経済ONLINE」の提供記事です。元記事はこちらから。

「苦手なアイツと一緒に仕事しないといけないのか…」と悩む人に(写真:kikuo /PIXTA)

藤井 英雄:精神科医
瞑想歴40年。マインドフルネス瞑想歴25年。潜在意識の法則やマインドフルネス瞑想、認知行動療法、さらには東洋医学、キネシオロジーなどを活用した画期的なメンタルヘルスプログラム「心のトリセツ流幸せの作り方」を開発。

子どもの頃、『ドラえもん』の映画を見ながら、こう思ったことはないだろうか?

「ジャイアンが違う」 「なんか頼もしい……」

これが普段は理不尽を重ねる、あのジャイアンなのかと。のび太やスネ夫たちに対して横暴を繰り返し、不定期開催のリサイタルで忌み嫌われていたあの男が、映画になると、なぜこうもカッコよく変貌を遂げてしまうのか。

映画というものは、そもそもクライマックスとエンディングが用意されている。ドラえもん、のび太をはじめキャスト全員がひとつの目標に邁進するとき、友情はひとつに束ねられ固い信頼で結ばれる。日常のたわいもないけんかよりも、もっと大きな敵が現れたとき、「敵の敵は味方」とばかりに心が通い始める。人間関係はこんなひとつの出来事で、根底から刷新されてしまうことがある。

この例えから学ぶことは実に多い。「目標が人間関係を刷新する」ということだ。

 

ひとは他人に対してレッテルを張りたがる生き物

人間関係――特に特定の他人に対するイメージは、定着するとなかなか変えられない。嫌な上司を、ある日途端に好きになることはまずないだろう。接点が少なければそのまま「嫌な上司」のまま固定されてしまうに違いない。恐妻家が亭主関白に一変することもなければ、気の障る向かいのイヤミな奥様が突然、人格者になることもない。私たちは他人のイメージを固定したがり、それを保持しようとする傾向がある。自分を傷つけかねない相手からは距離をとり、つねに身を守っている。

だから人間関係は難しい。いや正確にいうと、「人間関係を変えていく」ことは難しい。

人間関係が試練になるときとは、主に職場で「嫌なヤツ」と協働しなくてはならなくなったときなど、逃げられない信頼関係を押し付けられたときだろう。なにも接点がなければ「嫌なヤツ」のまま、自分のなかで固定させておけばいいのだが、仕事とあってはそうはいかない。

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いくらこちらが、うまくやっていこうと心を開いてみても、相手はウンでもなければスンでもなかったり、相も変わらずの「一言多いしゃくに障るヤツ」であったりするかもしれないのだ。ひとたびその経験を味わってしまえば、「やっぱ無理……」と心を閉ざさざるをえなくなってしまい、協働は失敗に終わってしまう。

マインドフルネスという仏教由来のメソッドがはやっている。Googleなどの研修にも導入されたことで、日本に逆輸入されてきた。

マインドフルネスとは簡単にいえば、心の平穏を保ち続ける技術。ごちゃごちゃとした自分の嫌な気持ちを客観視する「心の整理法」だ。

それを人間関係の改善に役立てられないだろうかと考えて生まれたのが、「マインドフルコミュニケーション」である。詳しくは、拙著『マインドフルネス 「人間関係」の教科書』にまとめたが、人間関係のこの難しさを再構築し直すのに唯一の方法であると感じている。

映画のジャイアンの例えのように、人間同士の関係を激変させるには「敵の敵は味方」の比喩を肯定的に用いてみること。つまり、ふたりの間に、同じ目標を設定し直すことである。その目標になるのが、「お互い理解しあおう」というゴールなのである。

「なんだ、そんなことか……。それができないから困っているのに」と思われるに違いない。ここからが重要だ。先ほど例に挙げたように、こちらが心を開いて接しようとしたとき、相手がいつもどおりの、無礼な対応をしてくるとする。このとき、2人は言わば「敵と敵」のままである。さてどうするか。

 

同じ目標を生み出す「アサーション」と「傾聴」のチカラ

「敵と敵」が同じ目標(お互い理解し合おうという気持ち)を持つための第一歩は、自分の正直な気持ちを伝えることである。相手が自分にとって都合の悪い言動に及んだとき、思わず相手を非難したくなるものだが、そこをグッとこらえて、まず伝え方を変えてみる。ポイントはこの3つである。

・私を主語にする
・直接的な影響だけを述べる
・客観的な事実だけを伝える

たとえば職場で、こともあろうか、相手がたばこを吸い出すとする。禁煙じゃない場所ならいいかもしれないが、あなたは大の嫌煙家、さてどうする? 思わず非難の言葉が口から出てきそうになる。

「なにやっているんだ! 僕が嫌煙家なのは知っているだろ! お前は思いやりがない人間だな!」

そんな気持ちをグッとこらえて、

(1) 私を主語にして
(2) 自分への直接的な影響と
(3) 「今、ここ」の客観的な事実だけを述べる言葉に変えてみる

するとこうなる。

「僕は煙が苦手で、のどが痛くなるし、においが服について洗濯しても取れなくて困っているんだ」

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「アサーション」とは、相手の反発を避けながら自分の正直な気持ちを率直に伝えるスキルのこと。まずこちらが心を開いて、「自分が困っているんだ」ということだけを正直に伝えてみる。そのとき初めて相手の心の中に、あなたの話を聴いてみようか……という気持ちが芽生え出す。

お互いが同じ目標へ向き直す、はじめの一歩を作るのが「アサーション」の役割だ。

話し手の言葉に耳を傾けて、話し手を理解したとき、聴き手は話し手を受け容れて、初めて共感できるのです。すると、聴き手に共感された話し手は、批判や非難なしに話を聴いてもらえる安心感と、話を聴いてくれる相手への信頼感をもとに話を続けることができます。これを「傾聴」と呼ぶ。

「お互い理解し合おう」という目標を共有することが難しいのは、このはじめの一歩が踏み出せないから。それさえできれば、人間関係においての目標の共有に道が開かれる。

 

マインドフルネスが、閉ざした心を開く勇気をもたらす

そうだといっても、アサーションは、相手の言動を修正しようとする行為にほかならない。「正直に言うと嫌われるかもしれない!」「もめ事が起きるに違いない!」という不安の気持ち、ザワザワとした摩擦を予感する。

そこでマインドフルネスだ。ありのままの自分の気持ちを客観的に見詰め直す。「私は、正直に言うと、相手とぶつかるかもしれないと不安になっている」という自分の心の声を聴くことで、冷静さと感情の整理がもたらされる。

この自己客観視こそマインドフルネス。自分がとらわれていたネガティブ思考を手放し、自由自在に生きるチャンスを、マインドフルネスは与えてくれる。こうして頭の中を整理すると、自分が勝手に増幅していたおそれの感情が解放され、「正直に伝えても大丈夫だろう」「もしかすると何かのきっかけになるかもしれない」といった感情が芽生えてくる。そのとき、お互いの心を通わせる「正直な気持ちの表現」が初めて可能になる。

「お互い理解し合おう」という目標設定は、この一歩から始まる。共感の会話には、やがて共感の会話が返ってくる。あとは、その共感の会話の中で、相手を非難せずに耳を傾け合えば、信頼関係が少しずつ積み重なってくる。

人間関係のあり方を180度転換する「はじめの一歩」さえ踏み出せれば、あなたが思う嫌なヤツも、明日は味方になるかもしれない。

著者:藤井 英雄 (精神科医)
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記事提供:東洋経済ONLINE

# アサーション# マインドフルネス# 人間関係# 東洋経済
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